今日から僕は 100
だが、振り降ろされた描く軌道がパーラの機体とシンクロしているのがわかった。
『やばい!ミスった!』
心の中で誠は叫んだ。
パーラも一箇所にじっとしているほど馬鹿ではない。
それにサーベルを繰り出すタイミングが早すぎた。サーベルが振り下ろされようとする時、もう既にパーラは機体を退かせようとしながら同時にライフルをつかんだ右手を挙げようとしている。
空を切ろうとするサーベルを見つめている誠は自分の体に少しばかり異変が起きていることを感じた。
頭に一瞬だけ血の気が抜けていくような感覚が走った。
立ちくらみはそれなりに鍛えている誠には経験がなかったが、おそらくこんな感覚なんだろう。
そう思った瞬間、コンソール上の見慣れないメーターに反応が出た。
しかしそれでも遅すぎる。
事実サーベルは大きく宙を裂いた。
「やられる!」
誠はいつものことだと半分あきらめながらモニターを眺めていた。
しかし何故かサーベルを操作する手に重量感のような感覚が走っていた。
次の瞬間、パーラ機は真っ二つに切り裂かれていた。
「敵4番機沈黙!やったな!神前少尉!」
爆発に飲み込まれないよう距離をとっている誠の機体に向けてカウラがそう呼びかけてきた。
「落とした?僕が?そんな感覚は……!」
初めての撃墜に上の空だった誠も、コンソールの多くのメーターが大きくぶれていることに気がついた。
「空間がひずんでいる?」
サーベルは仮想敵を斬ったわけではなかった。
その存在する空間そのものを切り裂いていた。
事実、重力波メーターは反転している。
「次!アイシャがどこかに伏せているはずだ!神前少尉、警戒しつつ前進。西園寺が落とされていれば狙撃が来るぞ!」
とりあえず考えることをやめた誠は、計器類の異常を無視してデブリの中に機体を突っ込ませた。
『パーラさんがポイントマンならアイシャさんも近くにいるはず!』
記憶をアサルト・モジュール戦の教本を思い出すことに集中する。
「こちらから確認しにくくて、攻撃にもすぐうつれるスペースのある場所!」
誠はようやく回復したレーダーと、少ないながらも散々叩かれて鍛えた勘で、戦艦の破片らしきデブリにあたりをつけた。
「神前少尉!狙われているぞ!回避行動を取れ!」
カウラの言葉が響いた時にはもう遅かった。
デブリからのぞいているライフルの銃口からレールガンの弾丸が発射された。
『今度はやられる!』
そう観念した次の瞬間、目の前に黒い壁のようなものが展開されていた。
「なんだ!?」
誠が叫ぶ。
弾丸がその奇妙な空間に吸い込まれて消える。
センサー系の目視以外のメーターがまた反転する。
「神前少尉!無事か」
いったん引いたアイシャの代わりに駆けつけたカウラの声が響いた。
「不思議と落ちていません。でも……」
誠は意外な出来事に当惑しながら次第に落ち着いていくメーターを眺めていた。




