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空想恐怖  作者: 春稀
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噂話

これは十年前、僕たちオカルト研究会に起きた実際の話だ。信じる信じないは読んでいる人に決めてもらいたい。しかし、もし読んでいる人の中に僕たちと同じような目にあっている人がいたら少しでも参考にして欲しい。そしてできるだけ多くの人が助かって欲しい。それが僕の願いであり筆を握った理由でもある。

最後に、もしも同じような目にあっている、似たような目にあっている。どんな些細なことでもいい、もし恐ろしい目にあったら僕を訪ねて欲しい。それが僕に出来る唯一のことなのだろうから。

それでは時間を戻すとしよう。そう十年前僕たちオカルト研究会は…。


「先輩から聞いた話で面白いのがあったんだよ!」

その日僕たちはいつもどおり部室に集まっていて、これもいつものどおり坂守が噂話を持ち込んできてそれの審議をみんなでしている真っ最中だった。

坂守久朗さかもりくろうは高校に入ってからの知り合いだ。お互い話があうのでよく一緒に行動するようになりそれから二年生になった今でもこうやって毎日顔を合わせている。

基本的にテンションが高いので軽そうなイメージを植え付けるが、実際のところ根はしっかりしていて亡くなってしまったご両親のかわりにアルバイトをして弟を養い奨学金で学校に通っている。

「なになにー?くろりんまた怖い話?」

彼女は蛙崎水羽かわずさきみずは坂守と同じくらい賑やかで人をニックネームで呼ぶことが多い。オカ研には幽霊部員として入ったらしいが思った以上に賑やかな部室の空気が気に入ったらしく毎日訪れるようになった。友好関係は非常に広く噂話などの情報収集を自分の役割だと考えているようだ。本人はバレてないと思っているが極度の怖がりなのは周知の事実だった。

「おう!先輩が言うにはこの街に呪いの館ってのが存在するらしい。」

「呪いの館?」

つい興味を惹かれて聞き返すと、その反応に満足した坂守は気分よく続きを語った。

「そう、なんでもその館に入って十七日後に生きている人間はいないらしい」

17日とはまた中途半端な…。しかしその数字はある意味リアルな数字でもある。

「17日という数字はどこから来たんだい?」

曲崎智まがりざきさとし、オカ研の中で唯一の現実論者で、ならばなぜオカ研に入ったのか聞くといつもどおり面倒な語りまわしで、曰く「信じていないからといって好きではいけないという必然性はどこにも存在しない」だそうだ。この一言からわかるように非常に理屈っぽい。でも友人思いで誰よりも気が利くいいやつだ。頭もそこそこいいが一点のことしか考えられなくなる癖があって論戦は非常に弱い。揚げ足を取られてすぐに考え込むというのがオカ研の日常風景でもあった。

「そんなの知ってるわけないだろ。考えてもみろよ、十七日後に生きてる人間はいないんだぜ?どうして17日で死んでしまったかなんて聞けるわけないだろ」

「ぐ…確かにそうだ…話の腰を追って済まない続けてくれ」

この日もいつもどおりの光景にみんなが苦笑いを浮かべていた。曲崎の論戦もどきは僕が知る限りこれで通算46戦1勝45敗だった。ちなみに唯一の敗北者は風邪でダウン中の水羽だった。水羽曰く「なに言われたのかも覚えてない」ということだった。頑張れ智。

「えーっと、そんでだな。俺も17日っていうのは気になっていろいろ元になるようなもんも調べたんだが17日っていうのは見当たらなかった。見落としてるだけかもしれないけどな。ああ、話がそれた。それでその館なんだがわりと近くにあるらしいぞ。ほら何駅か先にすっげえボロい無人駅があるだろ?あそこから少し歩いた山の麓にあるらしい。行ったわけじゃないから本当かはわかんねえけどな」

「そんなとこに館なんてあったかな。あの駅は僕の帰り道で通るけど記憶にないよ」

「そりゃ、そんな簡単に見えるようなところにあるなら俺らがもう行ってあるだろうしな」

このオカルト研究会は名前にそぐわずアグレッシブなメンバーが多い。そのため休日をつかって廃墟などの撮影に出向いたりして、そこで怪奇現象みたいなものに遭遇したりカメラになにか写っていたりただの廃墟ツアーだったりと精力的に活動している。そのため坂守の言った言葉はなるほどなと納得できた。

「ってわけでだ!」

といつものパターンで坂守発案廃墟巡りが敢行されることとなりそうだ。しかし、この時は、ぞわりと悪寒が走った。僕の悪い予感はよく当たる。

これは僕たちオカ研の議会内容にもなった。なぜ僕の悪い予感は当たるのか。

坂守曰く「悠也の直感にはたまにすっげえ助けられる。抜き打ちテストとかほんと神様みたいに思えるぜ。ってことは神様からの贈り物じゃね!?」

水羽曰く「ゆうやんの悪い予感?んーいい予感だったら歓迎だけどねー。でも不思議だよね」

智曰く「悠也はたまにものすごく頭が切れる時がある。だから体感的なものじゃなく無意識のうちに頭の中でパターンのようなものを組み立ててそれを悪い予感として表に出すんじゃないだろうか」

ここにはいないが、小暮佳奈こぐれかな曰く「ゆうくんはきっとなにか特別な力があるんじゃないかな」

つまりは考える気がないのである。智は考えていたようだが結局お手上げのようだった。もちろん僕にもわからない。しかしそれに則って言うなら、まさかとは思うけど噂が本当なのかもしれない一応みんなには知らせておくことにする。

「坂守、待って。嫌な予感がするしっかり考えたほうがいいかもしれない」

乗り気だった全員が一瞬で沈黙した。それくらい、悪い予感はあたる。いい予感も当たればいいのにと関係ないことを考えたりした。

「悠也の悪い予感ね。しかも今回は嫌な予感と来たもんだ」

無意識なのだが悪い予感ではなく嫌な予感というときが時々ある。一度みんなと嫌な予感がしながらも撮影に言ったときは水羽が気を失ったり佳奈が発狂寸前の状態で誰かに謝り続けるということがあった。

その時のフィルムは焼いて処分したがそれからしばらく全員が風邪のような症状で登校不可能という状態まで陥ったため「嫌な予感と言った時は注意しろ」という暗黙の了解が出来た。困ったことに僕が無自覚でいうものだから対処法もなにもあったものじゃない。

「悠也の嫌な予感、逆に考えれば面白いことになりそうじゃないか。ここは廃墟ツアー愛好会かい?自分としてはオカルトが実在するのかしないのかを知りたい、そのために入ったんだ。だからなにか恐ろしいことが起きるなら自分はそこにいたいと思うね。なにせ、オカルト研究会なんだから」

智の意見は最もだった。僕たちは廃墟巡りがしたいんじゃなくオカルト現象を体験したくてここにいる。

「うおぉ…思わず聞き入っちまった。こりゃ智に一本取られたみたいだな。そりゃそーだ、俺たちはあくまでもオカルト研究会だったな楽しむことばっか優先してて忘れかけてたな」

「さとるんに丸め込まれるなんて…でも面白そうだしあとはかなちーにも聞いてみて、だね!」

どうやら呪いの館探索ツアーは確定されたようなものみたいだ。嫌な予感、ねえ。問題が起きるのは困るけど、楽しめる程度なら、まあ、いいかな。

その後すぐに佳奈が部室に顔を出しことの次第を聞き不安そうな顔をしながらもみんなが行くなら、とそういった。

ここで智が2勝目をあげていなければ、もしもう少し嫌な予感を重く考えていたら。後悔先に立たずということわざをここまで痛感したのはあとにも先にもこれだけだった。

そう、この時僕たちは噂話を舐めてかかってしまっていた。

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