英雄の悩み事…?
※女性軽視的発言や、表現があります。御了承ください。
「とても残念だが、彼女は…セレーネは……アレは『マ◯ロ』だっ! それも正真正銘、紛うことなき生粋の『“本◯グロ”』(本当に動いてくれないマグ◯)だッ!!」
「お前が彼女を悪く言うなぁああああああああッッ!!!」
今日一に…いや人生において過去一に、けたたましい咆哮を上げるヴィクター。
この部屋はリオンハルトの手によって、特別製に出来ていて防音・耐衝魔法が施されている。
もし施されていなければ今頃、その余りにも強い衝撃で屋敷全体が半壊し、屋敷中の使用人や既に就寝中であろうセレーネ達が飛び起きて来ただろう。
それぐらいヴィクターの『残酷な現実への拒絶』染みた怒号が轟いたのである。
流石の『勇者』も『戦鬼』のその鬼気迫る迫力に目を見開いて驚くが、直ぐに普段の冷静な表情に戻す。
「おおっ…。その反応はやはり、お前も薄々感じていたんだなっ! 私だけの思い込みじゃなかったわけだ♪」
「違うッ!! 彼女は…セレーネは…最高で素敵で…。完璧で…俺の理想通りの……。──俺には勿体ない女性なんだっ…。だから…だから……ッ!!」
認めたくない“真実”から目を逸らす子供の様に頭を左右に振り、己に言い聞かせるか如く譫言を繰り返すヴィクター。
そんな『憐れな英雄』に『残虐な悪魔』が容赦なく追撃を掛ける。
「ヴィクター…。気持ちは分かるぞっ! 心底惚れ込んだ最愛の恋人が、まさかの『アレ』だったんだからなっ! だがな、現実は受けとめるべきだぞっ! ──それに世の中、『理想通りの完璧な女性』なんて居るわけないんだ。どんな人物にも、必ず一つや二つは欠点が存在する」
奇跡的に英雄の絶叫にも耐えたグラス(罅は入っている)と酒を交互に見詰めて、再び飲みだすリオンハルト。
「無論、この【勇者】にもだっ! 彼女は…【聖女】は偶々それが『“アレ”』だったって言うだけだ。──まあ、お前にとってはそれが一番の『大問題』なんだろうがなっ!」
「ううっ…。セレーネ…俺は…キミを……」
絶望に打ち拉がれるヴィクターを余所に、気が付けばリオンハルトは空になった酒瓶を魔法で部屋の隅に置き、鼻歌混じりに二本目の酒を開けている。
「いやはや、ビックリしたぞっ! 最初は私への嫌がらせだと思っていたんだが…。『演技でも良いから反応しろ。あと動け』って言ったら、真剣な表情で『演技…? 動く…?』って聞き返された時は流石の私も度肝を抜いたぞっ! お前達は一体どんな『営み』を日頃しているんだ?」
配慮の欠片もない不躾な質問を、平然と投げ掛けるリオンハルト。
ヴィクターはそれを息苦しそうに返す。
「お前…には……関係…ないっ……だろう…ッ!!」
「それもそうだな。──おっ! この酒もなかなか…♪」
上機嫌に酒を嗜むリオンハルトを、とても怨めしそうに睨むヴィクター。
実際、ヴィクターとセレーネの『男女の営み』は少し…いや、かなり悩みがあった。
セレーネ自身は気にしてないし、気付いてもいない。
しかし、恋人のヴィクターは違った。
最初の頃はセレーネと『結ばれた』嬉しさと幸福感で、全然なんとも思わなかった。
けれどセレーネと回数を重ねる度に、その『異質で異様な違和感』にヴィクターは気付いてしまった…。
一度気になりだしたら最後、もう頭から離れない───。
それが先程からリオンハルトが発言・連呼している、『マグ◯』案件である。
ヴィクターは恋人と行為に及ぶ時、細心の注意を払う。
最高級の御人形を扱うように、繊細で直ぐに壊れてしまう飴細工に触れる感覚で、とても優しく力の加減を間違えないように───。
それぐらいヴィクターにとって彼女は、大切で大事な存在だったから…。
しかし、それがいけなかったのだろうか───。
初めの頃は彼女も、彼女なりに頑張ってくれている感が…努力が見て取れた。
悪戦苦闘と四苦八苦を繰り返しながらも、どうにか試行錯誤を重ねて『彼を喜ばせてあげたい…。尽くしたいっ!』っていうのが滲み出ていて、確かに伝わってきた。
けれど最近では全然動いてくれないし、反応も薄い…。
今では殆どヴィクターだけが頑張っている状況で、何より気になってしょうがない……一番の億劫で憂鬱な出来事は、彼女の“行為中の声”である───。
『ウー、ワー、イー、スゴイワヴィクター。アイシテルー』
と、一切の感情が読み取れない上辺だけの『愛の囁き』が、ただ只管に虚しく返ってくるだけなのである…。
(それも能面みたいな表情で…)
これではまるで出来の悪い、音の鳴るだけの玩具…。
粗悪品過ぎる[性処◯人形]───ゲフンゲフン。
これなら〘嬢〙に“接待”してもらう方が、まだマシ───
ゴホンゴホンゴホン。
それぐらい酷い有様なのである。
正直。今迄セレーネに対して絶対的な『“不変の愛”』があったからこそ、例えどんなに萎え散らかしてもずっと抱き続けられたし、“昇天”も何とか出来てきたって感じだ。
───しかし、それもそろそろ限界が近い…。
ヴィクターも、その不満をセレーネに何度もどうにかして伝えようとした。
が、いざ本人を目の前にすると言葉が上手く出てこなくなり、どうしても口籠もってしまう。
挙句の果てにセレーネ自身は、
「どうしたの、ヴィクター…? 具合でも悪いの? 何かあったら私に云ってね。私、貴方の為なら何でもするから…」
と、憎らしくも愛らしいキョトン顔で首を傾げて、本気で心配して労ってくれるのである。
そんな事を言われたら、彼女に心底惚れ込んでいるヴィクターは、もう何も云えなくなってしまう───。
『ああ…。色々と君の『“具合”』が悪いよっ!!』
なんてとても残酷で失礼極まりない事を、例え口が裂けても絶対に言えなかった…。
ここで一つ。
彼が知らない真実を、彼女の名誉の為に記述しておく。
実はセレーネ的にはヴィクターとの“行為”はちゃんと『感じて』いるのである。
『快楽』に身を捩り悶え、全身全霊で最愛の男の『愛』を受けとめて、想い焦がれながら反応しているつもりなのだ。
本人的には精一杯、溢れんばかりの愛と情熱を込めて、
『Oh, Yes! Oh, Yes!! Come on! Come on!!
……Ecstasyyyyyyyyy!!!!
My Darling!! I Love Youuuu!!』
──の状態なのである。
ただ悲しいかな…。
不運な事に…不幸な事に、第三者視点──。
特に【最愛の恋人】目線ではそれが全く……これっぽっちも伝わっていないのである。(『ウウー、カナシイナー』)
因みに余談だが、間男とシテいる時にはこの〘“奇声”〙すら発していない。
なんなら最愛の彼の時と違って、更に恐怖すら覚える無の表情をしながら、無価値の物を見るような瞳で、冷徹に冷酷に見下していた。
【超大大大好きな彼】だからこそ、有らん限りの想いの丈をぶつけて、善がり狂っていたのである。(本人的には)
万が一にもあり得ないが、今後もし他の誰かが…ヴィクター以外の人物がセレーネを抱いた場合、その人物はもっと恐ろしくて悲惨な目に遭うだろう……。
──そんな事とは露知らず、勇者は戦鬼に向かって酒を呷りながら、尚も煽り続ける。
「私の語彙力の足りなさは認めるが、あれはマ◯ロって表現以外に難しいぞっ! 『不◯症』とはまた違う感じがするしなっ! ──私だから良かったが、他の者なら一生分の心の傷を植え付けられて、二度と関わりたくないって心底思わせるぞ『“アレ”』はっ! アハハハハ♪」
「だから…お前が……彼女を…悪く…言うなあ……ッ!!」
目尻に薄っすらと涙を滲ませて、嗚咽混じりに親友を睨む英雄。
今すぐ飛び掛かりたい衝動を無理矢理抑えて、どうにか己を落ち着かせる。
彼が最愛の彼女を侮辱されているのに、何故そこまで我慢するのかというと、目の前の【勇者】には色々と恩もあるし、まだ返しきれてない借りも沢山あるからだ。
それに『親友はこういう奴だ』と理解しているし、何だかんだで結構付き合いが長いので、もう慣れた。
勇者も、本気で聖女を貶しているわけじゃない。
ちゃんと評価もしているし、好感も持っている。
勿論、信頼も信用もしている。
(親友に寄せる程ではないが…)
もし、最初から本当に本気で親友が彼女を貶す気なのであれば、もっとえげつない。
リオンハルトは誰かを貶す・馬鹿にする・侮辱すると決めた時、一切の加減をしない。
【口が悪い勇者】でも有名な公爵子息様。
別に罵詈雑言を浴びせるわけじゃなく、相手を言葉責めにしてイライラさせて、『向こうから先に手を出させる』状況に上手く仕向けるのである。
それぐらい口がとても達者なのだ。
だからこれは親友なりの軽口…意思疎通や馴れ合いみたいなものなのだと、それが分かるからこそ彼は我慢出来るし、己を抑えられる。
それに仮にもし、いま此処で【勇者】と【戦鬼】が本気で衝突すれば、今度こそこの屋敷は全壊して使用人やセレーネ達にも、相当の被害がでるだろう。
実際、過去に何度か些細な諍いから真剣な喧嘩にまで発展して、【勇者】と【戦鬼】両方が瀕死の重体になる事も多々あった。
その度にその後、ルインとセレーネにこっぴどく叱られ、アミュや周囲の者達に迷惑を掛け、酷く呆れられた程だ。
──だから今はどんなにイライラしようと、とにかく我慢するしかない…。
そう自分に言い聞かせて、元凶の親友を睨むヴィクター。
それを知ってか知らずか、リオンハルトは尚もおちゃらけ気味に話しを続ける。
「まあ、彼女を擁護するわけじゃあないが、“アレ”はああなっても仕方ないと私は思うぞっ!」
「なに…? それは一体どう言う意味だ?」
酒を酌みながら、微笑を浮かべる超絶美男子。
憎まれ口を叩くが、その動作は一つ一つがとても美しい。
「【女神の加護】を複数所持し、それを遺憾なく発揮出来る存在は極々稀だ。流石は国王から【奇跡の聖女】の称号を授かり、教会からお墨付きを貰う【稀代の聖女】様だ。この私から見ても、素直に賞賛に値する女傑だよ…」
「そっ、そうか…。お前が言うなら間違いないんだろう…」
頬を掻いて、自分が褒められたかの様に嬉しそうにするヴィクター。
事実、彼は己が褒められるより、恋人や友人達。
親しい者や仲間達が、称賛されたり評価されて認められる方が嬉しいのである。
英雄とはそうゆう漢なのだ。
特に愛する人が絶讃されれば、デレ顔が止まらない有頂天になってしまう。
そんなヴィクターにリオンハルトは、冷や水を浴びせるかの様に言葉を続ける。
「しかし、流石の聖女も【女神の加護】を複数有している弊害が出ているようだ。私はそれが『アレ』だと踏んでいる」
「なに…? そうなのかっ!? だからセレーネは…」
「ああ、恐らくだがな…。じゃないと流石に『アレ』は酷すぎるだろうっ! ──『アレ』は…ホントに…ププッww」
「だからお前が彼女を悪く言うなぁあああああああッ!!」
顔を伏せて、必死に笑いを堪える破廉恥漢。
傍若無人も“一応”、礼儀と言うのを弁えているので、大親友の想い人をこれ以上貶しては…小馬鹿にしてはイケナイと思っているが、どうしても笑いが込み上げてきてしまう。
それを見て、顔を真っ赤にしながら激昂するヴィクター。
先程より更に目尻に涙を溜めている。
リオンハルトは息を整えて軽く咳払いをした後、再び酒を飲みはじめて、会話を続けだす。
(いつの間にか、三本目の酒を開けていた…)
「しかしだなぁ…。あのサービス精神の無さは頂けないだろう? 私から言わせてもらえば、あれは怠慢や傲りだぞ! 聖女のクセに『“ご奉仕”』すら知らんとは…。──彼女は人としては文字通り『聖人』なのだろう…。けどなっ! 『女』としては色々と足りない…残念だと深く私は考えるぞっ!」
「いや、だから───」
「まてっ! 最後まで言わせてくれッ!!」
ナニカの起爆装置が入ったかのように、心友の言葉を遮ってまで、聖女に対する不平不満を熱弁する勇者。
どこか恨み辛みの込もった、禍々しい怨念……呪詛にも聞こえてくる。
「彼女は心のどこかで、『貴重な“聖女”を抱かせてやっているんだ。相手が“聖女”を悦ばせるのは同然では?』って絶対思っているぞっ! ──あの自惚れの、マ◯ロ女めッ!! 絶対にっ……絶対に許さんぞぉおおおおおおッッ!!!!」
「さっきからお前は一体、何を言っているんだっ!? とにかく一旦、落ち着けッ!!」
何故か怒り心頭の深友を宥めるように、あやし落ち着かせるヴィクター。
ちょっと癪に障る事を言われた気がするが、ヴィクターも彼女に対して薄々思っていた事なので、ここは黙認する。
真友に鎮められて、リオンハルトは肩で息をしながら、段々と冷静さを取り戻す。
「すまない…。少々酒に酔って、情緒不安定になってしまったようだ。もう大丈夫だ、ありがとう…」
「全く…。──お前は一体何なんだ? 俺の恋人を誑して…奪っておきながらっ!」
「奪ってはいないっ! 味見をしたんだ♪ ──まあ、味見から“毒味”に変わったんだがなっ!ww」
「コイツ…ッ!!」
いつもの嫌味者に戻って、調子にノリはじめる。
『親しき仲にも礼儀あり』って言葉があるが、不躾者にそれを求めても仕方がないと分かっているので、挙げそうになった拳をどうにか下げるヴィクター。
(ホントにコイツは…ッ!! 親友じゃなかったら、今頃何回張り倒していたことかっ!!)
と思いながらヴィクターは、いつの間にかリオンハルトが注いでくれた酒を漢らしく、一気に呑み干す。
それを見たリオンハルトは「おおっ…!」と感嘆の声を出して、美しく口角を上げる。
「これでも私なりに、お前には色々と悪い事…酷い事をしたと思っているし、ちゃんと反省もしているつもりだ…。だから何か償いを…罪滅ぼしをと考えているっ! ──そこでだ。幾つかお前に提案があるっ!」
「げふっ…。──提案…? 何だそれは? 俺は別に……」
「良いから聞けっ! お前にとっても、決して悪い話ではないからなっ♪」
そう言って、笑みを浮かべる勇者。
その笑みはいつもの『美しい笑み』とは違い、どこか妖艶さと官能的な雰囲気を纏った、とても妖しい微笑みだった。
そして、その口から放たれた言葉は余りにも突拍子もなく、奇天烈過ぎた提案だった───。
「お詫びに私の幼馴染…。【ミルティ】をお前にやろう♪」
「──────は?」




