第四十一話 最強の防御
40話(前回)に加筆いたしました。
設定は変わらないので、改変後をご覧にならなくても違和感なくこの先も読み進めていただけるかとは思いますが、アミラの背景を描いたものなので、彼女のためにも読んでいただけたら幸いです。
「かっかっかっかっか!」
ついにいかれたか。
その姿にアミラも若干引いている。
何せ、地面にうつ伏せで突っ伏したまま、血だらけで笑っているのだ。そりゃあ誰でも引くだろう。
「くたばりやがれ小僧!! それでお前は俺様を殺すのか? それとも拷問か? いくら負けたとはいえ、仲間を売るような真似を俺様はしねぇぞ」
今までの軽い雰囲気を全て吹き飛ばしたその咆哮じみた言葉に、場は一瞬で硬直した。
もちろん、そんなセリフをうつ伏せで言うこともなく、ゆっくりと起き上がって、こっちに向かっている。
「しかし、下も騒がしくなってきやがったしよ。なんなんだよてめぇらは……」
「下? アミラ、何か感じるか?」
「いや、近くには何も」
そこは腐っても気配操作に長けている魔術師として、俺たち以上に気配の動きに敏感なのだろうか。
だが、笑ったり叫んだり落ち込んだり、忙しいやつだ。
「まぁてめぇらごときにはわからんか! かっかっか!」
「黙ってろよ。で、下には何がいる? 自称勇者やろうか? 対峙しているのは誰だ?」
「はぁ? もう忘れたのかよ。その頭は飾りか? 俺様は仲間を売るような真似は——ぐはぁあああああ!!」
俺がパチンと指を鳴らすとほぼ同時に、やつの左腕は、内側からまるで破裂するよう吹き飛んだ。
もうさっさと終わらせたいし、強硬手段だ。
帝国のスパイの呪いから頂戴した条件起爆式の爆弾は、おそらく、こういった使い方が正しいのだろう。
「だから言っただろ? お前の死は既に確定している、と」
「あぁああああああああ」
いや、確かに腕が吹き飛ぶのはくそ痛いとは思うが、それでもお前のキャラ的に、もう少し我慢しろよ!
なんと言うか、お前はどんなことをされても強がって争い続けるタイプだろ!
「…………はぁはぁ……。クソがぁああ! てめぇら、俺様の気配すら未破けなかったくせ——がぁああああ!!」
次は左足。
こいつは学ばないのか?
俺もドSの畜生ではないから、いくらこいつに怒りを覚えているからといっても、これ以上はやめたいのだが。
「はぁ……」
しばらく、奴が落ち着くまで待つ。
よだれや血を口から垂らし、目には大量の涙。歯も所々抜けている。
もう、タキシードは壊滅していて、髪もなんやかんやでぐしゃぐしゃだ。
だが、まだ生きているのだから、全くしぶといものだなと思う。
「……急いだ方がいいぜ。てめぇらみてぇな雑魚じゃ、一発で殺されちまうほどの魔法を操る奴がそこにいる」
金髪タキシード、改め、ぐしゃぐしゃ半裸はそう言い終えると満足げな顔をした。
だが最後に爆弾を投下しやがった。
——一発で殺される?
確か自称勇者は防御に長けているだけで、攻撃の方はそこまでだったと思うのだが。
それとも他に勇者の仲間がいるとでも言うのか。
どちらにせよ、あのチート勇者の最強防御だけでも厄介だと言うのに、さらに強力な魔法で攻撃されると言うのは、かなりきついな。
と言うか、それを相手にしている化け物は一体どこのどいつだ?
〈栄一。自称勇者って防御専門じゃなかったかしら?〉
一人ではこの疑問は解決しないと思い、アミラに聞こうと思った矢先に、ちょうどアミラから念話が届いた。
〈いや、あの時は一方的に俺たちが攻撃を仕掛けていたからそう思ったのもしれない〉
〈でも、だからって、あの強固な結界を持っていながら、他にも威力のある攻撃魔法を使えるだなんて、それこそまさしく〝チート〟じゃない?〉
〈……しかし、女神によって世界を救う勇者として最強の能力を与えられているはずだからなぁ。あの女神の部屋にあった勇者リストには、防御魔法のことしか書かれていなかったけど。そもそも、そんなに自称勇者の結界って強かったっけ〉
〈0回よ〉
〈え?〉
〈自称勇者の結界を私の攻撃魔法で破った数。結局、一度もやつの結界は壊せなかった。だから、敵から魔力を吸収して、奴の結界に備えてるんじゃない〉
〈なるほど……〉
となると謎は深まるばかりだ。
やはり、勇者には他に凄腕の仲間がいる説が濃厚か。
これじゃあ、らちがあかないので、もう一本、腕でも吹き飛ばしてやつに吐かせようと話しかける。
「おい。自称勇者の他に誰かいるのか?」
「栄一」
俺が奴に声をかけた時、やつの目は既に生気を失っていた。
あんなに威勢がよかったのに、最後はあっけないものだな。
ならばと、俺がやつの所持品を確認しようと一歩踏み出した時、その建物全てに、まるで大型地震のような衝撃が襲った。
ゴゴゴゴゴゴ!!
とっさに、俺とアミラは体を宙に浮かせ、アミラの貼った結界の中で様子を見ながら、周囲に警戒をした。
なんならこのまま自称勇者がせてめくるのではないかとも思っていたのだが、何も起こらず、しばらくして揺れも収まったので、俺たち二人はすぐに行動を起こす。
「とにかく下に行ってみるしかないようだな」
「えぇ、そうみたいね」
そうして、急ぐ理由ができたので、重力操作で奥にあった階段まで飛ぶように進み、事前に調べた情報通りに、神代遺物が保管してある部屋へ向かう——。
「……なんだこれは?」
しかし、俺たちの目的地で、裏組織の用心棒であるところの自称勇者が控えているであろう部屋には、土手っ腹に、腕も余裕で通せるほどの風穴を開けた、瀕死状態の自称勇者がいた——。
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