魔素変換
私は大気中の魔素を身体の中に取り込み、魔力を循環させた。
って、オイ。本当に出来たぞ。マジか。
魔力枯渇で意識が遠のいていたところ、魔素が大気中に溢れていたことを思い出し身体にそれを魔力として取り込んでみた。
すると魔力枯渇の状態から逃れることができた。
いや、普通に言ってはいるがこれはあり得ないことだ。多分。
これまでのミカの話を聞いていた限り、生まれた時に魔力総量は決まっていて、それを修練で伸ばすことでしか魔力は増やせないはずだ。しかし大気中の魔素を魔力として取り込めるとなると…
ほぼ無限に魔力が使えるじゃないか。
そもそも大気中にあるのは魔素であって、魔力ではない。故に大気中の魔素を身体に取り込むことは出来ない、と以前ミカから聞いたことがある。
つまり私は恐らく大気中の魔素を魔力に変換したのだ。
どうやったのかは分からないが、これはかなり凄いことだ。魔術の根底を覆すだろコレ。
無詠唱は当然、魔術に魔力を込め放題という訳だ。こいつは正しくチートだな。
ーーーーー決めた。私はこの変換する力を鍛えていこう。そして身体に入れることができる魔力総量を増やす。この方針で行こう。
私は今度こそトレーニングの方針を決め、それから修練に励むことにした。
◇◇◇◇◇
そして3年が経った。
私は今、森の中を駆け回っている。無論、生まれてから3年経ったばかりの子どもにそんなことを保護者が許すはずもない。
故に誰にも言わず、隙を見て抜け出したのである。
これは2歳頃になってからほぼ毎日やっていることだ。
1歳の段階でだいぶ魔力が身体に馴染んできた。滞りなく大気中の魔素を身体に取り込むことが出来るのだ。
それから2歳までミカから教えてもらった(一方的に話しかけられた)魔術と前世で存在した魔術のトレーニングを続けた。お陰で魔力総量は、優秀だと言われているらしいミカの魔力総量を越えたと思う。加えてかなりの魔術を使えるようになった。
まあ、ほぼ前世で使っていたものが大半だが。
それでも生まれもった魔力で前世の魔術が使えるようになったことは大きい。
今、私の目の前にはウォーウルフが立ちはだかっている。
こいつをソロで狩れるようになれば一流の冒険者、ということができる。という割と強い魔物…だったはずだ。
「グルルゥ…」
ウォーウルフは私を油断なく観察している。隙を見せればすぐにでも襲いかかってくるつもりだろう。奴の俊敏さは厄介だ。だから、私は……
「グラビティ・テン」
無詠唱でも使えるが今回は魔術名だけ唱えた。魔力がほぼ無限にある私に詠唱は意味がない。
するとウォーウルフの動きが一気に鈍った。まるで、自らにかかる重力が増えたかのように。
言うまでもなく、この魔術は重力を操る魔術だ。属性は無属性にあたる。前世ではかなりお世話になった。
今、ウォーウルフの重力を10倍にした。正直、これで大抵の魔物は自分の重さに耐えられず、潰れてしまうのだが、そこはやはり一流冒険者の関門なだけあるのだろう。潰れることなく、こちらを未だ睨み続けている。
だが、やはり立っていることで精一杯のようなので、私はウォーウルフの後ろに回り込み、以前拾ったガラスの破片を加工して作った簡易的なナイフで喉を掻っ切った。これは森での修練が終わった後に、バレないように木々の枝の間に隠している。
後は倒したウォーウルフの死骸を土に埋めれば、ミッションコンプリートだ。
このように私は3歳の段階で一流の冒険者と、言えるであろう実力を手にした。まあ、魔術を打ちまくれば一流の冒険者以上の実力はあるのだろうが、流石にそれは自重しておく。
3年間しっかりと修練を行った。実力は申し分ない。これからは修練も行いつつ、本を読むことにしよう。ミカから字を教えてもらうのだ。
そしてこの世界の情勢を知る。
私は次の1年の予定を組み立て、ミカが私の部屋に来る前にバレないよう帰宅した。