浮気2
僕は和室の壁に背を寄せ、畳に足を伸ばして本を読んでいた。
そこに食器を洗い終わった香織さんが戻ってきた。
香織さんは僕の太ももを跨いで、ちょこんと乗ってきた。
「ねぇ、亮太くん。話があるんだけど」
「何?」僕は本を読みながら訊いた。
「今度の土曜日に浮気してもいいかな?」
あまりの唐突の話にさすがの僕も驚いた。
「せめてはっきりとした理由は欲しいよね」僕は読んでいた本を畳に置いた。
「わたしじゃなきゃダメな人がいるの」と香織さんは言った。
「僕の知らない人?」
「うん。昔の友達」
「香織さんは僕の彼女なんだよ。自分の彼女の浮気を認める男がいると思う?」
香織さんは首を振って、
「だけど亮太くんならわかってくれると思う」と言った。
よりによってなんでその解決法なんだろうなと思った。どう考えても香織さんが間違っている。
その男性は香織さんを性欲のはけ口としか見ていない可能性がある。
寂しさを身体で埋めようとしてもいい結果にはならない。
自分の大切な彼女が都合のいい女に扱われるのが許せなかった。
香織さんは優しすぎる。
「それは香織さんにとってどうしても必要なことなのかな?」
「うん、わたしにも亮太くんのためにも必要なこと」
思わずため息がでた。香織さんの意志の強さを感じた。
香織さんが快楽や好奇心や一時の感情で浮気をしないことは知っている。
香織さんは凄く頭のいい女性だから、きっといろいろ悩み、考えたのだろう。
これはもう僕がグチグチ言ってもしょうがないように思えた。
香織さんの出した結論を僕は否定できなくなっていた。
信じるしかなかった。
「わかった。行ってきなさい」
僕がそう言うと、香織さんは僕に近づいてきて、僕をギュッと抱きしめた。
「ありがとう、大好き。ごめんね。心配しないで、わたしには亮太くんだけだから。信じてて」
僕は香織さんの頭を優しく撫でた。
「信じてるよ、もちろん。僕も大好き。隠さずに言ってくれて嬉しい。でも他の方法があればもっとよかったけどね」
僕が笑うと、香織さんも笑った。
「ねぇ」と香織さんは甘えた声で言った。
「うん?」
「しよう」
僕は頷いて、香織さんの唇にキスをした。
香織さんを抱いている間、僕はずっと嫉妬していた。
香織さんの声や身体や表情が、一時的とはいえ他の男性のモノになることが我慢できなかった。
嫉妬の感情から香織さんを道具のように扱ってしまった。
自分の暴力的な部分を抑えきれなかった。
その度に僕は後悔する。
暴力に支配される自分をどうしても好きになれなかった。
香織さんは僕の頬に手を添えて「そういうとこも大好きだよ」と言ってくれた。「もっとめちゃくちゃにしてくれてもいいんだから」
僕は香織さんの両手を掴んで畳に押しつけ、また唇にキスをした。
寒い!風邪引かぬよう。
2015年12月12日 愛の探求者英星