今日から僕は 149
「どうだ?ここの居心地は」
野菜ジュースを取り出し口から出しながらカウラがそう尋ねた。
「いつもこんな感じですか?」
誠は隣に座ったカウラの緑の髪を見ながら缶コーヒーを啜る。
「甲二種出動は、部隊創設以来二回目だ。ほとんどは東都警察の特殊部隊の増援、同盟加盟国の会議時の警備の応援、災害時の治安出動などが多いな。もっとも、最近は東都警察の縄張り意識が強くなってきてひどい時はネズミ捕りや路駐の摘発なんてことしかしないこともあるがな」
そう言いながら野菜ジュースのふたを開けるカウラ。
エレベータはひっきりなしに食堂とハンガーの間を往復し続ける。
「何してんだ?お前って・・・カウラ!」
コンロを抱えた要に見つかった二人。誠は思わず要から目をそらした。
「カウラ……テメエ、また何か企んでるな?」
「私が何を企んでいると言うんだ?」
「だってそうじゃないか。人がこうして汗を流して宴会の準備をしているのに……」
「それは許大佐の指示だろ?」
「う……」
腐っても軍と同等の指揮命令系統である。上官の名前を出されたら逆らえるはずも無い。
「それにまだ誠の体調は本調子ではない、小隊長として彼を見守る義務がある」
筋が通っているものの何故か納得できない、そんな表情を浮かべる要。
「それとも何か?代わってもらいたいとでも言うのか?」
カウラの一言。要の顔が急に赤くなる。
「馬鹿野郎!何でアタシがそんなことしなきゃならねえんだ!」
「そうか。じゃあ消えろ」
淡々と要をあしらうカウラに、要はさらに切れそうになる。
「西園寺さん!あとつかえてるんですけど」
誠が出撃時に対応した幼い顔の二等兵、西高志がいつ切れてもおかしくないとでも言うような表情の要に声をかける。
「うるせえ!ジャリ!これ持ってハンガー行け!」
既に椅子を持っている上に要からコンロを持たされてよろける西。隣の兵長が気を利かせてコンロを受け取ってエレベータに乗り込む。
「おい、カウラ!前からオメエのことが気に入らなかったんだけどな。今回のことで分かったよ。アタシはテメエのことが気にくわねえ!」
「ほう。同感だな。私も西園寺の態度が非常に劣悪であると言う認識を持っているわけだが」
「面白れえじゃねえか!勝負はなんにする?飲み比べじゃあアタシが勝つのは決まってるから止めといてやるよ」
「そういう風にすぐ熱くなって喧嘩を売る隊員は私の小隊には不要だ。ちょうどまもなく胡州の領域を通過する。そのまま実家に帰っておとなしくしてろ」
「何だと!」
いつでも殴りかかれると言う状態で叫び続ける要、それを受け流しつつ明らかに反撃の機会を覗うカウラ。
誠は自分が原因である以上どうにかすべきだと思ってはいたが、ニヤつきながら遠巻きに見ている技術部員とブリッジクルーの生暖かい視線を感じながら黙り込んでいた。




