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前世での記憶

新しく始めます。よろしくお願いします。




最強、世界の頂点などと呼ばれるようになってからもうしばらく以上の時間がたった。


私は魔法を含め、戦闘面における様々な技術を最強クラスにまで究めた。

今では私の前に進んで立とうとするものなど皆無である。


文字通り最強の存在である私に勝負を挑んだところで結果が覆ることはなく、対峙する事自体が無駄であるからだ。

故に私の前に立とうとする者は特別な存在を除いていなかったし、きっとこれからもそうだろう。

それは別に構わない。戦いとはいえ、全て予定調和。繰り返すだけ時間の無駄であるからむしろ有難くもあった。


だが、残念ながら私には隣に立とうとする者も現れなかった。

私の力があまりにも強大過ぎて誰もが恐れたからだ。


私は常に独りであった。世界から強制され、討伐隊に参加したり、パーティを組んだことは何度かあったが皆が私を恐れ、長続きすることはなかった。


最強や世界の頂点などと呼ばれてはいたが、それは決して良いニュアンスを含めたものではない。


「化物」


誰かがそう言った。

驚くほどその言葉は違和感なく私を表していた。


私自身は善であろうと努めていた。故に世界を苦しめているとされていた魔王と呼ばれていた存在も倒したし、異世界からの侵略者だって倒した。


だが、私は善を続けることは出来なかった。


世界は耐えられなくなったのだろう。私という圧倒的な力を保有し続けることを。


いつから独りになったのだろうか。


気付けば私には討伐隊が差し向けられていた。

その討伐隊はかつて肩を並べ、共に戦った事のある者達で構成されていた。メンバーは勇者や剣聖、大魔導師に聖女といった存在だ。

彼らは魔王や異世界からの侵略者などを倒す際に協力しあった唯一仲間と呼べるような者達だった。


だが、彼らから向けられる視線や殺気は決して仲間に向けられるようなものではなかった。


簡単な話だ。


以前は手を取り合って、魔王など比較的強い存在を討伐に向かっていたが、何てことはない。魔王程度、私一人で充分だったのだ。協力とは名ばかりで私がただ彼らに足並みを揃えていただけである。


世界から勇者や聖女などと呼ばれている彼らから見ても私はやはり化物だったのだろう。仲間と思っていたのは私だけだったのかもしれない。


彼らが放つ凄まじい魔法の嵐をレジストすることすらせず、私はただ無抵抗のまま立ち尽くしていた。


このまま死ぬことが出来ればいいのに。


だが、私の身体はそれを許してはくれない。聖剣で斬り付けられても、仰々しい名前の魔法を幾度となくぶつけられても私の身体は傷一つ付いていなかった。



いつまでこうしていただろうか。


依然として彼らは必死の形相で私を殺そうとしている。その表情をずっと見ていた私はいい加減ウンザリして魔法を放った。

何てことはない。訓練された兵士なら誰でも使うことのできるありふれた魔法だ。しかし、魔力量が圧倒的に違う。


私が魔法を数発放つだけで彼らは死んでしまった。


不思議と涙が溢れた。世界の敵として明確な悪を行った瞬間だからであろうか?だとしても涙が流れるとは思わなかった。

頬を伝う雫を拭うことすらせず、私は彼らの死体を見つめた。


後悔は、ない。悲しみもないはずだった。だが、頬を伝う雫が何なのかは理解する事が出来ない。


私は彼らをそのままにその場を後にした。


◇◇◇◇◇


それからしばらくたった。


世界は私への恐れを隠さなくなった。当たり前の話だ。勇者を殺したのだ。そんな化物、怖くないわけがない。圧倒的なまでの善を代弁したかのような存在である勇者。その存在と対峙した時点で私は善ではなくなっていたのだろう。

あの日から私は化物になってしまった。


私は現在魔界の奥地でヒッソリと隠れて生き延びている。ここなら私を殺しに来る者も少ないからだ。

だが、この場所でただ無意味に生を貪る毎日。流石の私もいい加減ウンザリしてしまっていた。


幼き頃から自らを鍛え続け、世界のために何かをしたいと子供ながらに思っていた。

その結末がこれである。


私は、間違っていたのだろうか。疑問は尽きることがない。どこで間違えてしまったのか。どうすれば良かったのか。いくら考えても答えはでない。ただ一つ分かることは私は独りであったということだ。


ずっと独りだった。孤児として拾われ、院で育てられていたが物心つく前に院は魔王の配下に壊されてしまった。だが、私だけは生き残っていた。そこからもう狂い出していたのかもしれない。


そんなことを考えていると、また私を殺しに来たのだろう。一人の少女が私の前に現れた。


たまにいるのだ。自らの腕を過信して一人で私に挑もうとする者が。

その少女もその類であろうと思い別段不思議には思わなかった。少女は何か言いたげではあったが、いつものようにすぐに終わらせるつもりだった。


だが、ある物に興味が引かれた。


少女が両手で握り締めている剣は明らかに勇者が持っていた同一の物ではないか。その剣から感じる聖気も同一のものであるようだ。


疑問に思った私はその少女に話しかけていた。久しぶりの来客に私も気分が高揚していたのかもしれない。


ーーー何故、私を殺す?


少女は答えた。


ーーー私は勇者と聖女の娘です、と。



納得したと同時に私は死ぬことを決意した。少女は仇打ちで私を殺しに来たのだろう。

ーーー彼女にならば殺されてもいい。


幸い彼女の攻撃は私に通るようだ。これなら死ぬことも可能だろう。

この世に未練という未練はないが、こうしておけば良かったという後悔はあった。その思いが無駄に私を生に縋り付かせているのだろう。しかし、良い機会だ。彼女に殺してもらうことにしよう。生きているだけで私は世界に迷惑をかけ続けているのだから。


私は少女と必死に戦闘をしているフリをして、わざと少女の持つ聖剣で貫かれた。


これで私は死ぬことが出来る。世界も安心することだろう。呆気ないものだった。本当に勇者一行を倒したのだろうか?と疑問を持たれてもいい体たらくだった。

ふと最強を倒した少女はどのような表情をしているのか気になった。親の仇を討ったのだ。満足しているのだと勝手に思っていた。


ーーーだが、少女は納得のいっていないようだった。


手を抜いた事がバレたか…?だが、どうやら違う様子だった。

必死に何かを叫んでいる。

何を叫んでいるのだろうか?

消えゆく意識の中、私の聴覚はその言葉を捉えることは出来ない。だが、薄れゆく視界の中でその唇の動きを理解することはできた。それは私の心の奥底の叫びと全く同一のものだったからだ。


「ーーーッ!!!私を…私を独りにしないでッ!!!!」


視界は暗転した。



毎週土日に1話、無理のない範囲で投稿していきたいと思います。

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