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今日から僕は 158

 やはりカウラの部屋は士官用だけあり誠のそれより一回り大きい。

 室内には飾りなどは無く、それゆえに見た目以上に広く感じた。

「とりあえずここでいい」 

 カウラはそう言うとベッドの上に腰掛けた。誠は事務用の椅子に座った。

 机の上には野球のボールが置かれている。そこには何本か指を当てる基準にするように線が引かれていた。

「これで練習しているんですか」 

 とりあえず切り出す話題が見つからない誠は、ボールを手に当てながらそう言った。

「アンダースローだとコントロールが命綱だからな。それに初めて2年だ。基礎体力には自信があるが技術的にはまだまだだ」 

「この握り。シンカーですね」 

 誠がボールを握って見せると、カウラは少しばかり寂しい笑顔を浮かべた。

「ライズボールとストレートとシュートじゃあ菱川重工豊川には勝負にならないからな。春は二回で八点取られてKOだ」 

 誠がボールの握りを確かめている様を見て、カウラは寂しそうに呟いた。

「あそこはそのまま春の都市対抗で決勝まで行ったんですよね。まあ東都電力に負けましたけど」 

「保安隊は予選は同じブロックだからな。三回戦くらいに当たるようになっている」 

 遠くを見るような目をするカウラ。

 今年もドラフト上位指名が確実な強力打線が武器の菱川重工豊川相手に投げる自分の姿を想像している誠。

「また投げるのか?」 

 カウラは静かにたずねた。

「肩はまだ完全では無いですが、行ける所まで行くつもりですよ」 

「そうか」 

 ボールを誠の手から受け取ると、カウラは何度かシュートの握りをして見せた。

 眺めの白い肌の光る右手の指が描かれた線の上に並んでいる。

「少し疲れた。もう大丈夫だから帰って良いぞ。西園寺が心配する」 

 そう言うとカウラはそのままボールの握りを何度か確かめた後、横になった。

 誠は静かに立ち上がり、ドアのところで立ち止まる。

「お休みなさい」 

「ああ」 

 優しく返すカウラ。誠はそのまま部屋を出た。廊下が妙に薄暗く感じる。エレベータが上がってきていたが、構わずハンガーに向かうボタンを押した。

 エレベータが開くとそこには要、アイシャ、サラ、島田、そしてリアナが乗っていた。

「あのー。何してるんですか?」 

 少しばかり呆れて誠は口走っていた。



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