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甘い香りに気をつけろ  作者: ほろ苦
6/9

私と水吉刑事 6

刑事さんと友達になりたい……

 金城さんの車の整備が入った次の日、昼過ぎに刑事さん二人がまたしても徒歩でお店にやって来た。

 どうも表の駐車場に車を停めるのは避けて、裏の従業員駐車場にわざわざ停めているようだ。

 別にパトカーで来ている訳ではないので表に停めてもいいのでは? と思うのだが、黒田マネージャーいわく見る人が見れば覆面パトカーだとわかるらしい。

 店長と黒田マネージャー、刑事さん二人は前回と同じ個室ブースに入ったので今回は愛梨ちゃんにお茶出しをお願いした。

 個室ブースに向かう途中の若い刑事さんの視線を感じチラ見すると今日はマスクをしておらず、私を見て明らかに口元が笑っている。


 ん? どこかで……


 若い刑事さんは自分の頬を人差し指でちょんちょんっとタッチして目で何かを訴えている。

 まるで連想ゲームのように、刑事さん→警察→頬→赤くなる?ぶっ叩いた……


「あ!!」


 思わず大きな声が出てしまい、周りの視線を集めてしまったが私はすぐに「何でもない」っといって平静を装った。

 ショッピングモールでカバンでぶっ叩いた警察の人だ。

 かれこれ数か月前の事ですっかり忘れていたが、向こうはすぐに気が付いていたのか……

 なんだか恥ずかしくなり顔が赤くなる。

 若い刑事さんはニヤニヤしながら個室ブースの中に入って行くのを見て、私はちょっと悔しくなった。

 刑事さん達の話は想像通り金城さんの車の話だ。

 しばらくして、私と青山くんが呼ばれ個室ブースに入ると聞かれた内容は車に何か異変がなかったかという事だった。

 私は違和感を感じたが何がどうっというモノがはっきりしなかったので特にないと言い、青山くんも何も感じなかったと答えた。

 大柄の中年刑事さんは小さくため息をついて表情を曇らせる。


「金城は脱法ハーブのバイヤーをしていてね。どこかにブツを隠しているはずだ……家宅捜索して家も車も抑えたがなにも出てきやしない……」


 まるで愚痴のように呟くと困り果てた顔をして、若い刑事さんも硬い表情を浮かべて黙っていた。


「仕方ないですね。引き続き捜査協力お願いします」


 少しカラ元気を出して中年刑事さんは立ち上がると若い刑事さんも立ち上がり個室ブースを出る。

 刑事さんの後に続き私達が出て行くと若い刑事さんが私に小声で話しかけてきた。


「また会ったね」


 バツの悪い私は少し苦笑いを浮かべ視線を逸らす。


「そ、そうですね、その都度はお世話になりました」


「こちらこそ、捜査協力ありがとうございました」


 少し微笑んでいる若い刑事さんに私は乾いた笑いをした。


「またご協力よろしくお願いします」


「お役に立てれば良いのですが……」


 そんな淡々とした会話をしながらお店の入り口までお見送りをして刑事さん二人は帰って行った。

 私たちのやり取りを黒田マネージャーと青山くんが見ている事に気が付かなかった。

 仕事に戻ろうとした時、黒田マネージャーに話かけられ


「知り合いか?」


「だいぶ前に痴漢に襲われそうになった時に助けてもらった警察の方です」


 知り合いって程ではないので簡潔に説明すると、黒田マネージャーはなぜか眉間に皺をよせ仏頂面になり、この日一日機嫌が悪かった。

 昨日、あんな(キス)があったのに、黒田マネージャーがいつも通り接してくるので意外と関係はぎくしゃくしていない。

 やはり、これが大人の対応っというやつなのだろうか?

 それよりも私は愛梨ちゃんの様子が気になり、何度と話し駆けようとするがどうも上手くいかない。

 気のせいであってほしいが、避けられている気がする…

 私は可愛い後輩に何か嫌われるような事を何かしたのかとグルグル考えるが思い当たる節はない。

 結局この日も話が出来ずに帰宅する事になった。


 一人暮らしをしている私は、夜ご飯を自炊する事もあれば近くのスーパーで惣菜を買って帰る事もある。

 なんだか無性にガッツリとんかつが食べたくなって、仕事帰りに近くのスーパーに立ち寄った。

 夕方になると値引きシールが貼られているのでいそいそと総菜売り場に行くがお目当てのとんかつは見事に売り切れていたのでガッカリした。

 仕方ない……コロッケで我慢するか……

 残り一つのコロッケを取ろうとすると横からすっと手が伸びて主婦のおばちゃんに奪われてしまい、その隣にあったエビフライも見事にサラリーマン風のおじさんに持っていかれ総菜売り場は空になった。

 私は惣菜を取ろうとした、やり場のない手をぴくぴく動かし静かにしまう。

 悩まず先にカゴに入れておけばよかった……

 もうお腹の中はとんかつからコロッケ、さらにエビフライに変換していたのにぃ

 更に落ち込み、もうカップラーメンでもいいかなっと自虐的になりつつ顔をあげると目の前に若い刑事さんが口に手をあて笑いを堪えて立っていた。

 もしかして、一部始終見られていた感じですか?

 私は顔を赤くしてその場を去ろうとすると若い刑事さんに呼び止められる。


「あ、待って待って。ごめん、話しかけずらくって」


 話しかけられる程親しくなった覚えはないのですが?

 私は何も悪い事してませんよ!

 少し身を引いて睨むと若い刑事さんの手には買い物かごを持っていた。

 カゴの中にはビールとつまみとお菓子と歯磨き粉が入っている。


「矢野さんだったよね?ここよく買い物来るの?」


「はい。えっと刑事さんも?」


 名前なんで知ってるんだっと一瞬不思議に思ったが、よくよく考えてみれば、だいぶ前の痴漢事件があってまた捜査協力してもらっている会社の従業員の名前なんて調べているだろうなっと思いあまり気にしない事にした。

 若い刑事さんは少し困った表情を浮かべ


「出来れば刑事さんはやめてほしいかな、周りの目が気になるし」


 っと小声でお願いされた。

 私はそれもそうだなっと思い小さく頷いた。


「俺は水吉拓斗(よしながたくと)。たまたま、このスーパーに寄っただけ」


「そうですか……」


 他愛のない会話が終わり、なんとも言えない沈黙が続く。

 私はこれ以上何か聞きたい事かある訳でもなかったのでそれじゃっと言って切り上げて帰ろうとした。


「そうだ、何かの縁だし今から食事行きませんか?」


 突然、水吉刑事は少し明るめな声で食事に誘って来た。

 私はこんな流れになると思っていなかったので驚き、一瞬警戒した目で水吉刑事を見る。

 普通に考えて偶然会って捜査協力してもらっている会社の女性を食事誘うのはおかしいのではないか?

 まして、水吉刑事は若い男で私もそこそこ若い独身女性(ここ重要ですよ!)である。

 断ろうと思って口を開く前に水吉刑事が喋り出す。


「そんな警戒しなくても大丈夫ですよ。刑事がそんな悪い事するわけないじゃないですか」


 いや……する人はするんじゃない?

 思わずツッコミを入れたかったが、ニコニコして自信満々の彼を見て一度は助けてもらっているので、まぁ悪いことはしそうにないかもと思いつつ、それでも断ろうと思ったが


「あ、明日も仕事なので……」


「じゃあ近くに焼き鳥屋さんがあったのでそこでいいですね?」


 断らせる気が全くないらしく、私はハハっと心のこもっていない笑いをして「はぃ」っと小さく返事をした。

 水吉刑事は買い物を済ませて来るとレジに向かったので何も買う物を持っていない私はのそのそと水吉刑事の後について行った。

 スーパーの表通りの大きな道路を渡ってすぐにある焼き鳥屋さんは五郎というお店で私は一度も入ったことがなかった。

 少し古びたお店に入ると座敷が4つとカウンター席が所狭しと並んでおり、昔からある、小さなファミリー居酒屋っといった雰囲気だ。

 お客も2組しかいなくカウンターに2人と座敷にファミリー4人が座っている。

 私達は一番奥の座敷に案内され、適当に焼き鳥とノンアルコールビールと意外にも水吉さんは普通のビールを頼んだ。

 スーパーに車で来たわけじゃないのかな?

 と少し心配したが、さすがに警察の方が飲酒運転する訳ないなっと思い気にしないようにした。

 注文してすぐに飲み物と簡単なつまみが出され、私はノンアルビールを手に取ると水吉さんもビールを手に取りニッと笑い軽く乾杯とグラスを寄せてきたので私も合わせるようにグラスを当てた。

 喉が渇いていたので一気にノンアルビールをごくごくっと飲むと苦い味と喉に泡が当たり気持ちがいい。

 アルコール入ってなくてもノンアルビールは好きでたまに飲んでいる。

 水吉刑事も一気にジョッキ半分ぐらい飲んで満足げな顔をしてビールをテーブルに置いた。


「はー久々のビールうまぃ」


 刑事という仕事上いつも気を張っているイメージの水吉刑事が気の抜けた顔をして力を抜いているのを見て刑事さんて大変なんだろうなーっと思った。


「テレビで警察24時間とか見てますが、いつ呼び出されてもいいようにアルコールとか避けるものじゃないんですか?」


「ん?あー避けるかなーでも明日昼出だし、今日ぐらいはいいかなって。矢野さんは飲まないんだ」


「車で来てますし……」


「代行呼べばいいのに」


「近くなのに勿体ないじゃないですか」


「……矢野さん家で飲めば良かったかも?」


 少し意地悪に笑う水吉刑事に私は目を細め苦笑を浮かべた。

 どう見ても私の方が年上だと思う。

 その位でお姉さんを動揺させようなんて……刑事だろうが甘い!


「ほぼ初対面の男を部屋に入れる女に見えますか?」


「……すみません。見えません」


 水吉刑事は私が怒っているように見えたのか少し反省した様子でつまみを食べだした。

 私もつまみに手を伸ばし大好物の枝豆を食べる。


「こんな事を聞いてもいいのかわからないけど……例の人は今どこに?」


 居酒屋であまり仕事の話をするのは良くない事なのだろうが、私は気になってつい聞いてしまった。

 するとさっきまでくつろいでいた顔をしていた水吉刑事の瞳が一瞬にして仕事の目になる。


「……昨日から拘留している」


 ビールを手に取りグイッと飲み出した水吉刑事の表情であまりいい状況ではないのだろうと察した。

 (ブツ)の場所が解らなければ不起訴に終わるかもしれないのだろうか……

 私は少し考えて言葉を選び話し出した。


「あの車調べたって言ってたけど、うちの整備が終わった後ですか?」


「ああ、奴に物が渡ったのは昨日の朝のはず。で、家宅捜索は夜になったんだ。その間奴は家から出ていない」


「だから車を怪しいと思っているのか……」


 注文した焼き鳥が運ばれてきて、私は豚バラを手に取りもぐもぐと食べ少し考える。

 その様子をジッと見つめ水吉刑事も豚バラを手に取り食べた。

 次の鶏皮に手を伸ばし、水吉刑事は少し疲れた表情で薄ら笑いを浮かべた。


「今は仕事の話はやめよう。何食べているかわからなくなる」


「焼き鳥、美味しいですよ?」


 キョトンっと素で答えてしまった私に水吉刑事はぷっと笑い「そうだね」っと言った。

 私の想像以上に刑事さんは大変なのだろうな。

 その後は本当に他愛のない会話と焼き鳥を楽しんだ。

 水吉刑事の年は24歳で思った通り私よりも年下……

 私の年は知っているようなのであえて言わなかった。

 おススメの車の話や水吉刑事の趣味の釣りの話など、最初は気乗りしなかった食事は思いのほか楽しかった。

 あっと言う間に2時間が経ち、会計を済ませ帰ろうとすると水吉刑事が誘ったのは自分だから奢るっと言った。


「いいや、ダメです!割り勘にしましょう!」


「いや、奢る!」


 ここは可愛く「わーありがとうございます」っと言って奢られればいいのだろうが、年下の彼に奢らせるのがなんだか悔しい。

 全くお互い会計を譲らないので焼き鳥屋のオジサンが苦笑して「じゃー、じゃんけんで決めたら」っと言ったので大人げなく超本気でじゃんけんをして負けた……

 どや顔をしている水吉刑事を見て悔しくってたまらなかった。


「……ありがとうございます」


 納得いかない顔をしてお礼を言うと、お店を出ながら水吉刑事は笑っていた。、


「今度の時も支払いはじゃんけんで決めようよ」


 今度?

 スーツの内ポケットに入れていたスマホを取り出して私に微笑む。


「アドレス教えて下さい」


 う……断るべきかどうか一瞬考えたが食事は楽しかったし、悪い人でもないし、刑事で面白い話が聞けそうだし、アドレス交換しても100%次も誘ってくれるとは限らないし、知り合い程度ならいいかなって思って私はカバンからスマホを取り出し少し照れながらアドレスを交換する事にした。


読んで頂きありがとうございます(`・∀・´)

この流れでいくと共犯者は…… わかる人にはわかっちゃいますね……

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