噂話3
館の中に望まずとも侵入してしまい、呆然としている僕らに向けて智がポツリといった。
「調べよう」
「し、調べるってここを?」
「ああ、もう入ってしまったんだ。坂守、君はこの館に入ってしまったものは17日後に死ぬ。そう言っていたね?」
「あ、ああ。でもあれは噂話であってそれにまだ館の中に入ったわけじゃ…。いや、すまん。これはもう無意味だな…。」
そう、坂守の言ったことは多分もう遅い。僕たちは全員、館じゃなく門の中からが違う世界。そう肌で感じとった。
「うん、多分無意味だと思う。噂話で片付けてしまってもいいけど、もしかしたらそうじゃないかもしれない。本当だとしたら僕たちの命はあと17日以内だ。もしかしたら明日かもしれない」
「ちょ、ちょっと待て!なんだよ17日以内って!そんなの噂話のどこにもなかっただろ!」
「違うよ坂守。僕も智の言ってることが正しいと思う」
「わたしも、多分そうだと思う…」
気を失っている水羽を地面にすわりながら抱きしめている佳奈も賛同した。水羽は一向に目を覚ます気配がない。もしかしてなどと危惧を抱いたが、呼吸はしっかりしてるようなのでひとまず安心した。
噂話に17日以内、というのは確かになかった。でも…
「うん、17日後に生きてる人間はいないっていうのは17日後に死ぬんじゃなく、17日後まで生きてる人間がいないっていうことだ。つまり、僕たちの場合は…大体、三日に一人くらいのペースで死ぬことになるかもしれない。もちろん全員同時に死ぬかもしれないし、それはどうなるかわからないけどね。僕はまだ、知りたいことがいっぱいあるんだ。だからまだ、死ねない。死んでやれない。だから、生き残るためにこの館を調べる。もちろん、無理にみんなも調べろとは言わないけどね」
「ば、馬鹿らしい!私はこんな薄気味悪い館なんて調べる気はない。どうしても調べるというならそれは課外活動の外、つまり個人でやってくれ!私の信用に関わる話だからな!……君たちもこんなところさっさと出たまえ、私は今から帰る、少し考えればわかるだろう…わざわざ無駄な危険はおかさなくていい、一緒に来るものはきたまえ」
もちろん、先生の言葉に賛同するものはいなかった。全員が軽蔑の目線で先生を無言で睨みつけていた。
「なんだ、その目は…君たちは教員に対して…!ふん。まあいい、勝手にしなさい。私は帰らせてもらう。せいぜい事故のないよう気をつけることだ」
その言葉を最後に先生…いや、刀堂はこの館から去っていった。失礼な話だけど、僕はなんとなく最初に死ぬのがあの人だとどこかで確信していた。
「やれやれ。最後に本性が見えたね。でも、おかげでぼくたちの寿命は伸びた、みたいだ」
多分智も、いや全員が同じことを思ったんだろう。ベタな言い方だけど、あれは絶対死亡フラグってやつだ。
「だが智、本気で調べるつもりかよ?」
「そのつもりだよ。ああ、でもそうか坂守には…」
「ああ、弟がいる。多分一人でも飯くらいは作れると思うが…幸い、電波は通じるみたいだし、ちょっと電話してもいいか?」
「そのほうがいいだろうね」
坂守はその場で弟さんの携帯に電話をかけ始めた。少ししてから電話はつながったらしい。
「もしもし、薙か?俺なんだけどさ、もしかしたら今日遅くなっかもしれねえんだ。飯くらい作れたよな?……ああ、悪いな。ちょっと、な……あと、俺がもしも死んだら。ん?ああ、すまねえ。死ぬ気なんてさらさらないけどな、ふと思ったから今のうちに言っておこうと思ってな。そんでだ、俺が死んだら親父たちが残してくれた保険金と、俺にかかってる保険金を受け取って、隆叔父さんの家に世話になれよ?そう、俺たちを助けてくれようとしてくれた人だ。覚えてたんだな、あの人なら安心だから。そんじゃそろそろ部活に戻らねえと、あんま時間ねえんだ。ほんっともしかしたら今日帰れないかもしれんそうなったらいつものとこに金置いてあるから適当に飯でも買って食ってくれ。つうかそろそろ自分で料理くらい覚えろっつうの!ははは、そんじゃな。帰るときにまた連絡する」
「わりいわりい、時間掛かっちまった。ったく。未だに飯のひとつもつくれないんだぜ?もう中三にもなるってのにさ…なにお前らそんな顔してんだよ。いっとくがマジで死んでやる気なんてさらっさらないからな?こんなもんさっさと解決して我が愛する弟に土産でも買って帰らなきゃなんねえんだからな」
そういう坂守の顔は今にも泣きそうなのに笑っていた。その顔を見て僕たちは、絶対に生き残る。そう心の中で決意した。
「そうだね。ぼくとしてもまだ死にたいとは思わない、もちろん死後の世界ってやつにも興味はあるけど、まだまだご登場するには早いからね。そっちは年をとってから研究させてもらうとするさ」
「僕もオカルトは好きだけどね。そっちはそれこそ死んでからのお楽しみってことにしておくよ」
「わたしも、まだやりたいことがあるから。言ってないことだってあるし、ね」
残るか残らないか、あとは水羽だけなのだが……。
「水羽は、目を覚まさないか…。仕方ない。タクシーでも呼んで家まで送り返そう。目が覚めていきなりこんなところじゃ、かわいそうだしね」
すっかり仕切り屋になっている智の言葉に全員が頷き、ひとまず山の麓から一般道まで歩いた。初めて館に向かってる間のことはあまり覚えていなかった、もう遠い過去のことのようだ。たった30分程度のこと、なのに。
田舎のタクシーは退屈らしく呼んでから10分もしないうちに到着した。初め、気絶している水羽を見て驚いていたが、貧血で倒れたといったところ具合も悪くなさそうだしと安心したようだ。
水羽を見送り、残った四人は再び館の方向を睨みつけた。各々が、生き抜いてやるという覚悟を表していた。
「ところでさ。調べるって言っても何を調べるんだい?」
「そうだな、多分噂が立つくらいだからきっと僕たち以外にもこの館を調べようとした人はいるはずだし、その手がかりみたいなのでも探そう。とりあえず今日は館を散策して、あとは別な日に調べるとしよう。」
全員が無言で頷いた。