プロローグ
更新亀
プロローグ
黒くて、大きいものがいくつも横切った。
目では見えない、一瞬のことだったから、二人の心臓は破裂しそうなくらいに膨れ上がった。
空にはただ何億個もの星が輝き、瞬いている。
そうか、こんな時間に外にでたのが間違いだった。
自分達に限って、偶然《奴ら》に襲われることはないと彼女等は油断していた。
――甘すぎた。
気付けば、まわりを《奴ら》に囲まれていた。
宵闇に紛れる、闇のように黒い物体が、いくつも周りにたっていた。
奴らの黒いローブが、風にゆれている。
「キート族……」
少女の一人が口を開いた。
この闇にはあわない、夕日色の髪の毛を短く切った、背の高い少女だった。
その青空色の瞳には、邪悪な黒い闇がいくつも映っている。
「ごめん、私が油断していた」
その少女は、もう一人の、黒く長い髪を垂らした少女の小さな手をつかんだ。
かばうように、そのしなやかな白い腕で、黒髪の少女を包んだ。 黒髪の少女が、震えていることを確認すると、彼女は場に合わない明るい声で、
「大丈夫。私運良く短剣もってるから。私が奴らを引き付けるから、あなたは逃げなさい」
「ケイトお姉ちゃん……」
少女の不安げな声に、ケイトは安心させるかのようにほほえんだ。
「私の剣の腕、しってるでしょ? ……よし、大丈夫」
ケイトは、黒髪の少女から手を離し、じりじりと近づいてきている、キート族をキッとにらみつけた。
「うあああ――!」
ケイトは、太ももに装備していた短剣を抜くと、キート族の一人に斬り掛かった。
キート族が、そっちに集中している間に、黒髪の少女はきびすをかえし、逆方向へ走った。
風がビュンビュンと、耳元で獣のようにうなる。自分が出せる力以上に、速く走れた気がした。
それと同時に、目からは熱い雫がこぼれ落ちてくる。
遠くからは、たくさんの叫び声が聞こえてきている。
――甲高い、女性の声も。
少女は、耳をふさぎ走り続けた。
叫び声がケイトのものだったとしても、少女は信じた。
きっとキート族を倒し、また自分を抱き締めてくれることを――