今日から僕は 101
カウラの掃射を浴びて全速力で離脱していくアイシャ機を眺めながら誠は考えていた。
『法術による干渉空間の制御か。シュぺルター中尉が言っていた能力ってこれか?』
「呆けるな!神前少尉!狙撃が来たら一撃だぞ!」
カウラの言うとおりだ。
先ほどアイシャの攻撃を凌いだ法術も常に働くと言う保障はない。
嵯峨も法術兵器は未だ実験段階だと漏らしていた。
『モルモットか?でもなんで僕が?』
そう思いながらデブリ沿いアイシャを追撃する。
目の前に火線が見え始めた。
「西園寺の奴、どうやら現役の意地で生きているようだな。神前少尉!すぐ救援に向かえ!私はアイシャを片付けてから後に続く!」
カウラはアイシャの消えていったデブリ帯に機体を進めた。
たった一人で宇宙空間に取り残されると言うのは気分のいいものではなかった。
『僕には力がある。そうだ力を使えるんだ!』
自分に言い聞かせるようにして誠は言葉を飲み込んだ。
三機のアサルト・モジュールが戦闘を行っていた。
明華の四式の黒い機体。本来なら嵯峨の専用機である。
リアナの灰色の05式丙型のシルエット。電子線を得意とする吉田の愛機。
どちらも長距離砲戦仕様の機体が、紫色の要の05式甲型を狙撃している。
いやそれは狙撃ではなく威嚇射撃だ。
見たことも無いようなトリッキーな動きで要は二人を翻弄するものの、明華、リアナの的確な火線はライフルでロックオン可能な領域への侵攻を許さない状態が続いている。
「西園寺さん!助太刀に……!」
要に通信を開いた途端、リアナの05式から放たれたロングレンジレールガンの一撃が誠に向かってきた。
『今度だって!』
誠は意識を集中し、機体前面に干渉空間を形成し、いったんは危機を逃れた。
計器が大きく乱れ、前方の視界は干渉空間のため殆ど無い。
誠は後退しながら計器の回復を待った。
「何!」
そう叫ばなければならなかったのは、ついに要が明華の一撃を食らって撃墜されたからではなかった。
「ごめんねー!誠ちゃん!」
不意に視界が奪われ、リアナのロングレンジライフルがコックピット前面に押し付けられていたからだ。
「参りました」
「そんなに落ち込まないでね、これもあなたのためだから。じゃあ後はカウラちゃんだけね」
そう言うとリアナ機はデブリの中に消えていった。
誠はゆっくりとシミュレーターを終了させた。




