私と愛梨ちゃんと上司 1
読んで頂きありがとうございます(´・ω・`)
社会人になって7年
某自動車ディーラーの受付嬢として働いて4年
私こと小野風花29歳は今日もガラスのショーケースのような職場で煌びやかに輝く新車を眺め仕事をしていた。
美しい車達と一緒に仕事をする受付嬢はやはりレースクィーンのような超美人でナイスバディの若いお姉さんがいいのだろうが、私はアラサーの至って普通の容姿である。
中肉中背、ナイスバディでもないし、顔だって少しつり目を化粧でごまかしている顔は美人でもない。
私の容姿で唯一、自慢できる所は艶やかな黒髪で、セミロングの髪は行きつけの美容師がこまめに手入れをして手を抜かない。
まぁ、これも私の努力じゃないか……
子供の頃、妖怪が見えるというイタイ経験があり、そのせいかよく勘が鋭いと言われるが、決して妄想癖がある頭のおかしい子ではなく、ちゃんと社会人として暮らしている。
そんな私が自慢の髪をお団子ヘアにして、今日も愛想の良い笑顔で仕事していた。
「矢野先輩、お客様が整備が遅いって怒ってて……」
去年入社した新人で可愛い後輩、佐々木愛梨こと愛梨ちゃんが涙目で助けを求めに来た。
愛梨ちゃんはウエーブかかったロングヘアーを斜めにまとめ、少しぽっちゃり癒やし系のチョット天然女子である。
「あー森さんね…ちょっと話して来るから、愛梨ちゃんは整備マネージャーに早くしてもらうよう伝えて来て」
「は、はい」
私は鉄壁の営業スマイルを顔に貼付け、予想以上に待たされてイライラしているお客様(森さん)の元に向かった。
森さんは小太りの中年おじさまで短気だが、点検整備は定期的にきちんと入れてくれるし、担当営業マンに車を欲しがっている知人を紹介してくれる優良ユーザーだ。
何度か接客した事がある私は整備の遅れを詫び、世間話でその場を盛り上げお客様の機嫌を治す。
これも受付嬢の大事な仕事である。
しばらくすると、長身でメガネをかけたインテリ系の整備マネージャーが手元に整備資料を持ってやってきた。
「すみません。お待たせしました」
笑顔で挨拶をして、整備内容を説明しだしたマネージャーを横目に私はそっとその場を下がる。
「先輩、ありがとうございます」
小声でお礼を言う愛梨ちゃんがまた可愛くて、つい左ほっぺたを指先でぷにぷにしてしまった。
「もー先輩〜」と言っているが頬を赤くして喜んでいるように見える。
二人で営業所の小さな台所に向かい、お客様に出したコーヒーカップを洗っていると愛梨ちゃんがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「矢野先輩ー聞きましたよぉー。青山君に告白されたらしいじゃないですかぁ」
う……なぜそれを……
私はバツの悪い顔をして視線を逸らす。
青山君とは同じ営業所の今年入社した新人営業マンでつい先日、突然私に告白してきた。
若くて可愛い子は他にも沢山いるのに……
「どうするんですかぁ?付き合うんですかぁ?」
「うーん、それはないかな……」
「えーーーー!勿体ないー」
愛梨ちゃんはなんでなんでーと興味津々で聞いてくるが私は苦笑いを浮かべ誤魔化した。
私はずっと前に好きになった人の事を引きずっている様でどうも恋愛に積極的になれないでいた。
このままじゃいけないと思うけど……
もう三十路間近だし、そろそろ本気でどうにかしないとな……
そんな事を考えていると背後に気配を感じた。
振り向こうとした時、頭をポンっと何かで叩かれる。
後ろには整備マネージャーの黒田武が手に整備資料のバインダーを持ち不機嫌な顔をして立っていた。
「……なにするんですか」
「なにするはこっちのセリフだ。もう整備が終わっていたのに、余計な気を回すな」
私は目を細めムッとした顔をするが特に言い返さない。
黒田マネージャーは38歳で整備マネージャー兼課長もしており私は整備の方の事務処理の仕事もしているのである意味直属の上司である。
そんな彼は私が何をやっても気に食わず、時々つっかかってくる。
噂では最近離婚したらしく、そのストレスでか更に酷くなっている気がするが私は相手にしないようにしていた。
「こんなところで油売ってないで仕事しろ、部品発注はかけたのか」
「いえ……まだです」
「検品の確認は?」
「今から……」
「後で整備完了車両の納車時に持って行く領収書の作成は?」
「まだです……」
メガネの奥の蔑むような目で私を睨み
「使えん奴だな」
と言って去って行った。
くっそー
全部急がない仕事じゃないか!!
文句言いたいが、ぐっと我慢。
愛梨ちゃんは心配そうに私を見つめて呟いた。
「黒田マネージャーなんで矢野先輩だけに厳しいのかな?」
しらん!
黒田マネージャーに言われた仕事をさっさと終わらせて終業時間が近づいた頃、一台の白いセダン車が店頭ショールーム駐車場にやってきた。
ブォブォブォーン
あまり上品でないマフラー音を響かせ、いわゆる族車に近い車は今まで見たことがなかったので新規来店客だと一目でわかった。
こういった来店客は先輩営業マンは嫌がり、大抵新人が接客応対する事が多い。
案の定、青山君が出迎え接客を始めた。
青山君は身長が高く、あまり愛想笑いをしない珍しい新人君だ。
決して感じが悪い訳でなく、本当に面白いと思った時にしか笑わないといった感じで、しっかり自分の意思を持っていて仕事もそつなくこなすので早い段階で先輩営業マンから一目置かれる存在になっていた。
そんな彼に何故か告白され、気になる存在にはなっているのだが……
接客している風景を遠くから眺めていると、何か違和感を感じる。
ん?なんだろう……
結局、ガラの悪い客は青山君と立ち話をした後、意外とあっさり帰って行った。
店内に戻ってきた青山君に愛梨ちゃんが「大変だったねー」っと話しかけ、青山君は手に持っていた新規来店アンケート用紙を愛梨ちゃんに渡して顧客登録するようお願いしている。
そんなふたりは私なんかよりもずっとお似合いなふたりに見えた。
初の推理ものです!すごく完結させるのに苦戦しました……安易に手を出すべきジャンルではなかったです(泣)
主人公は『ココと風花の物語』のその後の設定で今回は妖怪は出ません。話も前作を読まなくても大丈夫なように作っているつもりですが、私の力量不足が多々あると思います。こんな私ですが最後までお付き合いして頂けると嬉しいです。
最後まで読んで頂きありがとうございました(#^^#)