エピソード4 凍てつく瞳を持つもの
城下町と云うだけあり
街は活気に満ち溢れている
門を護る兵士の装備も上等級品のものばかりだ
その分、周りの怪物魔物達も
イズホ村付近と比べるものにならない
レンガで囲まれた街には
同じくレンガで造られた家々が立ち並ぶ
港町でもあるこの街の食材屋には
魚が並んでいる
「とりあえず、武器を買い換えるか」
クルートは、怪物達の遺品を換金してから
武器屋へ向かった
武器屋には
壁に飾るための宝具や
狩用の武具まで
色々取り揃えてある
「高いな・・・」
全員分買えなかったわけではないが
一時的に貯まった金は、
食材代などをあわせると
すぐにそこを付いた
「まぁ・・・これだけあれば1週間はもつかな・・・」
袋いっぱいに物を詰め込む
今回、一番場所を取っているのは<アメ薬>だ
舐めると体内の細胞が活性化され
傷の治りが早くなる
ミリィは前が見えないくらいに
荷物を運んだ
城の方から何人もの兵士が、堂々と
道の真ん中を歩いてくる
「きゃっ!」
ミリィは、兵士とぶつかり荷物を落とした
「ご・・・ごめんなさい・・・」
「気をつけろ!!」
兵士はそのまま歩き去ろうとした
「おい」
シェードは低い声で呼び止めた
「あ?」
「おまえも謝れよ・・・お前が道の真ん中を歩いてるからぶつかったんだろが・・・」
「なんだ?貴様は?」
「それとも・・・謝らずに無視するのがこの国の文化か?」
兵士が一斉にシェードを凝視した
「貴様、図に乗るなよ」
兵士が一斉に剣を抜いた
道行く人々が集まってくる
「シェード!!私はいいから・・」
「礼儀ってものは、誰がよくても悪くても
本人が意識しなくちゃいけないんだよ・・・」
「小僧・・・」
兵士が切りかかってきた
誰かが叫ぶ
二本の剣が縦に振られた剣を捕らえる
そのまま、力で跳ね返した
「ちっ・・・」
兵士が取り囲むように移動する
そして、一斉に斬りかかってきた
(紋章発動!)
「天翔烈空波!」
風の塊がシェードを中心に爆発した
斬りかかってきた兵士が吹き飛ばされる
「ぐわ!!」
痛そうな音がする
まともにダメージを受けた鎧にはヒビが入った
「何事だ?」
突然、人ごみの中からマントをつけた騎士が割り込んできた
「貴様、いかな事情があろうとも、民衆の前で剣を抜くとはどういうつもりだ」
その騎士はまだ若い
自分と同い年かもしれない
騎士は剣を抜くと
構えた
一歩足を踏み出すと
その剣先がこちらへ飛んでくる
後退し、剣を向けた
そして、斬る
お互いの剣は火花を散らし
弾き飛ばされた
双方の後ろに吹き飛ぶ
互角だった
「何をしてるんだ?」
クルートが宿をとってきた
「お前がその子供の保護者か?」
「こど・・・」
「ああ・・・そうだ、一体何があった?」
騎士は剣を取り鞘に収めながら云った
「その子供が、剣を向けて私の部下を虐待していたのでな・・・」
「虐待?・・・なぜそんなことを?」
こちらに向いて、ものすごい形相で云った
「その兵士がミリィにぶつかって謝らなかったから」
「ふっ・・・子供丸出しの言い訳だな・・・」
笑いながら云った
「謝れって云ったらそいつらが斬りかかってきたぜ?」
「なに?」
声色を変え、無様に倒れた兵士を見た
「お前達・・・それは本当か?」
「へ?」
「お前達から剣を抜いたというのは本当かと聞いている!!!!」
「は・・はひぃ!!」
兵士は声を震わせて答えた
「この愚か者どもが!!!!!!」
「ス・・・すみませんでしたぁぁぁ!!!!」
大衆の前で兵士は年下の騎士に土下座した
「さすが、キリア様だ・・・」
「かっこいいな・・・」
野次馬の民衆がざわめくのを聞いてクルートは確認するように聞いた
「キリア・・・・・・キリア隊長か?」
「いかにも・・・私がクール・ウィング隊長セル・フォング・キサラギ・キリア少尉です
このたびは、我が部下が無礼を働いたこと
深くお詫び申し上げる」
セル・フォング家
それは、1000年以上の歴史を持つ
王族級貴族である
その、ルーツは
あの救世主と共に戦った<召雷士>である
クール・ウィング隊
それはネオ・ノースファルナ王国が保持する
4つの最強軍隊の一つである
まだ若く、少尉の階級に位置するにもかかわらず
その軍隊の長であるということは
それだけ、この若者が優秀であることを意味する
ゆえに、民衆からの指示も決して低くは無い
「今回の騒動、許してくれとはいいません
しかし、今日のところはここで退いてはいただけませんか?」
「だとさ・・・どうする?シェード?」
許してやれよ
キリア様が頭を下げてるんだぞ
そんな声が周りからする
「許すも何も・・・礼儀ってのは本人がけじめをつけなきゃならないんだよ」
そういって
ミリィを突き飛ばした兵士を見る
兵士はそれに気づき
ミリィに土下座した
「すみませんでした!!!!!!!」
「へ・・・?」
ミリィはとまどう
「えと・・・・は、はい・・・・」
「あなたの広き御心に感謝いたします」
キリアは深く礼を言って
兵士達を引き連れ去っていった
「さて・・・じゃあ、宿に行くか」
シェードは散らばった荷物を拾った
見れば、ミリィは顔を赤く染めている
「どうした?」
「・・・いいって云ったのに・・・」
そんなことをつぶやいて
さっさと宿に向かった
「明日は船に乗って海の向こうを目指すぞ」
宿に着くとクルートは今後の計画を話し始めた
「なぁ・・・最終的にどこへ行くんだ?」
「ん・・・?あぁ・・・云ってなかったな
どうも、私は色々云い忘れるようだ」
そういうと
クルートは地図の真ん中の上端っこを指差した
「スターコア・ロード・・・・ですか?
ミリィは不安そうに言った
「スターコア・ロード?」
「あぁ、スターコア・ロードとは
この星を貫いてる洞窟だ
この洞窟を下に降りると
地下世界 イル・シェル・レープにつく
そこで、今回集めた情報をとある方に報告する
それが、この狂った時間を元に戻す最短の手だ
そうすれば、時間症候群もなくなる」
「え?」
ミリィが確認するかのように聞いた
「今はっきりとわかっているのは、時間症候群は
世界の時間が狂っているから発病するということだ」
「なぁ・・・報告する相手ってだれだ?」
「それは、会ってからの秘密だ」
片目をつぶりながら云った
正直、似合わない
翌朝、港の薬屋に人が集まっている
「薬はもぅないんです!!」
店の店主は叫んでいる
こちらを見ると
救いの目で見つめてくる
「なぜ、薬がないのですか?」
クルートは人ごみの向こうから聞いた
すると
店主は民衆をかきわけてこっちへ来た
「そ・・・それが昨日、あなた方が薬を買っていかれた後
在庫がなくなっていまして
薬を作ろうにも材料がないのです」
「ふむ・・・我々が迷惑をかけたようだな・・・よし、その材料は私達が取ってこよう
材料とはなんだ?」
「はい、大鹿の角が一本あれば半月はもちます」
その品名を聞いてクルートは後悔した
一向は再びヴァリスマリネリスに戻ってきた
特に急ぎの旅というわけではないので、引き返すことに問題はない
問題なのは、大鹿の角だ
「そんなに、やばいやつなのか?鹿って」
「あぁ・・・奴は怪物や魔物のトップクラス
<十獣王>の一匹だからな」
十獣王
それは、最も最強に近い怪物魔物のことを云う
ヴァリスマリネリスは相変わらず寒い
小屋と出口の中間地点まで来たが
出くわしたのは全てザコばかりだった
「本当にここにいるのか?」
「そのはずなんだが・・・別に、本人と出会う必要はない
角さえ見つかればそれでいい」
雪が降り始めた
まもなく日が暮れる
「一旦引き返そう
ここからなら、まだ街のほうが近い」
振り返った瞬間、背筋が凍った
そこには、大鹿が立っていた
いつからいたのかわからない
しかし、大鹿は臨戦態勢にある
氷鹿王ケルビン
鋼鉄質の剛毛と
人一人分はあるであろう巨大な角を生やした鹿だ
大鹿は角を振って風を起した
その風に吹き飛ばされる
ミリィは一番奥に吹き飛ばされた
シェードとクルートは全員の安全を確認すると
武器を構えた
「こいつを倒すのは、無理だ!!
角を折るだけでいい!!!」
叫ぶと同時に
三人は紋章を発動する
「炎衝牙!」
炎を纏った爪が大鹿の足は裂いた
しかし、硬い毛は
少し焦げただけだった
シェードが同じ足に斬りかかった
毛が数本斬れたが
身まではとどかない
「双紅蓮砕爪!!」
火花が散り
斬った場所が爆発する
大鹿は声を上げ倒れこんで
すかさず角を斬る
「襲双刈刃!!!」
シェードが風よりも早い斬激を繰り出した
しかし、角には少し傷が入っただけだった
「硬い・・・・」
後退しようとするが
間に合わず
大鹿の重い一撃を食らった
壁に激突し
一瞬呼吸が止まった
「シェード!」
クルートはかばうようにシェードの前に立った
大鹿が突進してくる
その大きなとがった角が
串刺しにしようと、突っ込んでくる
「虚空より来たれ爆炎、吹き飛ばせ!・・・・・ファイヤーブラスト!!!」
4つの隕石のような炎の弾が
大鹿の背に命中する
その威力に、大鹿は倒れた
しかし、角を地面にたたき付け
跳ね上がった
そのせいで、角にヒビが入る
それから、何度も何度も大鹿に挑んだ
しかし、大鹿は怯むことなく
攻撃の手を止めない
「巻き起これ猛火、全てを無にし新たなる大地を築け・・・・プレートアクトニクス!」
大鹿の足元が赤く光った
いくつもの火炎粒子が集結し結合する
それは、マグマのように結晶化する
地面から噴出したマグマは
巨大な火柱となって大鹿を包み込んだ
ものすごい轟音をだして角が折れた
「角が、折れた」
「まかせろ!」
シェードは云うと走りながら魔術を使った
「風脚装」
風のように走った
大鹿の足元に落ちた角を拾って
さっさと離脱した
「逃げるぞ!!」
3人が全力疾走で逃走した
大鹿は、最後の一撃でまだ
満足に走れなかった
「おお!これで薬が作れます」
店主はそういうと、店にもどっていった
「さて、船の切符も持ったし・・・乗るか」
そういってクルートが手配したのは
豪華客船とまではいかないが
十分立派な船だった
「目指すは、二ケスタリア列島だ」
感想及び質問等、お待ちしております