悪夢 ――エピローグ――
結局、今回の事件は、過去に自分が振った女性達が企んだ狂言だったらしい。見せられた髪の束も、以前、頭を怪我して髪を失った友人のために、同じ髪色の皆で少しずつ提供して作った髪を使ったとのことだ。そういえば、一時期、同じ髪色の子達が一斉に髪を短くしていたこともあった気がする。
戻ってこないクラスメイト達は、皆、彼女達が事情を話して、彼方側に引き込まれたか、自分に真相を話そうとしたために、彼女達に拘束されて戻ってこれなくなっていた。
彼女達を恨む気はない。フィアナともう一度付き合うことになった後、彼女達一人一人に、謝って回ったが、それで本当に許してもらえると思っていた訳ではない。
フィアナの無事を確保した上で、自分のみを騙したのだ。彼女達にはむしろ感謝すべきなのだ。彼女達には、実際にフィアナを傷つけるという選択肢もあったのだから。
そう。自分への恨みが、フィアナに向かう可能性があったのだ。
自分の意識では、彼女達にそこまでひどいことをしたと思っていなかった。最初から無理でしかない相手と付き合ったことについては申し訳ないとは思うが、その時は、その事実自体に自分が気付いていなかった。同時に複数と付き合うことはしていないし、付き合う際に、違うと感じたら別れるという条件をつけ、それに頷いているのは彼女達なのだ。
自分が謝ったのは、ただ、自らも同じ思いを味わったから。フィアナに捨てられるかもしれない、そんな恐怖を感じながら、フィアナに縋った。彼女の優しさに付け込んで、逃げられないようにした。
そうしてフィアナを取り戻して、初めて分かった。彼女達も、きっと勇気を出して恐怖と戦いながら復縁を願ってくれたのだということに。それに対し、もう別れたのだから、とまともに取り合おうとしなかった自分は、確かに人非人だったのだ。
だから、謝った。自分にはフィアナしかおらず、どんなに望まれようと、貴方達との未来は考えられないのだ、と。一人ひとり向き合って、それでも貴方では駄目なのだと、思いを返せなくてすまないと。納得してくれる者もいれば、できないという者もいた。自分だって、フィアナに捨てられて、そう簡単に諦めなどできない。だから、納得できない者は、それでも仕方がないと思った。
自分に出来ることは、変わらずフィアナを想い続けて、想いを見せ続けることで諦めてもらうことだけだったのだから。
けれど、今回の騒ぎに参加したのは、自分が付き合ったことのあるほぼ全員。
納得したと言ってくれていた者達も参加していた。
彼女達は、言った。ちょっとした試験だったのだと。フィアナをそれだけ好きなら、証拠がみたいと思ったのだと。それだけであり、こんな大事になるとは思わなかったのだと。
ぞっとした。
自分へのちょっとした試験に、もし、フィアナが傷付けられたりしたら。自分へ向かう悪意がフィアナへと向かったとしたら。
父はいつも言っていたのに。敵を作るな、と。人は生きているだけで、呼吸しているだけでも何かの敵となりかねない。味方は作らなければ現れないが、敵は勝手に沸いてくる。だから、自ら敵を作らないこと、味方を作ることを自分に言い続けてきたのに、自分は勝手に敵を作った。
フィアナはどうせ手に入らないと絶望し、何もかもどうでもいいとばかりに振る舞った。挙げ句、フィアナに会ったら諦められずに捕まえる始末。
こんな自分を見て、それでも逃げないフィアナは、相当物好きだと思う。
けれど、もう逃がせはしない。自分の存在意義を見つける前のあの頃に戻ることなど出来はしないのだから。
暗闇の中、無性にフィアナに会いたくなる。会って、笑顔を見られたら。どうしたの? と自分を見つめる瞳に照らされれば、この胸に巣食う恐怖の闇は消えてなくなるだろう。
けれど、今は夜中。夢の世界に旅立っているであろう彼女に会う術はない。
カイルは、せめて夢の中で会えるよう、彼女を思いながら、強く目を瞑った。明けない夜明けはないのだ、という言葉を思い出しながら。
元々これ、メイリーン除いた元カノ達が狂言誘拐を企んだけれど、能力だけは無駄にあるカイルに矛盾点をつかれてすぐにばれ、お互いに謝って終わり。皆笑って終わったけど、カイルは軽く昔のトラウマを思い出して……、という話だったのです。
だけどもう少しカイル脅かそうかな、と、カイルに事前に精神不安定剤を飲ませてみたら、あら大変。
これ、ちょっとした騒ぎというか、大騒ぎになったかも。ここまで大事だと教師呼ぶよね、普通。飛んでこないのは、まぁ、あれだ。きっとどこかに教師全員で出張してたのよ。警備もちょうど、勝手に入ってきた野良猫捕まえるために走り回ってたのよってことで、ひとつ。
ざ、ザマァ! って思えましたかね? 私の力では、これ以上大事には出来なかったんですが、頑張った努力に免じて何とか一つ。へこへこ。なんだかんだでうちの子可愛い作者には、これで精一杯です。
生ぬるい! 活動報告で書いたような話が良かった、と言われる方。申し訳ございませんが、ご自身の妄想力でひとつよろしくお願いします!
因みに、フィアナは予定通り西棟でお茶会。騒ぎは、協力者がさらっと誤魔化していたので、そこまで入ってこず。終わってカイルの元に行こうとしていたら、周りの人から「カイルがフィアナの名を呼びながら、あっち(裏門)へ走っていった」という噂を聞いて、慌てて自分も追いかけたら、何だか分からないけど抱きしめられながら泣かれてしまったというお話。
更に言うと。この騒ぎ、振られた子達だけでなく、彼女達を好きな男の子やお祭り大好き便乗犯もいます。四年で両手に収まらないくらいには付き合ってるカイル君ですが、流石に女子だけでクラスメイト全員拿捕するほどの数とは付き合えませんよ。
さて、次は、元々この話を導入に進むはずだったカイルの過去話です。別名ぱぱんズの暗躍。いや、そこが主眼ではないはずですが。では、また気がむいたら見にきてくださいませませ。