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今日から僕は 13

 歓迎会の第一回がある。そう言われて誠はカウラの赤いスポーツカーに乗せられて繁華街の駐車場まで連れて来られた。同乗することになった要は乗っている間、きつく締め上げられたサスペンションの調子に文句ばかりたれていた。

「……ったく何でアタシがカウラの車で来なきゃなんねえんだよ!」 

 要はそう言うとカウラの低い座席から降りた。誠は後ろの席で身を縮めて周りを見渡した。地方都市の繁華街の中の駐車場。特に目立つような建物も無い。

「貴様が吉田少佐をけしかけてレースなどするからいけないんだ」

 運転席から降り立ったカウラは挑発するように要を見つめる。黒いタンクトップに半ズボンと言うスタイルの要はにらみ返して唾を飛ばしながらカウラに食って掛かる。 

「テメエもあんな口車で乗せられたらほいほい勝負受けるくせに……って新入り!いつまでそこで丸まってるんだ?」 

 誠は頭をかきながら二人を眺めていた。

「西園寺がシートを動かさなければ彼は降りられない。そんなことも分からないのか?」

 赤いキャミソール姿のカウラが噛んで含めるように要に言った。 

「すいません……」 

 誠は照れながら頭を下げる。その姿を見た要はめんどくさそうにシートを動かして誠の出るスペースを作ってやった。大柄な誠は体を大きくねじって車から降り立った。

 笑顔でその姿を見つめるカウラ。そして、わざと誠から目を反らしてタバコに火をつける要。

「じゃあ、行くか?」 

 そう言いながら要は二人を連れて歩き出した。

「歓迎会って……なんかうれしいですね!ありがとうございます」 

 無表情に鍵を閉めるカウラにそう話しかける。ムッとするようなアスファルトにこもった熱が夏季勤務服姿の誠を熱してそのまま汗が全身から流れ出るのを感じた。

「それが隊長の意向だ。私はそれに従うだけだ」 

 そうは言うものの、カウラの口元には笑顔がある。それを見て誠も笑顔を作ってみた。

「何二人の世界に入ってるんだよ!これからみんなで楽しくやろうって言うのに!それとまあこれから行く店はうちの暇人たちが入り浸ることになるたまり場みたいな場所だ。とりあえず顔つなぎぐらいしといた方が良いぜ?カウラ!ったくのろいなオメエは!」 

 急ぎ足の要に対し、ゆっくりと歩いているカウラ。誠はその中間で黙って立ち止まった。

「貴様のその短気なところ……いつか仇になるぞ?」

 そう言うとカウラは見せ付けるように足を速めて要を追い抜いた。 

「う・る・せ・え・!」 

 要はそうそう言うと手を頭の後ろに組んで歩き始める。駐車場を出るとアーケードが続くひなびた繁華街がそこにあった。誠は目新しい町に眼をやりながら一人で先を急ぐカウラとタバコをくわえながら渋々後に続く要の後を進んだ。

「あそこのみせだって……。またあの糞餓鬼が待ってやがる……」 

 あまさき屋と書かれたお好み焼き屋の前に箒を持った女子中学生が一人で要を睨み付けていた。

「おい、外道!いつになったらこの前酔っ払ってぶち壊したカウンターの勘定済ませるつもり……?」 

 夕方の赤い光が白いTシャツ姿の少女を照らしている。誠は少女と視線が合った。

 少女はそれまで要に向けていた敵意で彩られた視線を切り替えて、歓迎モードで誠の顔を見つめる。

 そしてカウラを見つめて、さらに店内を見つめ。ようやく納得が言ったように箒を立てかけて誠を見つめた。

「この人が大師匠が言っていた新しく入る隊員さんですか、カウラの姐さん?」 

 少女は先ほどまでの要に対するのとはうって変わった丁寧な調子でカウラに話しかける。

「そうだ、彼が神前誠少尉候補生。小夏も東和軍から保安隊に入るのが夢なんだろ?後でいろいろと話を聞くといい」 

 その説明を聞くと、店の前にたどり着いた誠を憧れに満ちた瞳で眺めた後、小夏は敬礼をした。

「了解しました。神前少尉!あたしが家村小夏というけちな女郎めろうでございやす。お見知りおきを!ささっ!もう大師匠とかも来てますから入ってください!」

 掃除のことをすっかり忘れて、無駄にテンションを上げた小夏に引き連れられて、三人はあまさき屋の暖簾をくぐった。

 外のムッとする熱波に当てられていた誠には、店内のエアコンの冷気がたまらないご馳走に感じられた。



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