今日から僕は 108
「お疲れさま!伊達に幹部候補で入ってるわけじゃないのね。本当に成長早いんだから」
リアナはその青い眼でシミュレーターからだるそうに出てきた誠を褒め称えた。
「そんなに褒めても何も出ませんよ」
正直、誠は照れくさかった。
それなりに運動神経はあると自負していたが、その自負はパイロット研修を始める前から打ち砕かれていた。
射撃と言うものをまるっきり経験していない東和の青年の平均からしても、誠の銃器関連に関する相性の悪さは際立っていると自覚していた。
東和の重視するアサルト・モジュール用重火器の使い方にいたっては、いつも最下位に甘んじていた。
とりあえず鍛えた動体視力とフィジカルも全て帳消しにするくらい相性が悪い。
常にシステムのトラブルを予定してオートではなくマニュアルロックオンの正確さを重視する教導隊との演習では、持ち前の反射神経で最後まで生き残るものの、反撃どころかロックオンさえさせてもらえずにタコ殴りにされるという芸当を見せ付けていた。
しかし、今、05式用のシミュレーターにいる誠にはサーベルが有った。
一応は剣術道場の跡取りである。物心つくころには既に木刀を振っていた。
間合いの取り方があまいと母親には常日頃言われて、砂を噛みながら幼児期を過ぎ。師範である父との対決ではほぼ互角の勝負を挑めるようになった。
そして05式でもその経験は生かされていた。
いや、むしろそれ以外に活路が無い誠にとっては下手な火器の使用など逆効果だったかもしれないと思っている。
事実、法術兵器の使用が出来るようになってからはアイシャ、パーラの前衛組みとの勝率は7割を超えた。
今回も二人を蹴散らした後リアナと相打ちに持ち込むまでになっている。
「お姉さん、神前君。ジュース買って来たから。一緒に飲みながら反省会しましょう」
自動ドアが開いて、誠が瞬殺したパーラとアイシャが入ってきた。
髪を整えているリアナの横をすり抜け、誠はコーラの缶を受け取った。
「でも本当に凄いわね先生は。もう私達じゃあ相手にしてもらえないんだものね」
リアナにコーヒーを渡しながらアイシャがそう言った。
「確かにそうよね。あの機体前方に展開する結界みたいなの広げられたら手も足も出ないもの」
オレンジジュースを明華の分として中央のテーブルに置くと、パーラはそう言いながら笑った。
「あんまり新人褒めるもんじゃないわよ。図に乗って死なれちゃあ後味悪いわ」
ようやくシミュレーターから顔を出した明華が口を挟んだ。
「確かにそうだけど……でも一番神前君を買ってるのは明華ちゃんじゃないの?昨日だって『ただの変態じゃないわね』って言ってたじゃない」
リアナがうかない顔の明華を宥めるようにした。
「変態ですか?」
思わず誠は苦笑いをした。
確かに配属以降、脱ぎキャラと言う事で部隊全員が誠を理解している事は知っていた。
酒を限界以上飲むと脱ぎだすのは理科大野球部の伝統芸であり、一応はそこのエースだった誠もその遺伝子を色濃く受け継いでいるのも自覚していた。
「まあでも要ちゃんが本気を出した時に比べたらまだまだだから、気を抜かないでね」
リアナはそう言うと部屋の中央のモニターを切り替え、先ほどの模擬戦の模様をはじめから映し出す作業に入った。




