今日から僕は 10
「すいません明石中佐!男子のロッカールームはどこですか!」
誠は自然とそう叫んでいた。吉田の言葉に豹変した誠の姿に明石は驚きを隠せないようだった。肩に手をやり、サングラス越しに真正面から誠の目を見つめる。
「そう急くなや。そこの廊下を突き当たって下に降りてすぐが……」
慌ててそう言いながらも理由がわからない誠の激変に驚きを隠せない明石。誠は彼の手を振りほどくとそのまま立ち上がって自動ドアの前に立った。
「分かりました!」
そう言うと開いたドアの間をすり抜けて誠は電算室を飛び出していった。
『やばい。こんな性格のナンバルゲニア中尉ならばきっと……』
誠は正気を失っていた。
『僕のレアグッズが!!』
誠の頭にはそれしかなかった。
男子更衣室と書かれたドアが半分開いているのが見えて。誠は腰の東和軍制式拳銃、04式9mmけん銃を引き抜くとドアを蹴り開けた。
じめじめとした空気の男子更衣室。誠は銃口を左右に向けて制圧体制をとっている。
「動くな!」
誠の予想通りシャムが誠の荷物を漁って一つのプラモデルの箱を取り出していた。誠が入ってきたが、誠が銃を持っているというのに特に気にするわけでもなく手にしたプラモデルの箱を取り上げて見せた。
「ナンバルゲニア中尉!」
誠はそのままの姿勢で固まっていた。手を上げるわけでも、怯えるわけでもなく、シャムはただ手にしたプラモデルと誠の顔の双方を見比べていた。
「凄いね!これこの前再版されたMSVゲルググキャノンでしょ?これ欲しかったんだ!予約しようと思ったらネット限定で、あたしはネットとか全然だめだから俊平に頼んだら嫌だって言うから。それで仕方なく明華に今度オークションに出たらヨロシクって言っておいたんだけど……すごくプレミアついちゃって……誠君は買えたんだね」
きらきらと目を輝かせながら表に書かれたイラストを見つめているシャムに誠の体の力が抜けていった。
「それは暇な時に作ろうと持ってきた奴です!今はネットオークションに出てますからそっちに手を出してください!」
そんな誠の声も聞かずにシャムはさらに誠の荷物を漁り続ける。銃を向けても表情を変えないシャムのリズムに乗せられるようにして、ただ誠はその場で固まっていた。
「後、これも凄いよ!電人ブロイザーの怪人バルゴンの食玩のフィギュア。これってあたしも狙って箱買いしたけど百分の一だって言うから結局全然当たらないでブロイザーのフィギュアばっかり溜まっちゃって……」
コレクターである誠から見るとずいぶん危なっかしい手つきでフィギュアを触る姿を見て誠の目に涙がたまってくる。
「いいからそこにおいてください……あっ!その魔法少女ヨーコの腕は……」
シャムの足元に自分の最高傑作と思っているフィギュアの成れの果てが転がっていた。
「ああ、取り出したとき折れちゃった。てへっ!」
驚き、脱力感、そして悲しみ。ぐるぐると感情が渦巻いた後、誠は怒りがふつふつと湧き上がってくるのが分かった。確かに目の前にいるのはあの遼南帝国の二人しかいない騎士の一人。最強のレンジャー、ナンバルゲニア・シャムラード中尉だが、職場のオアシスとすべきグッズを次々と破壊された彼にとってはただの140cmに満たないチビ以外の何者でもなかった。
「そんな『てへっ!』ですむ問題ですか?」
銃口を向けて怒鳴りつけている誠だが、その叫び声にシャムは少しも驚くようなそぶりも見せない。
「本当にごめん。私だってコレクションが壊されるのはみてられないし……」
「じゃあ何で開けたんですか?それに箱までそんなに潰して……」
誠の足元にはプラモの箱やフィギュアの保存用のケースが転がっている。明らかにシャムの仕業であることは明白だった。
「まるでアイシャちゃんみたいなこと言うのね。いいじゃんべつに箱くらい」
そう言うとさらに誠の荷物を漁ろうとするシャム。
「その箱が重要なんですよ!ネットオークションに出す時それがあると無いとじゃ値段が違ってくるんだから……」
誠の言葉にただ不思議そうな瞳を見せてくるばかりのシャムに次第に誠は苛立ちを覚えてきた。
「やっぱりあたしじゃわからないわアイシャちゃん呼ぶね」
そう言うとシャムは荷物を放り投げて腕にした連絡用端末のスイッチを押した。誠は自分の呼吸がかなり乱れていたのに気がついて大きく深呼吸をして拳銃のグリップを握りなおした。




