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プロローグ
放課後の学園の裏庭に一人、呆然とした様子で打ちひしがれていた男の顔に、長い影がかかる。
「カイル様?」
影の持ち主にそう呼ばれた男は、顔を上げることもなく投げやりに答えた。
「………元婚約者殿か。どうした、何か用でもあるのか?」
氷のように冷たく響くその声にひるむことなく、男の前にちょこんと座った少女は、小首をかしげながら男の顔を見上げた。
「えぇ、はい。私、貴方に謝ろうと思いまして?」
「何故、疑問形なんだ」
男の突っ込みに、ぱちくりと眼を瞬かせた少女は、くすくすと笑いながら言い返す。
「そちらなんですの? ならば貴方は、私に何か謝られるような覚えがありまして?」
「………特にないな」
「まぁ。ならば、何故謝るかと伺ってほしかったですわ」
「………」
唇を噛みしめ、少女から眼をそらして下を向く男に構わず、少女は歌うように話し出す。