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155/167

今日から僕は 155

「はいれす!わたひは!その!」 

 またカウラの足元がおぼつかなくなる。仕方なく支える誠。

 エメラルドグリーンの切れ長の目がとろんと誠を見つめている。

「うぜえよ!酔っ払い。さっさと話せ!」 

 カウラから奪い取ったグラスにラム酒を注ぎながら、苛立つ要。しかし、誠から離れたカウラの瞳がじっと自分を見つめている、自分の胸を見つめている事に気づくと、要はわざとその視線から逃れるように天井を見てだまって酒を口に含む。

「このおっぱい魔人が神前少尉をたぶらかそうとしれるのれあります!」 

 思わず噴出す要。

 何故か同調して頷くアイシャ。

「たぶらかすだと!なんでアタシがそんな事しなきゃならねえんだ?まあ、こいつが勝手に、その、なんだ、あのだな、ええと……」 

「たぶらかしてるわね」 

 ピンクの髪をかきあげながら、ビールを飲み干すとパーラが言った。その一言に鍋を見回ってきていた島田とサラも頷いている。

「テメエ等!無事に地面を踏めると思うなよ!」 

「だって事実じゃないの?どう思う正人?」 

「俺に振るな」 

 サラと島田は要のタレ目の中に殺意を感じて、この場に来た事を後悔している様に見えた。

「じゃあ聞くわよカウラ。この腕力馬鹿と神前少尉がくっつくとなんかあなたにとって困る事があるわけ?」 

 明華はいたずらっぽく笑うとカウラにそうたずねた。

 マリアの笑顔も状況を楽しんでいる感じだ。

 誠は助けを呼ぼうと嵯峨達のテーブルを見る。

 鍋を楽しもう、隣のどたばたを肴に。そんな表情の二人。嵯峨と明石は視線は投げていないものの、口に猪肉を頬張りながら、誠たちのテーブルの動静を耳で探っているようだった。

「それはれすね!西園寺のような暴力馬鹿に苛められると、誠がマゾにめざめるのれす!そうするとアイシャが噂をながすのれす!困るひろはわらしなのれす!」 

「そいつはまずいなあ」 

「そうですなあ」 

 嵯峨と明石は完全に傍観モードで相槌を打つ。

「どう困るの?」 

 一方、明華は笑いながら理性の飛んでるカウラにけしかける。

 誠は時々バランスを崩しそうになるカウラを支えながら心の中で叫んでいた。

『誰か止めて!』 

 しかし誰も止めるつもりは無い。カラオケが始まり、リアナお得意の電波な演歌が始まる。

 リアナに半分脅迫されただろう技術部員が、神妙な面持ちで苦行が終わるのを待っている。それでもまだカウラの演説は続く。

「わらしは!見過ごせないのれす!誠君がタレ目オッパイの下僕におちれ行くをの見過ごせないのれす!ですから大佐殿!」 

 また急にカウラは直立不動の姿勢をとる。

「だからなあに?」 

 さすがに飽きてきたのか、投げやりに明華がたずねる。

「こういう状況で何をするべきか、それをおしえれいららきたいのれす!誠!わらしはなにをしららいいのら!」 

 また仰向けにひっくり返りそうになったカウラを支える誠。その誠の頭をぽかぽかとこぶしで殴るカウラ。

 呆れるものの、次のカウラの絡み酒の標的になる事を恐れて退散するタイミングを計っているパーラ、サラ、島田。

 誠の沈黙に苛立っている要とアイシャ。 

「そりゃあ、愛って奴じゃねえの?」 

 ボソッと呟いた嵯峨。その場にいた誰もが嵯峨の顔を見る。

 つまらない事を言ったなあ、と言う表情を作る嵯峨。他人の振りをする明石。

 そして、また直立不動の姿でかかとを鳴らして敬礼したカウラに全員の視線が集中した。



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