ふたりの刑事さんと私と黒田マネージャー 4
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雪がはらはらと舞い降りる2月
最近インフルエンザが流行り、愛梨ちゃんがここ数日休んでいる。
私も風邪をひかないように大きめのマスクをして仕事をしているとスーツを着た男性が二人徒歩でお店にやって来た。
普通のお客様なら大抵車で来店するので、私は不思議に思い接客を始めた。
「いらっしゃいませ。」
「すみません。県警察の者です。店長さんとお話がしたいのですが」
大柄で優しい目をした50歳ぐらいの中年男性がスーツの胸ポケットからチラッと黒い手帳をのぞかせる。
私はこんな土曜ドラマ劇場的なシーンに少し感動して、もう一人の若い男性に目をやる。
すらっとした体形で身長が高く、清潔感がある髪に大きなマスクをしており、切れ長の瞳が私を凝視して固まっていた。
な、なにか悪い事したかな……
とりあえず急いで店長を呼びに行き、刑事さんらしきふたりを個室のブースに案内した。
二人の刑事さんと店長にコーヒーを持って行った時に黒田マネージャーを呼んで来るよう店長に指示され黒田マネージャーを呼びに行くとメガネをクイッと上げて黙って個室ブースに向かった。
私は何を話しているのか気になりソワソワしていると20分ぐらいで二人の刑事さんが個室ブースから出てきた。
大柄の中年刑事さんは店長と黒田マネージャーになにやら『よろしくお願いします』と軽く頭を下げて、若いもう一人の刑事さんは私の方をチラッと見て小さく微笑んだように見えた。
なんだ……?
刑事さんが帰った後、私は黒田マネージャーに呼ばれた。
「今、警察から捜査協力を依頼された。詳しい事は言えないがここだけの話、金城さんがどうも犯罪に加担している可能性があるらしい」
金城さんとはだいぶ前に青山君が接客した白いセダンの族車っぽい車に乗ったガラの悪いお客様だ。
あれから何度か整備車両として仕事が入って来ている。
「また次に整備に入る時に注意して欲しいと言われた、俺も注意しているが一応、矢野も気にするように。あと警察が来たことを周りに言うな」
「はい」
何を注意すればいいのかわからないが、深刻な顔をしているので特に聞き返す事はしなかった
その数日後、偶然なのか金城さんの車両が整備に入って来た。
整備士が金城さんの自宅に車を引き取りに行き、整備工場まで持って帰りタイヤ交換とオイル交換をして夕方納車をする。
整備費用は納車時に現金支払いがいつものパターンだ。
どんな犯罪に関係しているのかわからないので、整備をしている車両を眺め色々想像していた。
「おい、ボーとしてないで仕事をしろ」
黒田マネージャーが整備記録簿をデスクに座っている私の前にバサバサっと落としファイリングする様に指示を出す。
「し、してますよ」
「あと、これは午前に回収した整備費用だ。金額が大きいから金庫にすぐにしまっておけ」
少し厚い封筒を差し出すと私はそれを受け取りすぐに金庫室に向かう。
金庫室は営業所奥の休憩室に隣接しており扉を開けると2畳ほどの部屋がある。
半畳ぐらいの大きな金庫と小さなテーブル、あと少しの荷物置場となっており、私は金庫室へ入り封筒の中身の金額を確認した。
「あれ?金額が合わない……」
一旦封筒を金庫の中に納め鍵をかけて黒田マネージャーの所に向かう。
黒田マネージャーはピットで例の金城さんの車の整備状態をいつもより念入りに確認していた。
「黒田マネージャーすみません。さっきの封筒、金額が合わなくて」
かけていたメガネをくいっと右手中指であげて表情を曇らせる。
まるで私が悪い事をしているような心境になるが、私はもらった金額を確認しただけだ。
「そんなはずはない」
そう言って、金庫室に向かう黒田マネージャーの後について一緒に金庫室に入り扉を閉めて私がさっきの封筒を金庫から出すと黒田マネージャーが金額を数え始める
その手つきは札の扱いに慣れている手つきで黙々と数える姿はまるで銀行員だ。
最後まで数え終わると目を細め私を見た。
「合ってる」
「え?」
私が急いで数え直そうとすると黒田マネージャーが封筒の表紙に書いてあるメモを指さした。
そこにはマイナス金額が書いてある。
く……気が付かなかった
見下したような顔で見下ろす黒田マネージャーに敗北感を感じながら、早とちりを謝罪しようとした時休憩室に誰か入って来る音がした。
休憩室の扉が閉まる音がすると愛梨ちゃんの声が聞こえてきた。
「わ、私こんなつもりなかったのに……どうしよう……」
彼女の怯えた声に不安を感じ私は何か声をかけようとした瞬間、後ろから大きな硬い手で口を押さえられた
するとバンッと扉に何か当たる音がして
「んっ……」
艶めかしい声が聞こえ出す
黒田マネージャーに口を押さえられたまま私は扉の向こうで何が起こっているのか想像して赤面し固まった
ゆっくり目だけ黒田マネージャーを見ると、私から視線を逸らし目を細め少し困った顔をして私の口から手を離した
金庫の部屋から出るに出れない状況で私は黒田マネージャーと距離を少しとる
金庫室の扉の前に居るのは愛梨ちゃんともうひとり、誰だろう?
とても濃厚な関係な事は音でわかるが……ここは思い切って金庫室に人がいる事をアピールした方がいいのではないだろうか?
そう思って黒田マネージャーを見ると目が合い見つめ合うかたちになった
黒田マネージャーはメガネの奥の瞳を少し泳がせて目を細めると私の右手首を掴んでゆっくり音がたたないように引き寄せる
次の瞬間、私の唇に触れるか触れないかの距離に唇を近づけた
あまりに一瞬の出来事で私は何も出来なく固まった
やっと事件が表に出て来ました……遅いって?私もそう思います。やはり最初に死体を転がさないと(笑)
読んで頂きございます!