停滞の沼
昔。
ある道を歩いていた。
少なくともそれだけは覚えている。
大変な道だった。
遙か先にある目的に焦がれていたけれど、挫けそうになってしまうほど。
それでも自らを奮い立たせて進んだ。
進み続けていた。
ある程度までは。
ある時、道の途中で声がした。
「少し休憩していかないか」
そちらを見れば沼がある。
自分と同じような者たちが幾人も集まって休憩をしているのだ。
実のところ今までも休憩をしている人達を何度も見てきた。
しかし、自分にとっては彼らの休憩場所はまだまだ休憩するような地点ではないと思ったからずっと無視をしてきたのだ。
あぁ、しかし。
ここまで来たならば少し休憩をしてもよいだろう。
そう思って沼に入る。
冷たく、深い。
しかし、その深さがまるで全身を包むようで心地よい。
「ここまで来るのは大変だったろう」
「皆ここまでひたすらに努力をしてきたんだ」
「少しくらい休んでも罰は当たらない」
穏やかな会話だ。
私はそれを聞きながら自分がここまで来た経緯を伝えた。
すると皆は大層喜び自分達の話もしてくれた。
皆が似たようなものだ。
目的地へ向かい歩き続けた。
その途中で軟弱にも休憩をする者たちを尻目に歩き続けた。
「本当に頑張ったよ」
「あぁ、無理もした」
「ここでくらい一休みをしてもよいだろう」
尤もな話をし続ける。
あぁ、本当に私は頑張ってここに来たのだから。
しかし、いつまでもここにいるわけには行くまい。
そう思い立ち上がろうとした折に、皆が微笑みこう言った。
「もう少し休んでいかないか」
「そうそう。休むのも仕事だ」
「無理をして体を壊したらどうする」
尤もな話だ。
私は納得して沼に浸り続ける。
足に根が生えたのに気づかぬまま。
*
仲間と話をしていると以前の私達と同じように道行く人を見かけた。
私は。
私達はその人に声をかけた。
少し休んでいかないか、と。
しかし、その人はこちらを一瞥しただけで歩き去ってしまった。
「なんだいあいつ」
「きっと苦労も知らねえんだろ」
「あぁ。だからこうして会話をする大切さも知らないんだ」
「どうせ、親や周りの力を借りて楽してきたんだろう。いいねえ、恵まれた人間は……」
立ち止まらなかったことに文句を言い続ける集団。
その中に自然と自分が混じっていることに私は遂に気付くことはできなかった。
ここがどこであるかはわざわざ語るまでもない。
どこにでもある場所なのだから。




