2話 あら、ベアさん
「おい、起きろ!何があった」
ひどいですわ。仮にも乙女ですのよ。顔を叩かなくても他に何かあるでしょう?やり方。
うっすらとまぶたを開けると
「あら、ベアさん」
「ベアモンじゃないわ!」
「あら、リード様、どうされました?」
もう2日も経っちゃったのかしら。
「どうしたじゃないだろ!外に出て遊んでたら屋敷の方から煙が上がってるから、慌てて帰ってきたんだよ。
そしたら火の手は上がってないが、お前は倒れててピクリともしないんだからな、何があったかと思うだろうが」
はあ、とため息をつかれる。
あら、意外と優しいんですのね。
「心配してくださったのですか?」
会ったばかりの、しかも使用人ですわよ。
「普通するだろ」
あら、あらあら。私、リード様の考え方嫌いじゃないです。
「ふふ、ありがとうございます。なんともありませんわ。少し眠たくなってしまったのです」
「ベッドで寝ろ!」
「寝られるベッドがなかったものですから」
首をかしげてみせる。
「ん?それもそうか?いや、こんなところで寝るやつがあるか!」
ちっ、誤魔化されてくれませんでしたね。
あのハゲなら簡単ですのに。
「お前今何か不敬なこと考えただろう」
「な〜んのことですかあ?」
はは〜ん?
「…まあ、いい。今日はもう家にいる」
「では、お夕食の準備をしますわ」
「そうだな、その問題があったな」
「?何です?」
「使えるようなキッチンなんぞないだろう?」
なるほど。
「水だけ汲んできてくださいます?」
「それでいいのか?わかった」
おお、使用人の仕事をやってくれるんですね。
そんなに悪い職場では無さそうですね。ふふ。
では、リード様のためにお食事を作りましょうか。
今日の分は空間魔法で出してしまいましょう。
これぞ生活魔法の真骨頂ですよね。
キッチンと食堂に来ました。
ホコリと蜘蛛の巣はもうありませんね。
水洗いしてしまいましょうか。
洗浄!この部屋を洗いなさい!
びちょびちょになりましたね。
風よ、この部屋を乾かしなさい!
あら、天井までキレイになりましたわ。満足、満足。
シンクの中もキレイにしますわよ〜!
「ジェリー、汚れを食べてちょうだい」
『は〜い』
この子は、母から譲り受けたスライムなんです。
とってもいい子なの。
ジェリーボックスの子もいい子だといいですわね。
ピ〜カピ〜カ、ピ〜カピ〜カ、るるる〜らる〜ん。
ドカン、ガチャっ!
「あら、どうなさったの?」
リード様、白目剥いてるわ。
え〜と、こちらのイスに座っていてもらおうかしら?
よいしょっと。
あら、汲んできてくださったお水溢れちゃったわ。
か〜わけ!っと乾いたわね。
お鍋もキレイになりましたわ。
中にお料理入れて、温めるのは後でもいいかしら?
先に、お部屋を整えようっと。
「スライムちゃん、お洗濯は終わったかしら?」
『出来たよ〜。まだやりた〜い』
「じゃあ、また持ってくるわね。ありがとう」
全部のお部屋のシーツをヒッペ返して洗濯室にプカプカ浮かせて運ぶ。布団も枕も持ってきたら入りきらないわね。
でもまあいいですわ。
全部まとめてキレイにな〜れ。
キレイになったわね。
あとの取れないシミはジェリーボックスにお任せね。
まずはリード様のお布団を整えて。
黄ばんで茶色かったシーツが驚きのこの白さ!
ん?何かのシーエムみたい…シーエムって何かしら?
脂ぎったベトベト枕もふっくらしました。
これでゆっくり休んでいただけます。
次は私の部屋を整えて、と。
ひとまずあと今日必要なのは、お風呂かしらね。
完結まで、毎朝8時に予約投稿予定です
15話くらいのお話になるかな?と思います