第一章 2
自分を主張するかのように咲き誇る花を踏まないように気を付けながら、ルースは花畑をでた。
天に輝く太陽をみつめ、住宅地のある北の方角にへと走ってゆく。
競い合うようにして天にのびる蔦の家、そして赤レンガでできた、まるで光沢がたっているかのような家の間を、ルースは走った。
人々は、この見慣れたはずの景色を楽しむかのようにゆっくりと歩いている。
ルースはそれが気に入らなかった。キート族が出没するこの世界に、楽しみや幸せは不似合いだった。
そうだ、こいつらはきっと自分の身近な人間を殺されていない奴らなんだ。
だから、キート族を甘く見ている、笑ってられる。
知らずの内、ルースの目には涙がたまっていた。
当然のようにこぼれ落ち、乾いた地面へ吸い込まれていった。
手のなかの赤い本を、強く握り締める。
――キート族は繁栄力が弱い。
そう知ったのは、つい最近。
キート族の情報を調べあげ、この本に書き記した。
繁栄力が弱いなら、今のうちに絶滅させてやる!
ルースの想いは、また涙となってあふれだした。
ルースは涙を拭い、足を止めた。
ゆっくりと顔をあげる。
目の前には――この町唯一の図書館があった。
クリーム色のレンガに、銀色に縁取られた時計。
そして赤く塗られた屋根はまるでお伽話にでてくるお城……ような作りのそこは、ひっきりなしに人々が出入りしている。ルースも、同時刻にきたとみられる、白いエプロンを着た、主婦の後ろにつづいた。
木の扉をあけると、年季が入ったような、耳に残る甲高い音が響いた。同時に、図書館独特の匂いが、ルースの鼻腔をついた。
埃と、苦い匂いが交ざった、知的な香。
熊や大鳥の模型が飾られている、そこの玄関をぬけ、ルースはくいっと顔をあげた。
――本、目の前に広がる本の壁。
首が痛くなるくらいに高い天井までつづく、本の壁のよこには、木製の階段が、螺旋状に渦巻き、天井へとのびている。
そんな階段の所々には、老若男女、思い思いのカラフルな服に身を包んだ人たちが、本を手に取り、静かに読書を続けている。