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僕はハチ公

作者: そろあ

僕はハチ公。犬だ。

ハチ公といっても渋谷で待ち合わせ場所になっている有名な方の犬じゃない。ごくごく普通の一般家庭で飼われているペットだ。

犬種はチワワ。メキシコ原産。


犬の親や兄弟の顔は覚えていない。気がついたら透明なケースに入れられて毎日、人間の顔を沢山見ていた。僕を気に入ってくれたこの家の二人の坊っちゃん達もその中の人達だった。


僕がハチ公という名前になったのは坊っちゃん達が僕の名前を決められずに兄弟喧嘩ばかりしていたので、この家のお父さんが無理矢理ハチ公と決めた。

この家でお父さんは絶対権力者だったので、僕はそのままハチ公になった。


僕は坊っちゃん達の事が最初は大嫌いだった。耳や尻尾を引っ張ったり、叩いたりしてきたからだ。僕が止めてよと鳴いて、時には噛んだりすると僕以上の大声で泣いた。僕は自分がとても悪い事をしたような気になった。

だけど、最近は坊っちゃん達も大きくなって優しく撫でてくれたり抱っこしてくれるようになった。大人になったんだな。と思う。

この家のお父さんは犬が苦手みたいだった。少しでも僕が近づくと「うあぁ」と情けない声をあげて、手で追い払った。僕もあまりこの人には近づいてはいけないんだ。と悟った。だけど、時々ケージの中にいる僕に話しかけて柵ごしにおつまみのチーズやソーセージをくれた。悪い人ではないんだなと思った。

僕が一番大好きなのはこの家のお母さんだ。僕にご飯をくれたり、散歩に連れていってくれる。一番遊んでくれるのも甘やかしてくれるのもこの人だ。


最近、息をするだけで苦しい。歩くことすらままならないし、食欲もない。大好きな散歩にも行けなくなった。

たぶん、病気だと思う。一年位前から毎日薬を飲まされるから。この薬を飲まないと僕の心臓は働き過ぎて、壊れてしまうらしい。

病院に行く度に坊っちゃん達とお母さんは泣いていた。そして、涙を拭いて僕に薬を飲ませようとするんだ。

僕も薬を素直に飲んであげたいけど……。あれね、すっごく苦いんだ。大好きなソーセージの中によく混ぜられてるけど、口の中で見つけたときの絶望感……。一度皆にも味わって欲しい……。


今朝は調子がおかしかった。立ち上がれない。喉が乾いているはずなのに水も飲めない。

やっと出る微かな声で僕は鳴いた。下の坊っちゃんが僕の様子に気付いて他の人達を呼んだ。

僕は肩で息をした。お腹の下が上手く動かない。前足を動かして起き上がろうとするが無理だった。

家族皆が僕の周りに集まった。お父さんとお母さんと二人の坊っちゃん達。皆滝のように涙を流していた。


あ、僕、死ぬんだ。

皆の様子で分かった。


止めてよお父さん、みっともない。いつも、男児は涙を人に見せるべからずみたいな態度とってるくせに。僕に猫なで声で話し掛けるのは二人だけの秘密だったじゃないか。もっと毅然とした態度でいてよ。

お母さんは泣くと思ってた。一番泣くと思ってた。一緒にいた時間が長かったから、他の皆より沢山の思い出がある。僕の好物も好きな散歩コースも全部知ってる人。僕には犬のお母さんの記憶がないから、あなたの事を本当のお母さんみたいに思っていたよ。

坊っちゃん達、二人とは一緒に大きくなった。二人との接し方が分からなくて僕は1人で悩んだ事もあったよ。でも、二人も本当に優しくなった。その優しさを今度は僕以外の他の誰かにも分けてあげてね。


止めてよ皆、泣かないで。本当は僕だってお別れしたくないよ。

お父さんとはもっと仲良くなりたかったし、お母さんともう一度散歩に行きたい。坊っちゃん達の成長ももっともっと見届けたい。

だけど、タイムリミットだ。犬と人間じゃ生きてる時間が違い過ぎる。


僕は顎を上下して呼吸した。もうほとんど脳みそに酸素が届かなくなった。


もし、生まれ変わるならもう一度皆と家族になりたいな。その時は僕も人間になって皆と一緒に生きていきたいな。


そんなことを考えながら深く眠った。

実家で飼っていた犬をがっつりモチーフにしました。現在、実家ではハチ公の息子と娘が仲良く暮らしています( ̄ー ̄)

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