魔力と家庭教師
この世界に対して自由に生きると決めたものの、生まれたばかりの私に出来ることはそう多くはない。
とりあえず、身体を鍛えるようにはしてはいる。しかし、鍛えるといっても、この幼い身体ではイメージトレーニングや柔軟運動くらいしかすることが出来ず、割と時間を持て余してしまう。
そこで私は自分の魔力を感じてみることにした。前世と同じく魔力がある世界なのか気になったからだ。
目を閉じておそらく循環しているであろう自分の魔力に集中する。これは前世でも良くやっていたことなのですぐにできると思っていた、が…。
この世界の魔力?の位置付けがどうなっているのかよく分からず、上手く
感じることができない。魔力があるにはあるのだが…。
まず第一に感じたのは今現在体内に循環している魔力だ。おそらくこの魔力が生まれもった私の魔力なのだろう、平常時ではこの魔力が循環しているようだ。第一になどとおかしな言い方をしたのはそれ以外にも魔力を感じることができるからだ。
それは途轍もなく大きな魔力の塊だった。だが、今現在その魔力は一切身体に流れていない。
私は少し興味が湧いて、その魔力を身体に流してみることにした。
魔力の供給源を今流れ出ているものから、この巨大な魔力に変更する。魔力の供給源の切り替えは想像以上に簡単だった。巨大な魔力の塊を意識すればすぐに出来たからだ。
問題は、変えてからだった。
思考がクリアーになっていく。大気中に広がる魔素を感じる。
ーーーそして、全身に魔力が行き渡った。
先ほどと比べてだいぶ身体が軽く感じる。
私は完全に前世と同じ魔力を保有していた。
なるほど。あの魔力の塊は前世の魔力だったわけだ。通りで随分と巨大だったわけだ。
試しに軽く魔法を使用すると、この身体でも問題なく、使うことができるようだ。
これで私は完全に前世の力を引き継いだ状態で転生したことが分かった。なぜ、引き継ぐ事が出来たのかは不明だが。
しかし、この魔力はよっぽどのことがない限り、封印しておくことにしよう。
前世ではこの魔力のせいで化物扱いされてきたのだし、せっかく転生したことだ。生まれもった方の魔力を鍛えていこう。そもそも前世の魔力は完成されていて鍛える必要がないのだ。
私はそう決めて、流れる魔力を元に戻した。
すると一気に身体がだるくなり、周囲の魔素も一気に薄くなったように感じた。
こいつは、鍛え甲斐がありそうだ。
私は一人密かに部屋で微笑んだ。
◇◇◇◇◇
私が生まれた一家、ブライト一家は別段贅沢でも貧乏でもないありふれた一家のようだった。
そんなありふれた一家でもやはり第一子(私)の誕生は嬉しいらしく、少々無理をして、家庭教師兼ハウスメイドの人間を雇っていた。
人間とは言ったもののこの世界では獣人と呼ばれる存在であるらしく、彼女も割と肩身の狭い思いをしてきたようだった。私の前の世界でも亜人と呼ばれていた存在は差別されていたが、この世界でも大差はないらしい。
まあ、とは言っても我が両親からの待遇はとても良くしてもらっているようだが。
簡単な魔力のトレーニングをしていると早速階段を登る音が聞こえてきた。私の面倒を見に来たのだろう。
「ハルカ様。遊びましょう」
私の部屋の扉を開けて、家庭教師兼ハウスメイドである獣人、ミカが入ってきた。
彼女は猫の獣人で頭から少し出ている猫耳と時折嬉しそうに振られる尻尾がチャーミングポイントである。髪は薄い水色でショート、また目はキリっと釣りあがっており、容姿が綺麗に整っていて、とってもクールな女の子なのだ。
また、彼女は相当優秀なハウスメイドらしく、両親が無理をしたことが伺える。
「ハルカ様、お戯れのお時間です」
ミカは私の面倒をよく見てくれる。両親も私に構ってくれるのだが、忙しいのか、あまり構って貰えず、よく記憶に残るのはこの無愛想な猫耳少女だ。
「ハルカ様、今日は何をして遊びましょうか」
「あうーあー」
私はミカの方を向いてそう言った。
いや、歯も生えてないし、なんも言えんのだ。ミカも明確な答えが返ってくることを期待してる訳じゃないだろうし、これで充分だろう。
「そうですか。今日は魔法で遊びたいのですか。しょうがないですねぇ」
どうやら、今日のミカは魔法で遊びたい気分だったらしい。
そう言うとミカは私の揺りかごに近付いてきて、指先に小さな風の玉を生み出した。
「ご覧ください、ハルカ様。これが私のオリジナルの魔法です」
私のオリジナル、という表現なのは、自らが生まれもった魔法は世界に一つしかないからである。似た魔法を持ったものは存在するが全く同じ魔法を持つ者は存在しない。
故に今、指先で踊っている風の魔法はミカだけのオリジナル魔法、ということになるのだ。
自慢気に話してはいるが、これはミカが教えてくれたことである。
彼女は私に様々なことを話しかけてくれる。私が赤子ということなどまるで眼中にないかのようにだ。まあ、おかげで多くのことを知ることが出来るわけだが。
「このように自らが授かった魔法は簡単に扱うことができるのですが…」
そう言ってミカは詠唱を始めた。
「常闇を照らす光よ。我が身体に宿りてその力を示せ」
魔法の種類は基本的に6つに分類される。
それは火、水、風、光、闇、無といったものだ。魔法はその6つに分類することが出来る。
ミカの授かった魔法は風に分類されるもののようで、無詠唱で行うことが可能である。
「フラッシュ」
ミカは完全に詠唱を完了して、今度は指先に光を灯した。
「このように自らが授かった魔法とは別の魔法は詠唱が必要になります。詠唱が必要な魔法は魔術ということになってしまいます。故に生まれもった魔法とは別の魔法を使おうとすると魔術になり、詠唱が必要になるということですね。ちなみにこのフラッシュは無属性の魔術に分類されます」
ということだ。ミカに言われてしまったが、自分が生まれもった魔法以外の魔法は詠唱が必要、加えてそれは魔法ではなく、オリジナルの魔法を模倣しただけの魔術ということだ。
「しかし、生まれもった魔法は特別なものですので、詠唱を行ったところで完全にその魔法と同じものを作ることはできません。あくまで模倣された偽造品になるわけです。故に私のコレはフラッシュの魔法を生まれもった方を模倣しているだけの魔術に過ぎない、ということですね。オリジナルには大幅に劣るでしょう」
オリジナルの魔法というものはそれだけ強力であるということだ。模倣魔術を可能な限り、オリジナルの魔法に近付けるために人々は修練することになる。
「ちなみに私が授かった魔法はエア・ボディです。風を身体に纏うことが出来ます。また、ある程度飛ばすことも可能です。言わずもがな、ですが自らが授かった魔法と属性が同じ魔術の方が魔術としての精度は高くなります。故に私は風の魔術が得意な訳です」
赤子に言わずもがな、なんてことはないだろうがな…。つまり彼女は風の魔法であるエア・ボディを生まれもったから風の魔術が得意である、ということだ。
そう言うと彼女はフラッシュの魔術を解いて、私に向かって言った。
「それではハルカ様の生まれもった魔法を見てみましょうか」
基本的に1人ひとつ魔法は授けられる。さて、私はどんな魔法を授かったのだろう。
しかし、その際、彼女の尻尾が大きく振られていたのを私は見逃さなかった。
週一ペースが目標です。