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化物の2周目







ミカから文字を教えてもらい、本が読めるようになってから1年が経過した。


私はいつものごとく森の中を疾走している。と言っても、ここはいつもお世話になっている家の近くの森ではない。ちなみにいつも私が駆け回っていた森はリッカの森というらしい。


なぜ、いつものリッカの森ではない、森を疾走しているのか。というと少々話が長くなる。


んじゃ、記憶を遡るぜ?ついてこいよ?


◇◇◇◇◇


私は本を読めるようになってから様々なことを知った。この世界の情勢であったり、歴史であったり、地理であったり…。本当に様々だ。


そんなある日、いつものように本を読んでいると、私はある洞窟の存在を知った。文献にはなんの変哲もない、加えて名前もない普通の洞窟として記載されているものだったが、私は違和感を覚えた。


「普通の洞窟にしてはあり得ない花や魔物が出現していないか?」


本に載っていた花や魔物は洞窟で出現するものらしいのだが、通常の魔素量では咲くこと、住み着くことがないものばかりが記載されていたのだ。


ここに記載されている情報が本当なら、この洞窟、魔素量が尋常ではなさそうだ。しかし、本には何も異常はない洞窟と記載されている。


「魔素量が多いだけで問題になると思うんだがな…」


魔素量が多い、ということはそれだけ凶暴な魔物が出現しやすいということである。それをギルドや教会といった機関が捨て置くはずがないんだが。


よし。ならば取るべき行動はひとつだな。


私を動かしたのはただの好奇心だった。


「ちょっと調べに向かうか。そろそろ近場の森も飽きてきた頃だし」


地理的にもその洞窟のある森はここから、そう遠くはない。強力な魔物もいるらしいし、いい修練になるだろう。


私はその洞窟のある森の地理や出現する魔物を充分に調べて、その森に向かうことにした。


そして冒頭に戻るのだ。


◇◇◇◇◇


私が普段外で動き回れる時間はそう長くはない。ミカが作った昼食を家族で食べた後、お昼寝の時間がある。そこが探索の時間となる。


ミカが添い寝しながら、私を寝かしつけ、部屋から退室した際に、寝たフリをやめて、布団に空気の塊(私が寝ていると勘違いさせるため)をつめる魔術を唱えてから出陣するのだ。


そして私を呼びに来る夕ご飯の合図までが自由時間である。その間までにイレギュラーとしてミカが来る場合もあるが、今日は家の方の仕事が忙しい日のはずなので夕ご飯までは来ないはずである。


「つまりそれまでの間に洞窟を見つけて、洞窟の異常を探し出し、あわよくばそれを解決しちゃおうというのが、今回の目的だな」


ふむん、楽勝だな。


◇◇◇◇◇


「とーうちゃっく!」


洞窟を見つけ出す、とか言ったが洞窟は簡単に見つかった。事前に場所を調べていたのだ。当然である。加えて、グラビティの魔術で私にかかる重力を半分以下にすることでかなりの速度で移動を行った。時間も大分短縮できたことだろう。


「で、早速侵入してみたいと思うんだが…」


洞窟の中から漏れ出てきている風から嫌な魔素を感じる。あまり身体に取り込みたくないと思うような魔素だ。


「これは明らかに洞窟から自然的に発生している魔素じゃないな」


魔素は基本的に土地から一定時間に少量ずつ発生する。この星、という土地から大量の魔素が発生しているように、この洞窟からも魔素が発生しているはずなのだ。しかしーーー


「土地から発生するような魔素の感じじゃない…となると、しかしこの洞窟の魔素量を上塗りするほどの圧倒的な魔素量…か。こいつはシャレになりそうにないな」


明らかに何者かである生き物が異常なほどの魔素を排出している。それが先ほどから私に嫌な感じを与え続けているのだ。普通じゃない、引き返すべきだろう。


だけど。


「ここまで来たんだ。今更引き返すなんてありえないよな?」


私が生まれてからまだ4年ほどしか経っていない。だが、この4年間はしっかりと糧になっているはずだ。そう簡単には死なない。


私は覚悟を決めると自分に再度グラビティの魔術をかけ直し、洞窟に飛び込んでいった。


◇◇◇◇◇


いざ洞窟の中に入ってみると、花はおろか、魔物すら一切見当たらなかった。


おかしい。この魔素量に誘われない魔物がいない訳がないし、本でも魔物の存在は記されていた。


「誰かのイタズラか…?いや、それにしては随分と手が込んで…」


「イタズラなんかじゃあないさ。ただの手の込んだお遊びだよ」


「んなっ?!」


さっきまで誰もいなかった。間違えなく人や魔物の気配がないことを感じ取っていた。しかし、実際にはそこに彼女がいた。


闇に飲み込まれそうなほど黒い色の髪を肩まで伸ばし、まん丸の人懐っこそうな瞳を向け、浮世離れした美人なお姉さんは私に向かってこう言った。


「やあ、『化物』。『2周目』、楽しんでくれているかい?」


その言葉は随分聞き馴染みのある言葉に思えた。






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