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空想恐怖  作者: 春稀
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噂話2

二日後の日曜日、僕たちオカルト研究会部員5人は校門で集合していた。そして今日の探索内容や噂の館がどこにあるかなどのミーティングをしながら顧問の先生を待っていた。

僕たちの通う学校は今回のような課外活動では顧問の先生の引率が必須となっていて、僕たちの顧問である刀堂先生は非常にルーズで、遅れてくることが少なからずある。そのため今日のように部員だけのミーティングが行われたりもする。

その割には自分が待たされるのは嫌いで生徒が少し遅れたりすると嫌味ったらしく「ふむ。君たちは時間の大切さというものを知っているかな?」などしつこく言ってくるので生徒からの評判はよくない。いや、はっきりといって悪い。もっと言えば嫌われている。しかし僕たち部員はそうも言ってられないため毎回おとなしく待たされている。

ただ、オカルトに関しては嫌いではないようで課外活動自体はなにも言わずに認めてくれているためその点は非常に感謝している。

ある程度話がまとまったところでようやく刀堂先生が到着した。

「うむ、全員揃っているようだね。それでは駅に着くまでの道のりで今日の内容を詳しく教えてもらおうか」

話し合いでまとまった内容と元々の噂話、それを検証する方法などを歩きながら説明すると

「なんだ、ただのよくある与太話みたいじゃないか。今回は坂野くんの嫌な予感、とやらも外れそうだね。なに、若い頃は間違うのが仕事のようなものだ。それを私たち教員は陰から支えてあげようじゃないか」

刀堂先生が嫌われる理由として、時間にルーズという以外にも恩着せがましい口調や常時見下すような口調というのも含まれている。

「あはは、そうだといいんですが…。でもせっかくですからなにか心霊写真のようなものでも取れたらいいかなと思っています」

「ああ、そうだね。私も休日を潰してまで来ているんだ。せめてなにかしらの成果は手に入れたいね」

…やはり僕も、この先生だけは好きになれそうにはなかった。

苦笑いで応対していると佳奈が小声で僕に話しかけてきた。

「注意してね。わたしも、なんだか不安だから…」

ゾクっと気持ちの悪い感覚が背筋を走る。

「うん…」

まだ日が昇ったばかりだというのに、鳥肌はいつまでたっても収まりそうになかった。



噂の館が近づくにつれ全員の口数が減っていった。沈黙で歩いていると《お通夜》そんなイメージが頭に浮かんでしまい慌てて振り払った。そしてついにその館に到着すると

「・・・・・・」

館の門を前にして全員が一様に立ち尽くしていた。僕の本能が告げていた「ここは僕たちの手に終える場所ではないそして生きている人間の来るべきところではない。」と、多分全員が同じようなことを思ったのだろう最初は与太話といっていた刀堂先生ですら立ち尽くす他にやることがないようだ。

「写真、くらいは撮らねえと」

ポツリと坂守が言ったのを気に、今まで立ち尽くしていた部員ものろのろとだが動きだした。そんな中で怯えた表情の佳奈が、それではっきり全員に言った

「ここは中に入っちゃダメ、だと思う。その、なんていうか・・・」

その次の言葉はきっと全員が同意見だったと思う。

「別世界、みたいだから・・・」

門の外からでもわかる。ここは人間のいる世界じゃない、まるで異次元に繋がる門の入口、そんな空気が滲みだしている。

「そうだな…。で、でもほら!ここまで来ちまったんだし門の外から写真くらいは撮って帰ろうぜ!」

坂守が無理に明るく振舞おうとしているが、その声は上擦っていて余計不安を掻き立てられてしまい、全員がうつむいてしまった。

「写真だけでも、だね。それなら、もう早く撮ってしまおう。僕も、この中には入っちゃいけない気がする」

現実論者の智でも認めるほどにここはそういう雰囲気というものがある。

坂守と智は無言で頷くとカメラを取り出し撮影を始めた。智が写真、坂守は動画を手馴れた様子で撮っている。それから無言で5分くらい経っただろうか。今まで無言を貫いていた水羽が「行かなくちゃ」と言ったかと思うと

「あたし、呼ばれてる、あたしを呼んでる、泣いてる、寂しがってる、探してる、行かなきゃ、行かなきゃ、あたしが行かなきゃ、行かなきゃ・・・行って一緒にいてあげないと」

「水羽!?どうしたんだよ水羽!おい!」

危険だ。直感的にそう思った瞬間僕と坂守が水羽を羽交い絞めにして止めたが、僕たち二人がかりでも引きずられてしまう。

冗談じゃない!水羽は普通の女の子だ!男二人で止められないような力なんて出せるわけないじゃないか!心の中でそう叫びつつも、必死で水羽を止めていると

「どいて、行かなきゃ、ほら聞こえるでしょ?泣いてるよ、子供が泣いてるんだよ。誰かを探してるんだよ、邪魔しないで。助けなきゃ、助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ」

「水羽僕を見て!僕らの話を聞いて!誰も泣いてなんかいないよ、水羽しっかりして!」

耳元で必死に叫ぶが僕の声は水羽に届かなかった。

「邪魔、しないでってば!」

急に叫んだ水羽に、僕と坂守は同時に振り払われ「まずい!!」そう感じた時には僕も坂守も門の内側に弾き飛ばされていた。顔を見合わせると坂守は不安そうな顔をして「やっちまった」そう呟いた。そして僕らを門の中に放り込んだ水羽は自分も門の中に入ると急にふらりとその場に崩れ落ちた。

「三人とも大丈夫かい!?」

そう叫んだ智に続いて先生と佳奈が駆け寄ってきていた。

「こっちに来ちゃ駄目だ…!あっ…」

僕が叫んで止めた時には、すでに全員が門の内側に入ってしまっていた。

こうして当初の予定通り僕たちオカルト研究会は噂の館に足を踏み込んだのだった。いや…、招き入れられたというべき、なのかな。

この日を最後に僕たちの平和な日常は瓦解し始めた。最初はゆっくりとだんだん早く強く。それはまるで、オーケストラの演奏のように僕らをじわじわと恐怖に貶めていった。

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