黒田マネージャーと私と青山君 7
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刑事さん達が来てから数日が経ち、愛梨ちゃんはまた会社を休み気味になった。
結局、避けられたまま何も話せず私は嫌な予感がしてモヤモヤしていた。
明日は水曜日の定休日、仕事が終わったらお見舞いに家に行ってみよう。
そう思い、張り切って二人分の仕事をこなしていく。
愛梨ちゃんも独り暮らしをしており、前に一度家にお邪魔した事があるので家の場所もわかっている。
見舞いの品は愛梨ちゃんが好きと言っていたコンビニのプリンにしよう。
整備工場の長細く狭い倉庫室で届いた部品を検品しながら考えていると倉庫の扉が開く音がした。
何気なく横目で見ると、今二人っきりになりたくない人ナンバーワンの黒田マネージャーだ。
私は背中に変な汗をかき、ここはさり気なく倉庫を出て行こうと思い黒田マネージャーの横を通り過ぎようとすると案の定、行方を阻まれた。
長い腕を伸ばし右手を出口の扉に叩きつけ扉が開かないようにして私を見下ろしている。
……蛇に睨まれた蛙状態
私は頭の中で少し現実逃避をしてこの気まずい状況から逃げようと目を合わせず俯いていた。
「検品は?」
無愛想に聞いてくる言葉にビクリと怯え
「お、終わりました……」
「見せて」
私の手に持っていた検品チェックリストを黒田マネージャーは奪い取り目を通す。
やばい……全部してないのバレる……
「3つまだ出来てない、さっさとやれ」
私の胸元にチェックリストを押し返してきたのて渋々受け取り検品に戻った。
その間、黒田マネージャーはずっと出口の扉に背もたれをして腕を組んだままジッとこちらを見ている。
まるで逃がさないといった感じだ。
私はとっとと検品を終わらせて早くこの息苦しい空間から解放されたかった。
「お、終わりました」
今度こそ本当に終わらせて、倉庫を出ようと扉の前にいる黒田マネージャーの所に行くが退いてくれそうにない。
「あの……黒田マネージャー……」
「矢野、俺の事どう思う?」
やっぱりただじゃ済まないか……
心がざわつき、まるで時間が止まったような錯覚がした。
「上司だど思います」
「他には?」
「……」
沈黙を保ったまま私は俯き黒田マネージャーを見ることが出来なかった。
チェックリストを持つ手にはジットリ汗をかき、浅く呼吸をする事しか出来ない。
「それ以上の関係になれないのか?」
「……」
「……そうか、わかった」
そう言うと黒田マネージャーは倉庫の扉を開けて出て行った。
私はやっと生きた心地がして俯いたまま深く深呼吸をする。
黒田マネージャーとそれ以上の関係になれない。
上司と部下で精一杯の関係だ。
さすが大人の男は深く愛を語らず、引き際もあっさりしているのか……
黒田マネージャーがモテるのもわかる気がした。
私はこれでよかったと深くため息をつくと倉庫の片隅に置いてある部品が目に付いた。
それは白いヘッドレストとオプションカバーだ。
だいぶ前から置かれている部品で交換車両が中々来店されないので倉庫に置きっぱなしにしてある。
ヘッドレスト……カバー
あ……!
金城さんの車に感じた違和感はヘッドレストがついてなかった事だ。
以前何回も整備が入っていた時は確か着いていたはず。
なのにこの前、納車の時は着いていなかった…
じゃあ、車を引き取りに行った時は?
私は疑問に思い、あの時引き取りに行った担当整備士に訪ねる事にした。
倉庫を出て整備工場に入り整備士を探すと裏の自動販売機の前で休憩していたので聞いてみる。
「ヘッドレスト?引き取りの時はついてたと思うよ?納車の時も着いてただろ?」
金城さんの車の背もたれは普通の車の背もたれよりもかなり倒されていたから頭にヘッドレストが当たることなんてない。
だから、存在感が薄いのだ。
誰がヘッドレストを持って行ったのか……
恐らくあの中には物が入っていたのだろう
私はブツブツ独り言を言いながら店内に戻り愛梨ちゃんの机を眺めた。
綺麗にしてあるデスクに女の子らしい小物がちょこんと置いてある。
ファイル置き場に新規顧客アンケートファイルが置いてあり、私は何気なくそれを手に取りパラパラとめくる。
金城さんが来店した時のアンケート用紙の所で手を止めて、ジッと眺める。
名前と電話番号だけが整った字で書かれてある。
筆跡鑑定など出来ないが、あの金城さんから想像出来ない書体だ。
この字は……青山君?
担当営業がアンケート用紙を代筆する事はありえない事ではない。
しかし、私の違和感はあの時、最初に金城さんが来店した時に青山君が筆記道具を持っていなかった事だ。
もしかして…来るのがわかってた?
「矢野さん?どうかしましたか?」
背後から聞こえる声に私はびくりと驚き固まった。
ショールームのガラスに反射して見える声の主はいつものように薄ら微笑みこちらを眺めている青山君。
私はゆっくりアンケートファイルを閉じる。
長年培った営業スマイルをここで活用しなくてどうする……
彼に何も悟られてはいけない。
心の奥で湧きあがっている恐怖を押し殺し、顔が引き攣らないように笑顔を作り振り向いた。
「ん?別になんでもないよ?愛梨ちゃん風邪大丈夫かな……」
少しわざとらしく話題をふって誤魔化した。
青山君も少し心配そうな顔をして「そうですね……」と返してくれたので私がアンケート用紙のファイルを見ていた事に気が付いてない。
終業時間まであと一時間……
上司の黒田マネージャーに相談するべきか?
いや、あんな事があったばかりだ。
今はあまり話したくないだろうと思い、私は一刻も早く水吉刑事に連絡をしようと考えた。
青山君との会話を終わらせ、スマホを取りにさりげなく休憩室に行こうとしたら運が悪い事に来店客がやって来た。
ここでお客様を無視して休憩室に行ったら、すぐ傍にいる青山君に怪しまれると思い来客の応対をする事にした。
用件を聞き、担当営業に連絡をしてお茶を出し、ショールームの様子を見守る。
いつもこなしている仕事なのに時間が全然経たない気がする。
早く……
営業のデスクに座り仕事をしている青山君の視線を気にし過ぎなくらい気になり、どんどん焦ってしまう。
結局、終業時間を少し過ぎたぐらいにお客様は帰ると私はコーヒーカップを片付け帰る準備をした。
休憩所から急いでバッグを取り出しスマホを操作しながら営業所を出る。
あの焼き鳥屋の日から水吉刑事から連絡はなく、やはり社交辞令のアドレス交換だったのかと思っていたが今はあの時アドレスを交換してて良かったと思った。
歩きながらスマホを操作して小刻みに震える指で水吉刑事の電話発信をタッチした瞬間、背後から何か布を口に当てられ一瞬何が起こったのかわからなかった。
息が苦しくなり持っていたスマホを投げ落とし、口に当てられた手と布を剥がそうと力一杯両手で掴みもがくが次第に頭がボーとして意識が朦朧として力が入らなくり腕にかけていたカバンを落とした。
視界がだんだんと暗くなり私は闇に落ちた……
部屋の大掃除をしていたら次話投稿するのすっかり忘れてました^_^;全然部屋片付かないよぉー凹
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