第一章 1
それから五年後――
ここ、ヴェルツェーリウス王国の、ある小さな町の外れに……。
虹のように、七色に花は咲いていた。
暖かな日差しが降り注ぐ昼下がりの、花畑に――
「キート族は人間を襲うことで快感を得る、魔物。そして、キート族を生み出しているのが、この世界のどこかに潜んでいる、キート族の王、通称ガーログウス……か」
花畑の中に、黒い少女が岩に腰をおろし、何やら赤い本にかかれた内容を、懸命に目でおっていた
少女は、長く漆黒に染まる髪を耳元で二つに結び、銀の十字架の模様が入った、黒のタンクトップ、そして同じく黒いミニスカートをはいていた。スカートからは編みタイツに包まれた、細い足がのびている。
「王にあうには、五人のある特別なキート族がもつ、呪玉を手にいれなければいけない……よし、完璧」
そういうと、黒い少女――ルースは、岩から力強く立ち上がった。
黒色の瞳に、青空を写しながら、
「ケイトお姉ちゃん……」
ルースは五年前、ケイトと共に夜、星をみに出掛けたところ、運悪くキート族に出くわしてしまった。
まだ幼かったルースをかばい、ケイトは複数のキート族と戦ったが、未だにルースの元には帰ってきていなかった。
それは、ケイトの死を意味する……あれ以来、キート族への復讐のため、ルースは学校で習う防衛術の他にも、ケイトが得意としていた剣術、そして魔法を覚えた。
しかし、どうしても強くはなれなかった。
たくさん技を覚えても、一つ一つが弱ければ意味がない。
「ケイトお姉ちゃん、私はどんな手を使っても、キート族を滅亡においこんでやるから!」
ルースは何かを決意したように、ぎゅっとこぶしを握り締めた。
そして、赤い本を胸にかかえ、結んだ黒髪を揺らしながら、花畑に伸びる、一本の道を駆けていった。