今日から僕は 126
「アイツどうかしたのか?」
要の剣幕に少しばかり首をかしげながら吉田がカウラに尋ねる。
「そんなこともわかんないんだ!この鈍ちん!」
シャムはそう言うと思い切り吉田の足を踏んだ。
少し顔をしかめる吉田。
「へえ、あの西園寺がねえ。カウラはどう思ってるの?こいつのこと」
そう言って吉田が呆然と突っ立っている誠を指差した。
「仰ってる意味がわかりませんが?」
本当に不思議そうにカウラは緑色の髪をなびかせながら答える。
「そんなの決まってるじゃん!カウラも誠ちゃんのこと好きなのよね!」
シャムは小さな胸を張って答えた。
狐につままれたという顔の典型とでもいう表情を浮かべた誠。
そして透き通るような白い肌を紅潮させてうつむくカウラ。
「まあどうでもいいや。誠、どうする?遺書書いとくか?」
投げやりに言う吉田を前に静かに誠は首を横に振った。
「まああれだ。05は素人が乗っても火龍程度は軽くあしらえるスペックなんだ。いざという時は機体を信じろ。まあ俺の言えることはそれくらいだな」
吉田はそう言うとシャムを連れて部屋から出て行った。
「カウラさん?」
うつむいたまま立ち尽くしているカウラに思わず手を伸ばしていた誠。
「隊長命令だ、直立不動の体勢をとれ!」
一語一語、かみ締めるようにしてカウラは誠に命令した。
誠は言われるまま靴を鳴らして直立不動の体勢をとる。
「一言、言っておくことがある。これは作戦遂行に当たっての最重要項目である」
「はい!」
うつむいたままのカウラは肩を震わせながら何かに耐えているように誠には見えた。
誠を見つめる緑色の瞳。
潤んでいた。
「死ぬな。頼む……」
「はい」
誠は思いもかけぬカウラの言葉に戸惑っていた。
同じように自分の言葉に、そして自分のしていることに戸惑っているカウラの姿が目の前にあった。
「言いたいことは、それだけだ。先に出撃準備をしておいてくれ。ハンガーでまた会おう」
カウラは今度は天井を見上げながらそう言った。
誠は一度敬礼をした後、静かに控え室から出た。
『高雄』艦内の廊下は同級艦と比べて広めに設計されている。
それを差し引いても、誠には私室に続くこの廊下が奇妙なほど長く感じられた。
廊下には誰もいない。
昨日まで雑談や噂話に明け暮れていたブリッジ要員の女性隊員も、無駄に元気そうにつなぎ姿で馬鹿話に時を費やす技術部員も、カードゲームの負けのことを考えながら頭を抱えている警備部員もそこから姿を消していた。
「静かなものだなあ」
誠はそう独り言を言った後、居住スペースのあるフロアーに向かうべくエレベーターに乗り込んだ。




