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すれ違い  作者: 北西みなみ
メイリーン編
7/27

エピローグ

長い長い。だから、エピローグという長さでは……。

それから次の日。


メイリーンの元に、男の友人だという男性が、手紙を持ってきた。手紙の中身は、出来るようなら一度話がしたい、話してくれる気があるなら、手紙を持ってきた男に、都合の良い時を教えてほしいというものだった。


メイリーンは、反射的に断ろうとした。会ってしまえば、やはり心は揺れる。万が一乞われることがあれば、頷きかねない自分を自覚しているメイリーンは、まだ会うことは出来ない、と言おうとした。けれど。


「何があったかは知らないけど、あいつ、本当に反省してるみたいだった。出来れば、ほんの少しでもいいから話を聞いてやってくれないか? 勿論、誰か友人を立会いにつけたっていい」


そう言う男性の顔は、友人への心配が溢れていて。


「はい。分かりました」


気付けば、首を縦に振っていた。


「ありがとう、助かる。それで、いつなら都合が良いかな?」


「いつでも。そちらが良ければ、すぐにでも」


下手に時間をおけば、考え込んだり逃げたくなることは分かっている。もうこうなったら、会おうと決めたその時に会っておきたかった。


「分かった。なら、少し待っていてくれるか?」


すぐ呼んでくる、という男性に、メイリーンは近くの談話室を差して、そこで待つと伝えた。



数分後。


椅子に腰かけていたメイリーンの元に、息せき切って男がやってきた。


「待たせてすまない」


言いながら席に着こうとしない男に、席を勧める。


「疲れているでしょうし、お話もしにくいですから、どうぞ座ってください」


男は、メイリーンの傍に来ると、片膝をついてメイリーンに首を差し出すように頭を下げる。


「話す機会をくれたこと、まことに感謝する」


「なっ! や、やめてください!」


それは、通常下の者が上に対して行う動作。伯爵家継嗣が子爵令嬢にやるにはおかしなことで。それを行うのは、相手に対して最大級の謝罪を表す。


咄嗟に立ち上がって叫んだメイリーンに構わず、男はこう告げた。


「今まで、私は貴方を守っているつもりでいた。けれど、本当はそうではなかった。私は貴方を縛りたかっただけだ。貴方が私の他に頼る存在を見つけ、私から離れていくのが怖かった。貴方にまで去られてしまったら、と思って、貴方が身動き取れないように檻に入れて追いつめていたんだ」


「分かりました! 分かりましたから、謝罪を受けますから、立ってください!」


メイリーンの必死の訴えに、男がようやく立ち上がる。


「私は、今までの行動を振り返って愕然とした。私が貴方にやっていたことは、守るどころか貴方のすべてを否定し打ち砕く行為だったと」


「……」


「貴方が私を見限るのは当然だった。それなのに、そんなことすら、気付かなかった」


「……それは」


何か言おうとしたメイリーンだったが、言うべき言葉が浮かばず、結局は口を閉じる。


「今日は、貴方に謝りに来たんだ。今更何を、と言われるかもしれない。こんな身勝手な人間、許せなくて当然だ。会ってもらえなくても仕方がないのに、私の自己満足にしかならない謝罪を聞いてもらって感謝する」


真っ直ぐ頭を下げて謝る男に、声をかける。


「悲しかったのは事実です。私は認めてほしかった。たとえ完璧ではなくても、やれることはあるのだと。貴方みたいに何でもできるわけではないけれど、それでも役に立ちたかった。それを否定する貴方の傍にはいられなかった。でも……」


男はじっとメイリーンの言葉を聞いている。


「私、まだ貴方のこと、好きですよ?」


男は、目を見開き、メイリーンを見つめた。


「私は……」


その、声色で。メイリーンは自分の敗北を知った。


「分かっています。好きな方が、いるのでしょう?」


「……すまない」


心底自分自身を責めているような声に、笑う。


「いいえ。元々が間違っていたんです。間違いを正すのは当然です。貴方は困っている私を見逃せなかっただけ。私は、自分を助けてくれる貴方に甘えただけ。そこに恋愛感情は関係なかったんですよ」


「メイリーン……」


メイリーンは、とっておきの笑顔で答えた。


「だから、元に戻りましょう? 私が困っていたらまた、助けてくださるのでしょう?」


「あぁ。貴方が望んだ時は、すぐに駆けつける」


「そんなこと言って、フィアナ様に前の彼女と浮気してる、と逃げられたらどうします?」


いたずらっぽい表情でねめつけてみると、少し表情を和らげた男が、真剣な声で答える。


「フィアナは言わないだろうが、もし言うなら、一切会わないことを誓う。地の果てまででも追いかける」


その言葉に、なんだか笑えてくる。悪いことした相手に対しての約束を、そんなにあっさり覆すと宣言する男。でも、それは男が全て本心を話してくれているということで。


「カイル様って、結構酷いですね」


「あぁ、そうだな」


「やっぱり、私には無理そうです。貴方に付き合うの」


「………そうか」


「はい。なので、お別れしてくださいね」


「あぁ。……メイリーン、ありがとう」


「いえ。フィアナ様に、今度またお茶に誘ってください、と伝えてもらえますか?」


「あぁ、分かった。……では」


男が去っていった後、メイリーンは暫くぼーっとしていた。


カイル様は、謝ってくれた。そして、自分が望めば、また助けてくれると言ってくれた。


それで、十分だ。十分なんだ。


メイリーンは必死に言い聞かせた。



それから経って、メイリーンが談話室の扉を開けると、すぐ目の前にクラスメイトがいた。


「やあ、メイリーン嬢」


「……」


何故ここにいるのか。意図を測りかねたメイリーンが黙っていると、言いにくそうに頬をかきながら、理由を語る。


「いや、偶々二人が話すというのを見てしまったものだから。勿論、盗み聞きなどはしていないよ」


それは心配していない。談話室は、外から中の様子は見えるが、声は聞こえないようになっている。扉を閉じてしまえば、その内容を聞くことは出来ないのだ。


「ただ、その、二人が別れたという噂が聞こえて。その、少しだけ気になったんだ」


言いながら、怒ってるかな、とこちらを伺う姿に、ぷっと吹き出す。


「えぇ。私とカイル様はお別れしました。……貴方の忠告を無視した報いかもしれませんね」


「そんなことは!」


慌てふためく姿に、胸につかえていた重たい何かが、少し軽くなったのを感じた。


「えぇ、冗談です」


「……」


軽く返したメイリーンに、微妙な顔をするクラスメイト。そんな姿に勇気づけられ、気になったことを聞いてみる。


「何故、気になったんですか? 以前の忠告も、どうしてしてくれたんです?」


あの時は、好きな人が馬鹿にされたと思い、気付くこともなかったが、彼女は確かに私を心配してくれている。


「何故って、クラスメイトだからね」


さらっと答えるクラスメイトに、口をとがらせる。


「その割には、あまり話とかしてませんけど」


そもそも、自分がクラスメイト達と上手く付き合えていれば、男との出会いがあったかどうかも怪しい。あれは、自分がいつも一人でいたからこそ生まれた関係だったのに。


「それは仕方がない。何せ、私はメイフェア家だから」


突然の変わった話に首をかしげる。


そんなメイリーンを見た彼女は、ふっと笑って続けた。


「やはり、気にしていなかったか。メイフェアは、コルト家とあまり仲の良くない家との付き合いが多い。学園では、身分は関係ないものとされてるとはいえ、うちのクラスにはキルトンもいる。あちらは私を気に入らないようだから、私が近づけば、一緒に目の敵にされる可能性が高かったんだよ」


驚いた。彼女は、そういったことを気にしないのではなかったのか。


「けれど、貴方は昨日、正式に教授の助手になった。教授は、メイフェアにもキルトンにも親しい。その助手なら、誰と話していようと文句を言うことは出来ないからね。皆が牽制しあって動かない内に、私が抜け駆けしてしまうことにした訳だ」


「そう、ですか」


メイリーンは、自分がどれだけ周りを見ていなかったのか分かった。これは、男が心配するのも大げさではなかったのかもしれない。こっそりと少し凹んだメイリーンに、明るい声がかかる。


「あぁ。……で? どうかな? 私を友人にしてくれる気はあるかな?」


そういって、にっこり笑って首をかしげる。


「えぇ、喜んで。こちらからお願いします」


こちらも笑って、スカートをつまんで格好をつける。


明日から、また新しく学園生活を送れそうな気がした。

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