今日から僕は 106
焼肉定食を受け取ると、誠は腕組みをして待っていた要の隣に座った。
「やっぱ肉だよな!肉!」
要は先ほどの不機嫌はどこへ行ったのかと言う風に牛丼をかきこんだ。
「本当に要ちゃんは肉が好きよね。じゃあ今度お姉さんの奢りで焼肉でも行く?」
調子に乗ってリアナがそう言うと全ての時間が止まった。
食堂の端にいた整備員達も湯飲みを置いて逃げ出す。炊事班の面々はワザとカウンターの裏に隠れた。
「それって終わったらカラオケ行くんですか?」
恐る恐る要がそう尋ねた。
「それは決まってるじゃない!今度はちゃんと練習してみんなに笑われないように歌うんだから!」
「まあそん時は呼んで下さい」
消え入るような声を要が返した。
しかし、リアナはそんなことは聞いてはいない。もう既に意識はカラオケの選曲に向かっている。
「あーあ!やっぱり現役にはかないませんなあ!ああ、リアナもう来てたんだ。カウラ奢ってあげるから食べていかない?」
大声を上げながら明華が入ってきた。
彼女は時々携帯通信端末を開き、ボタンを操作してハンガーの整備員に指示を送っていた。
「じゃあ私は……」
カウラは要の三つのドンブリの横に置かれた誠のトレーを見ると自然と口を開いた。
「焼肉定食で」
それまで無心にドンブリのそこに残った汁ダクのご飯を口の中に流し込んでいた要が、その言葉を聞くと鋭い視線をカウラに投げた。
「要ちゃん!」
リアナが空気を読んで要を咎めた。
要は敵わないと知って、またドンブリ飯に集中する。
「それよりリアナついに要のお父さん腹くくったみたいよ」
通信端末を開いていた明華が口を開いた。要は視線は送りながらもどんぶりにがっつく振りをしている。
「やっぱり陸軍相の更迭?それとも戒厳令かしら?」
「両方。新しい陸軍相には醍醐大将が就任するらしいわね」
「オヤジの奴、自分のシンパで軍を固める気だな。そうなると第六艦隊も動いたんじゃないのか?」
ゆっくりとドンブリを置きながら要が口を開く。
「相変わらず鋭いわね。先ほど最終勧告を手に第六艦隊付作戦部長が近藤中佐の所に行ったみたいよ」
明華は食券を選びながらそう言った。
「いまさら遅いねえ。どうせ到着したら軟禁されること確定じゃないか」
「要。どうしてそれが分かる」
焼肉定食のトレーを受け取ったカウラが要の正面に座り、割り箸を割りながらそう尋ねた。
「これで近藤の奴も完全に自分の退路を絶たれたことくらいわかるだろ?叔父貴の直参が動いていることがわかった今、もうあの御仁には選択肢なんて無いんだよ。救国の英雄になるか、それともただの犯罪者として吊るされるか。まあ音を上げて泣き付かないのは、一派閥の領袖としては評価してもいいんじゃないか?」
そう言うと最後まで残っていた親子丼のご飯を口の中にかきこむ。
「つまりこれから向かう先の敵は死ぬ気で向かってくると?」
カウラはやかんに手を伸ばし湯飲みを差し出した要に茶を注いでやった。
「次の手を考えられるのは保安隊を手持ちの兵力で駆逐できた時だけだ。ただ叔父貴があいつ等に死に花咲かせてやるほど善人じゃないのも事実だからな。さてどう動くか?」
いかにも上機嫌に、要はそう言うと湯飲みの茶をゆっくりと啜った。




