3・大人は利害で釣れ、青少年は食べ物で釣れる
発酵食品食べる勇気。
「やあ、サーフェイ導師!」
異様に明るい呼びかけに、サーフェイはいつものフードの陰で溜息を吐いた。ゆっくり振り返る。
「アンドレアス侯爵」
にこにことあからさまな笑顔を振りまきながら歩み寄ってくるのはアンドレアス侯爵、この学園で子ども達に剣術を教えている教師であって叙勲を受けた騎士でもある。
悪い人間ではないが腕が立って地位があるのにあまり権勢が無い故か却ってかなりの野心家である。実は彼も攻略対象の一人だ。ゴルディリアの能力を己の出世のためと見込んで育てようとするが、次第に彼女自身に惹かれていくという、ある意味これもまた王道を行く設定である。
なので見た目はもちろんいい。赤茶色の髪、涼しげな茶色の目元には、少年達にはまだ足りない大人の色香が感じられる。剣を教えているだけあって腕前も確かなものだ。ただ、逆に言えば教師としてしか認められないのは家柄があまり良くないせいでもある。侯爵家ではあるが領地も貧しく、有力貴族とのつながりも弱い。そのため、将来功績を残すことも出来るはずの騎士団ではなく子ども達の教育へ回された。それを本人はあまり喜んではいなかった、のだが。
「……どうか?」
思わず聞いてしまったのは、その彼が傍で見ていて判るくらいに上機嫌だったからだ。
「うん、ちょっとあなたに礼を言いたくてね。……湿地で取れる、新種の麦の栽培を進めているのが導師の関係だろう?」
「あ……ああ、あの」
正確に言うと新種の『麦』ではない。実はサーフェイが前世で馴染んでいた『米』だ。似たような穀物を見つけて湿地で水の管理をすればそこそこ収穫が出来るからと育てられそうな土地を探してもらっていたのだ。もちろん、出来た米の調理法も含めて。
詳しいことはソルの従兄である商人が仕切ってくれたが、向いた土地が見つかり栽培も順調に進んでいると連絡があったところだ。しかしそれがアンドレアス候とどうつながるのか判らない。それは本人が種を明かしてくれた。
「我が領地が、その栽培に適しているということでね。土地を買い取った商人から、話を聞いたのだよ。うまく行くようなら、他の農民にも種を分けてもいいという。……こちらにとっては願ってもない」
しみじみと喜びを込めて語る、その侯爵の領地はお世辞にも豊かとは言い難い。川の下流で湿地が多く、この世界では一般的な麦を栽培するには湿度が高すぎるのだ。
逆に水稲には向く。まだ栽培が始まったばかりで、それが産物として成立するかは判らないが、それでも土地を売った代金だけでも侯爵には有り難いのかもしれない。何らかの結果が出れば周辺に広めてもいい、のならそれはすなわち領主である彼の収益になる。いずれにしても侯爵にとってはいいこと尽くめだ。
「ちゃんと育つかは判りませんが……その収穫は、とりあえず最初のうちだけでも学園の食堂に入れていただけませんか」
「ほう? 何故だね?」
「出来た穀物を、普通の麦とは違う使い方をしようと。この件については食堂の料理人が協力してくれているので」
「なるほど……それは興味深い。もちろん構わないが、しかしその使い方とやらをうちの領地の人間にも教えてやれないだろうか」
「ああ、それはもちろん必要ですね。折角作ったものだ、侯爵の領地でも召し上がれなくては意味がない」
提案に素直に頷けばアンドレアス侯爵は目を見開いた。何かマズいことでも言ったかな、と思う間もなく伸びてきた腕に渾身の力で抱きすくめられる。
「何という、慈悲深さだ……! 感謝する、サーフェイ導師! 最初の収穫は、是非あなたに捧げよう!」
「そ、それはどうも……」
情熱的な抱擁をされながら熱く語られてサーフェイは目を白黒させる。
「ただまだ、どの程度収穫が得られるか或いは食べる方も味や調理法など、いろいろ確かめなくてはならないことがあるから。そんなに喜んでいただいたところ申し訳ないけど、どうなるかはまだ未知数で」
「いやいやいや。それでもだ、何というかこの、行き詰まっていた我らの先行きを照らしてくれた、それだけでも十二分に有り難いのだよ!」
「そ、そうですか……あの、ちょっと、いい加減に離してもらえませんか」
何しろ熱く語っている間、がっちり抱きしめられたままだ。
サーフェイは身長こそそこそこあるもののこの年齢にしても細身で魔導師なものだから腕力はまるでない。騎士であり年齢も上であるアンドレアス候を押し退けるだけの力は望むべくもなかった。
じたじたしているとさすがにそれに気づいて彼も腕を緩めてくれる。ようやく離れて大きく溜息を吐くサーフェイに、アンドレアス侯爵はにっこりと微笑んだ。
「本当に感謝するよ、栽培についても何か情報があれば、お知らせしよう。調理方法については、食堂に人を行かせても大丈夫かな?」
「あ、ええ……言っておきます。後ですね、この『麦』は粉に挽きません。そのこともお含み置きください」
「ほう、それはまた……なかなか、おもしろいことを考えていそうだね」
「さて、それはどうでしょう。……まあ、詳しいことはその話を聞いてからでも」
適当に誤魔化して別れる。その足で食堂に向かうと、ソルが興味津々という顔で待ち構えていた。
「なになに、アンドレアス侯爵に抱きつかれてたんだって?」
「……耳が早いな!」
フードの陰で顔をしかめているのに気づいているのかどうか、ソルはあっけらかんと笑って応じる。
「いやだって、あの『剣が使えない男など何の価値もない』つってる侯爵様がだぜ? 相手が有力貴族だってんならまだしも、若輩の魔道師抱きしめて何やら感極まってちゃ生徒だって吃驚するわ」
さぞや噂が出回りそうだとサーフェイはこめかみを押さえる。
攻略対象だけあってアンドレアス侯はなかなか見目良く、腕も立つ。当然学内では人気も高い。そんな人物が対照的に人望のないしかも全く接点のない相手を熱狂的に抱擁していれば、それは人目に付くだろう。普段、愛想は良くても自分から他人に接触するようなことはしないから尚更だ。
「大した話じゃないんだがな……例の『米』、適した土地ってアンドレアス候の領地だったんだよ」
「あ、それで……何かえらい感激っぷりだったって聞いたけど」
「そりゃ、領地の収益が上がる話なんだから嬉しかろうよ。……あれであの人、領主としては真面目にやってんだな。自分の収益が上がることもだけど、領民の生活が良くなると言う意味でも喜んでたみたいだから」
「なるほど。……うまく行くといいなあ、うちも助かるし」
ソルももちろん稲作栽培の話は承知している。実験的にサーフェイが育てた僅かばかりの米を彼の指示で料理した本人だ。小麦とは全く違った特性とその味に、いろいろ試すことがありそうだと料理人として燃えている。
「挽かないで保存するんだろ? 大丈夫なのか?」
「それこそ状態保存の術でもかけりゃいいんだが。まあ一般には籾殻つけてあれば保つと思う。地域によっては年に二回収穫できるところあるかもしれないし」
基本、サーフェイは食い意地が張っている。前世の記憶を再現するのも、食べ物が主だ。中でも米は、今この世界になかなか見つけられなかったので結構熱が入っている。何しろ醤油に似た魚醤の一種を見つけてあり、これを豆で作れないかと試行錯誤中。これが成功すれば、ますます米が食べたくなるに違いない。
「あっ、そうだ。フェイ、珍しい食材あれば教えてくれって言ってたよな」
「ああ」
フェイ、は最近ソルが人前で彼を呼ぶとき使う名だ。平民の一学生である彼が直接の関わりは薄いとは言え、教師であるサーフェイとあまり親しすぎるのも良くないと忠告した結果である。
「これ、親父が取り寄せてくれたんだけど……」
言いながら取り出して見せたのは玉蜀黍の粒だった。乾燥した堅そうなものを摘んでサーフェイは彼に疑問の目を向ける。
「これが? 普通の玉蜀黍とどう違うんだ?」
「カッタいんだよ。普通の挽き臼じゃ挽けないくらい。……内側は案外柔らかいんだけど。どう処理したらいいのか、って思って。まあこれ、作ってるわけじゃなくて時々こうなっちゃう株が出るだけらしいんだけど」
「……油で、炒めてみたらどうだ。内側から弾けるかもしれないから気をつけて」
多分これは、いわゆる爆粒種の玉蜀黍ではないだろうか。一般的な種としての玉蜀黍はサーフェイの記憶にあるものとあまり変わらない。だったらポップコーンだってあってもおかしくはないだろう。
「おお……何かおもしろそうだな、やってみるわ。揚げるのとはまた別のやり方か」
「揚げちゃ駄目だろ、多分。……揚げりゃあ大概のものは食えるけどなあ」
「料理人のやる気を削ぐなっ」
その、堅い玉蜀黍はサーフェイの読み通り熱い油で熱し、圧力を掛けることで弾けてこれが素晴らしく美味しかった。ちょっと塩を振るだけで十分舌を楽しませる、というのでソルもその父もすっかり気に入ってこれも専門で育ててもらえないかと言い出す。
「元々は、パルミナの故郷辺りで作ってる玉蜀黍だって言うんだけど。どうだろ、伝手ってないかなあ」
そのよく見られるという地域の出身者がこの神官見習いだというので、すっかり親しくなった王子に頼み込んで引っ張りだしてもらったのだ。しかし当たり前と言えば当たり前の話だが、パルミナの方はいきなりのことにすっかり面食らっている。
「これ、って……家畜の飼料にするような、出来損ないの玉蜀黍のようですが。こんなもの作ってどうするというのですか」
平民であるソルにも敬語なのは彼の癖というか処世術の一種だろう。常に穏やかで物静かな優等生、という枠からはみ出すことを極度に嫌う、というかいっそ恐れている。
「うん、美味い調理法見つかったんだ! 出来た分だけでいいから、売ってもらえないかと思って」
対照的にソルはあっけらかんとてらいがない。枠にはめるとか自分の立場とか、そういうものに基本的に気遣わないのは少なくともこの学園内においては身分の差はないと、そういう建前があるためでもある。だからこそ、やんごとない身分のエイメッドやトパジェ、更には王子その人の前でも当たり前のような口を利く。もちろん一部にはそうしたソルの態度を咎める貴族もいるが、何しろ王子自身すっかり彼と親しくなって気を許している。手がけた新作料理まで毒味もさせずに試食してさすがにエイメッドに怒られる始末だ。
この爆弾玉蜀黍も、味見をした彼等にもずいぶん気に入られた。王子やトパジェはともかく、エイメッドにも感心されるというのはいたく珍しい。
そのため彼等が寄ってたかってパルミナを食堂に引っ張りだしたのだが、それは彼を案じているためでもあるのだろう。どうやらおこもりはまだ続いているらしく、サーフェイもまだ講義で彼を見ていない。ソルに頼まれて顔を出した食堂で、久しぶりにその顔を見た。
パルミナは他の攻略対象に比べれば線の細い少年だ。どこか少女めいてさえ見える美形ではある。身につけているのも質素な神官服で、魔導師のマント並に体型を読ませない。背はそれほど高くないし、艶やかな黒髪が肩に掛かっている容姿は儚げささえ感じさせる。
もっとも儚げなのは見た目だけ、なかなかこれで強かな気の強さも持ち合わせている。ここへ引っ張り出すときも、トパジェの誘いもエイメッドの要請も拒絶するので結局王子が強引に強権を発動して引きずり出したというのが真相らしい。
「実際美味いからな、手の掛け方によっては。……ソル、パルミナにも食わせてやってくれ」
「はいよっ」
王子の言葉にソルは用意してあった品を差し出す。中から弾けて出来る爆弾玉蜀黍は見た目はあまり良くない。というか他に似たものがあまりないという方が適切か。サーフェイの知るポップコーンと違うのは、内側の柔らかい部分も黄色くて全体的に一色に見えることくらい、味はあまり変わらない。
状態保存の魔法を掛けてあったからまだ温かい。それをパルミナは不審そうに見ているが、彼より先に王子が手を出した。
「うん、美味い。ソル、新しい味付けはどうするんだ?」
「まだ考え中」
「ってか王子、またそうやって毒味もさせずにつまみ食いしないでくださいよ」
呆れたようにトパジェが突っ込み、エイメッドは無言のまましかし実に雄弁な溜息を吐く。
「何だよー。……エイメッドはともかく、トパジェは自分も食いたいだけだろ」
「そりゃあ、毒味は俺の仕事でございますから」
しれっと宣うトパジェに王子は苦笑する。そのままポリポリと、自分達だけで食べてしまいそうな彼等にソルが呆れた声を出す。
「ちょっとちょっと、二人とも」
「パルミナに食べさせるのではなかったのですか」
エイメッドも呆れたような溜息を吐く。そこへ、サーフェイはもう一つ用意してあった大皿を彼等の前に置いた。
「では、こちらをどうぞ。……いいんだろ、ソル?」
「おう、悪いなフェイ」
今日のサーフェイは普段の刺繍やアミュレットを使って魔力を高める高級なマントではなく、学生にふさわしい地味な服をまとっている。それでもパルミナと同様、魔導師と判るものだ。顔を見せない覆面の魔導師とあだ名される人間には見えない。
「……おまえは?」
「俺は単なるソルの友人です、アダティス殿下。これが新作の、爆弾玉蜀黍ですが……甘いのと辛いのを作ってみたので。よろしかったらトパジェ殿、毒味をお願いできますか?」
「どれどれ。見た目はどっちもイマイチだねー」
楽しそうに身を乗り出すトパジェに王子はちょっと不満顔だ。要は自分より先に新作を味見、というのが羨ましいのだろうが立場的に文句は言えない。
「で、どっちが甘い方なのかな?」
「こちらです。……甘い方もですけれど、あまり使われていないものなのでどうかな、と」
皿に盛られているのは濃い褐色が絡んだものだ。微妙に色味は違うが、見た目では判別しにくい。
「ふむ。……甘いの、ちょっと苦みもあるけど……美味いな、これ」
トパジェは貴族の子弟として、社交にも慣れているしあちこち顔も広いからその舌も肥えている。そういう意味で、珍しい食べ物や見たことのないものに対しても意外に垣根が低い。特に、ソルの料理の腕は彼も信用しているから躊躇いがなくてしかも批評もなかなか的確だ。
「あとこっち辛い方ちょっと面白いな。何これ、塩じゃないし……香辛料?」
「それは、フェイが」
ソルの言葉に視線を向けられたサーフェイは肩を竦める。
「今、新しい醤を作っているところです。まだ量は出来なくて味も安定しないのですが」
「へえぇー。ちょっといいかも。あ、きっとエイム好きだよ、この味は」
「そう、なのか?」
うんうん、と頷くトパジェにつられたようにエイメッドも手を伸ばした。摘んだ菓子をじっくり噛みしめ、それからおもむろに頷く。
「確かに。思ったよりは辛くないが……深みのある味だな。これは、他のものにつけても美味いのではないか」
「そうですね。肉とか魚のソテーに合わせてもいいと思います」
割と、この世界の味覚はサーフェイの前世の故郷に通じる部分がある。ただし美食に人生を賭ける人達のいた世界に比べればずいぶん単純で、揚げ・蒸しや燻しがなかったり或いは発酵食品も酒などの僅かな例外を除けば扱われていない。それは逆に発達した魔法で食品が腐敗しないよう処置が出来るためだろう。
それを踏まえてサーフェイは醤油を開発するに当たって結構苦労もした。しかし上の人間を取り込むのも一つの作戦と、今回バター醤油味を作ってみたのだ。もう一方は砂糖を焦がして、カラメル風に仕立ててある。舌の肥えたトパジェに認められたということは、一定以上の水準に達していると判断していい。そのことに安堵する。
ようやく許可が出てアダティスはその新しい味覚に飛びついた。
「うん、うん。この甘いの美味しいな、何だ?」
「……砂糖を熱で溶かしています。少し焦がすくらいにして、仄かな苦みと香ばしさを味わえるように」
「ほお。それは興味深い。辛い方は新しい調味料だというが……これは何で出来ているんだ?」
王子の問いにサーフェイはちらっとソルと目配せを交わす。相手が苦笑混じりに頷くのを確認し、それから口を開いた。
「恐れながら。……豆なんです。王子のお嫌いな」
「……んん!?」
アダティスは基本真面目だし与えられた責務にも熱心に取り組むがさすがに王子様、甘く育てられている部分もある。彼の場合それが顕著に出ているのは食べ物の好き嫌いで、ソルが最初親しくなったのも食事に配慮させようとする彼を食わず嫌いは良くないと(実際食べないで嫌っているものが多かったこともあり)いろいろ手を変え品を変えしてそれを少しずつ克服させたのが始まりだ。そもそも本人は『配慮を求める』とか言っているが実際のところ単なるわがままでしかなく、これに関してはトパジェは半笑いで、エイメッドに至ってはお説教の一つもかますような話だ。
「本当か? いやだけど全然豆臭くもなければぼそぼそしてもいないぞ」
「正確に言えば、豆を特殊な方法で熟成して絞ったものです。なので豆の栄養とはちょっと違いますが……これ、野菜にも案外合います」
言いながら醤油の小瓶を取り出す。差し出せば、一歩踏み出して受け取ったのはエイメッドだった。無表情で小瓶の蓋を取り、匂いを嗅ぐ。あんまり真面目な顔をしているので笑ってしまいそうだがこちらもせいぜい表情を引き締める。
「確かに……同じ匂いがするな」
「これ、くれるのか?」
トパジェと一緒になってそれを覗き込んだ王子が目を輝かせて振り返るのに頷く。
「ええ、お少しで申し訳ございませんが。ご笑納いただければ幸いです」
もちろん、こんな少しばかりを差し出してもたぶん毒味だの分析だので実際アダティスの口に入るのは僅かなものだろう。毒味とはいってもトパジェやエイメッドもあまり口にはしないに違いない。ただ、アダティスに渡せば王宮に行くことになる。王宮の料理人ともなればこの国全体の料理を左右する存在で、そうした者がこの新しい調味料を知ったらどう動くか、それを楽しみにしている部分はあった。
もちろん、サーフェイ本来の立場から言えば王宮魔導師の長である伯父を通すという手もあるのだが、そうもいかない彼の事情もある。
「ふむ。フェイ、といったな。おまえは魔道の勉強をしているようだが、こういう食べ物を開発しているのか」
「いえ……正直それも楽しいんですが、師匠には嫌な顔をされるのですよ」
サーフェイの師匠はかつては父だったが、今は自分が教師の側でそしてその王宮魔導師である伯父が師匠でかつ身元保証人だ。彼はサーフェイの能力を買っていて彼の食べ物関係の情熱にあまりいい顔をしない。そんなことよりもっとやるべきことがあるだろう、というのがその言い分で、判らないではないがサーフェイ自身は自分の能力に懐疑的だ。
「まあ、いいじゃないですか。……パルミナ、美味い?」
不意にトパジェが言って一同が振り返ると、パルミナは最初に出された塩味の爆弾玉蜀黍を殆ど食べ終えるところだった。そこそこ大きい皿に盛られていたのに、もう底が見える状態になってしまっている。
「パルミナ、気に入ったようだな」
「……な、何か……食べてみたら、ちょっと……手が、止まらなくなっちゃって」
にやにやとしか言いようのない、ちょっと品のない表情で笑う王子にパルミナは目線をさまよわせながら言い返す。しかし普段白い頬は上気し、口元には食べかすが付いていてこの少年にしては珍しく子どもじみた表情だ。
「そうなんだよなー。何かこれって、食べ出すとほんと、キリがないって言うか手が止まらないんだ。適度な歯ごたえがいいのか塩加減なのか」
「後は油とか。まあ、しょせんはおやつなんだけど気に入ってくれたなら良かったよ」
しみじみ頷いて同意する王子にソルも頷く。実際、最初に成功したときそれなりに量は出来ていたのに二人掛かりで黙々と平らげてしまったのは事実だ。どうも、玉蜀黍自体と油の相性が良かったらしく、サーフェイにとっても前世のものより美味しい気がする。
「こちらも食べてみないか。これはこれでとても美味しい」
エイメッドがそういってまだ残っていた味付きの皿を回してやる。それを素直に摘んだパルミナは目を丸くした。
「本当だ……美味しい、これも……辛いのもいいけど、この甘いのは特に好き」
どうやらパルミナもはまってくれたようで、原料に関しては故郷の神殿に掛け合うことを約束してくれた。代わりに、この作り方を教えてその故郷でもこれを作れるようにする。
「だって、いろんな人が作ったらもっといろんな味が出来るかもしれないじゃん。その芽を潰すのはもったいないだろ」