エピソード5 偉人だって人間です
船の旅は快適なものだった
吹き抜ける風が塩の香りを放ち
少し揺らされるその感覚さえ揺りかごのようで心地いい
澄んだ青い空に浮かぶ入道雲が
赤道直下の南国であることを強調しているかのようだ
海鳥の鳴き声と波の音が耳にささやいてくる
こんなにもすばらしい旅を、たった一つの雑音がぶち壊す
「オヴェェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
シェードは重度の船酔いだった
ミリィの頭に、怒りマークが付いているような感覚がする
「船室でねてこれば?」
棘のあるニアンスで云った
「ばっか・・・おま・・・・外に居ないと・・・・死ぬ・・・」
「いっそ死んでて」
言い捨ててミリィは船の一番見晴らしのいいデッキに移動した
ここなら雑音は聞こえない
コバルトブルーに光り輝く海はとても美しい
ここは<ゴコルニア大海>のど真ん中だ
地平線の向こうまで海だ
船の周りを黒い影が泳いでいる
クジラかと思ったが違う
怪物だ!
あまりにも巨大な影が
船の周りを泳いでいる
「あれは十獣王の一体
シーマンティウスだ
産卵期のメスでなければ、危害は加えてこない」
クルートが後ろのテラスでくつろいでいた
夕刻になると
海は赤く変わっていく
こんなことをしていると
まるで観光旅行をしている気分だ
シェードの船酔いも収まり
三人は食事を済ませ
船室に戻った
「結構広いよな・・・この部屋」
「高かったぞ〜・・・一人8000ジムだ」
恐ろしく高い値段だった
「そ・・・そんな大金どこで手に入れたんだよ!!!?」
「あの角だ
薬屋が30000ジムで買い取ってくれたんでな」
他の船室をのぞいてみたが
とても質素なものだ
ここのようにバスルームが備えられているわけではない
わざわざこんな高い部屋を選んだのは
他ならないミリィへの配慮だろう
16歳の年頃の女の子を
4日もの船旅で風呂なしで生活させるわけにはいかないからだ
知ってか知らずか
ミリィはベッドで転寝している
船の旅も最初は大自然に感動するが
何分、周りの景色意外は何も無い船の上では
するコトが何も無い
「・・・」
雲は常に形を変えて流れている
シェードは意外にも雲が好きだった
エトピタートでは
雲の近くは突風が起き
とても危険だった
決して同じ姿を保たない雲は
見ていて飽きないらしい
船は何事もなく航路を進む
「はぁ・・・」
浴槽でミリィはため息をついた
魔法矢で弓の練習をしていたのだが
なぜか、思うところへいかなかった
弓の弦は固く
限界まで引くにはかなりの力が必要だ
最近腕が少し太くなった気がする
食事の量も若干(本人談)増えている
「どうしよ・・・・・」
風呂から上がり
鏡を見た
「!!!」
「長いなぁ・・」
男二人は待たされていた
もう30分はたつ
「まぁ・・・軽く一時間はかかるだろうな」
クルートはなにやら古びた本を昨日から読んでいる
キャーーー
突然、浴槽から奇声が聞こえた
シェードはあわてて剣をとり
風呂場へ走った
「どうした!!?」
「きゃーーーーーーーーーーーー」
「ぐほっ」
手加減無用の鬼弾ナックルがミゾオチにジャストミートではいる
抵抗することもできずシェードは倒れた
「なんで、いきなり入ってくるのよ変体!!!」
「お・・・ま・・・・が、叫ぶ・・・から・・・・」
「・・・・そ、それは、背中に変な紋様があったからビックリしただけ!」
こわれるほど強くドアを閉めた
それを見届けるまでもなく
シェードの意識は飛んだ
「青春だねぇ〜」
「クルートさん、昨日から何を読んでるんですか?」
気を取り戻したが、まだ頭がクラクラするシェードを無視して
ミリィはクルートの隣に腰を下ろした
「これか?これはヴァリスマリネリスでもってきた古文書を訳してもらったやつだ」
どうやら、城下町の鑑定屋で現代文になおしてもらったらしい
「こいつがとんだお宝でな、あの英雄の仲間の一人<炎龍皇>の日記だ」
英雄フリズ・フォグメスには6人の仲間が居た
陽輝姫レーナ・カティン
神眼師ギガボルバ
異学士ノイローゼ・セブンス
守護者シエン・サニマラス
機杯想ラリアロ
そして炎龍皇シーバ・ザグゼル
それぞれが、あることに特化しており
現在でもソレを司る精霊としてあがめられている
例えば、異学士は、あらゆるモノを開発していたといわれ
今でも最高の賞であるセブンス賞という賞の由来は、この人物だ
その英雄の仲間の一人の日記というのだ
かなりの価値があるであろう事は明白だが
一番気になるのは中身だ
「見せてください!!」
「あぁ」
眼を輝かせてミリィは日記を見た
しかし、そのうち眼の輝きは薄れていった
「え〜と・・・・これって本当に炎龍皇の日記ですか?」
疑惑の目でクルートを見た
「間違いないだろうな、炎龍皇、神眼師、異学士は頭のネジが抜けていたらしいからな」
笑いながらクルートは風呂場へ入っていった
「見せてくれよ」
ミリィは無言で渡した
以下↓日記の内容
今日はフリズのアホが、またクリームシチューを作った
確かにうまいが、なぜクリームシチューしかつくらないんだ!!!?
今日は機械がやたらと襲ってきた
やつら、レーナちゃんに傷をつけやがった
そこでおれは、奴らをドロドロに溶かしてやった
当然の報いだ!!
なにやら最近、ギガボルバの視線が痛い
何かと思って聞いてみたら、背中が虫食いだった
早く言え!!!!!
マジでこいつら(レーナちゃん除)はムカつく
以上↑日記の内容
「・・・・・」
かなり普通の日記、否、恨み日記だ
やはり英雄といえど人間ということだろうか
なぜか無性に親近感が湧いてきた
船旅が終わり
港に着いた
急に安定した地面に降りると
変な感覚がした
「さぁ・・・行くぞ」
港町ルーンダイニスは非常に小さな町だ
少し歩けば
そこは緑の景色が広がる
今回はかなり短くなってしまいました
しかし、次回はすこし長くなる予定です