修羅場…?
『ファンタジーの世界に、なぜそんな単語や表現が?』
ってな部分が多々ありますが、華麗にスルーしてくれたら有り難いです。
「なあ知ってるか? どうやら王国と揉めている魔国の王には娘がいてよお。その娘は途轍もなく別嬪さんなんだってよっ!」
「ああ、知ってるぜ! 艶のある長い紫髪と、使う武器が特徴的な確か…【魔弾のマリアンヌ姫】だったか?」
「そうそう、それだっ! まあ王国の絶世二大美女。【王女ミルティ姫】と【聖女セレーネ】様に比べれば、どんな美女の美貌も霞むんだろうがなっ!」
「ちげぇーねぇ! ガハハハハハハッ!!」
そんな他愛のない談笑が飛び交うこの場所は酒場。
ここは宿泊施設も兼ね備えており、冒険者や旅人。
王国に仕える戦士達の憩いの場所でもある。
その一角で、異様な雰囲気を漂わす人物が居た。
席に座るのはニメートルを優に超える、筋肉隆々の大男。
名は───【ヴィクター】。
この【ルケドニア王国】を代表する英雄の一人だ。
近隣諸国から【戦鬼】の異名で恐れられる百戦錬磨の豪傑で、一度戦場に出れば一騎当千の活躍をみせる猛者だ。
そんな彼が神妙な面持ちで腕組みをしながら、
「う~ん…。やはり、このままではいけないよな…」
と唸っているのである。近くにいる者は気が気ではない。
現に、彼の近くに居た他の客は空気を察して、そそくさとその場を離れて行く。
けれどそんな彼に臆す事なく、声を掛ける人物が二人。
「どうしたッスか、ヴィクっち? いつにも増して仏頂面なんかして。折角の男前が台無しッスよ!」
「そうよヴィクター。何か悩み事? この優秀な私に話してみなさいな。微力ながら、力になってあげるわよ♪」
そう言ってヴィクターの両隣に座る、麗しき女性達。
赤茶色の髪と、八重歯が印象的な美少女は【アミュ】。
ヴィクターの仲間で【天弓】の異名を持つ、百発百中の弓の名手だ。
ボーイッシュな服装や髪型。小麦色の肌や一人称の所為でよく少年に間違われるが、声や胸部の膨らみから直ぐに少女だと分かる。
もう一人の幼児体型ながら、とても博識そうに見える翡翠髪のツインテール美女は【ルイン】。
こちらもヴィクターの仲間で【大賢者】の名で世界中に知られている、非常に有名なハイエルフだ。
禁句は『ロリババァ』や『幼女詐欺』などなど…。
そんな二人に挟まれて渋りながらも、意を決した様に言葉を絞り出すヴィクター。
「……アミュ、ルイン。聞いてくれっ! ──俺はこのパーティーを抜けようと思う…」
「はぁ!? なんでよっ?!」
「そうッスよ! どうしてそんな急に…?」
ヴィクターの突然の脱退宣言に困惑する二人。
「実は───」
ヴィクターが神妙な面持ちで二人に理由を話そうとすると、
「おや? もう皆集まっていたのか? 早いな…」
超が付く程のドえらい美丈夫が、颯爽と現れた。
綺麗に切り揃えられた黄金の髪に、大勢の異性を虜にする魅惑の甘い顔立ち。
真紅の薔薇を彷彿させる、妖艶で真っ赤な瞳。
ヴィクター程ではないが長身で、すらっとした体型。
でも“漢”らしい筋肉はちゃんと付いていて、思わずうっとりとしてしまう。
声も魅力的で、耳元で囁かれたらどんなに堅物な女性も、ときめいて籠絡されてしまうだろう…。
そんな色男の名は───【リオンハルト】。
この王国が誇る最高の英雄で、【最強の勇者】の称号を国王より与えられし、戦慄の貴公子。
そして、ヴィクターが所属する勇者パーティー『極星光』のリーダーである。
リオンハルトはヴィクター達が座っている席に、好印象を与える表情で近づく。
「リオンハルト…」
「やあ、ヴィクター。調子はどうだ? 何だか浮かない顔をしているが……体調でも悪いのか?」
「聞いてよリオン! ヴィクターったら、このパーティーを抜けるって言うのよっ!」
「そうっスよ! リオっちからも何か言って欲しいっス!」
「なに…? それは本当かヴィクター? 一体どうしてだ。理由を聞いても?」
「理由ならお前が一番心当たりがあるんじゃないか、リオンハルトッ!!」
そう言って険しい表情でリオンハルトを睨みつけたあと、彼の後ろから付き従う様に姿を現す人物に、慈愛の込めた眼差しを送るヴィクター。
「セレーネ…」
「ヴィクター…」
ヴィクターの視線の先には、これまた超が付く程のとびっきりの美貌を持った美女が、静かに佇んでいた。
絹のような銀色のとても長い髪に、雪のような色白の綺麗な素肌。
思わず吸い付きたくなる程の、血色の良い魅力的な唇。
長い睫毛に、母なる海を連想させる深い蒼色の瞳。
彼女の最大の特徴でもある、全てを優しく包み込んでくれそうな、とても豊満で魅惑的な胸。
『勇者』と対を成す存在にして、国王より【奇跡の聖女】の称号を与えられし淑女。
そしてヴィクターの幼馴染であり、最愛の“恋人”でもある彼女の名は───【セレーネ】。
この国自慢の【絶世二大美女】の一人である。
セレーネはヴィクターの視線を女神の様な微笑みで、穏やかに受け止める。
しかしヴィクターは、彼女のほんのりと赤くなっている頬や甘い息遣い。少しだけ着衣が乱れているのを見て、何かを悟ったみたいに顔を伏せてしまう。
「ヴィクターどうしたの…? 私の顔に何か付いてる? それとも……具合でも悪いの?」
最愛の恋人にそっぽを向かれた不安と、本気で体調が気になった心配の焦りで、声を震わせるセレーネ。
そこにルインが少し癇癪気味に割って入る。
「ちょっとセレーネどう言う事っ!? 貴女の恋人、このパーティーを抜けるとか突然言い出すんだけどッ!!」
「えっ…? 本当なのヴィクター…? ──どうしてそんな事を言うのッ!? 貴方が居なくなったら私……ワタシ…」
如何なる戦場でも、どんな危機的状況でも冷静沈着で表情を崩さなかった彼女が、激しく動揺して取り乱す。
彼女にとって恋人はそれぐらい必要不可欠…。なくてはならない存在なのである。
そんな最愛の女性の様子を見て、心が痛くなる英雄…。
しかし、それでも顔を伏せて黙り込む。
「なんで何も答えてくれないの? 私の事…嫌いなった?」
「違うッ!! 断じてそうじゃないっ!!」
「それじゃあ、どうして…? 理由を教えて…」
そうセレーネに絆されたヴィクターは観念したかのように深い溜息を吐いたあと、普段は絶対に見せない優しくも悲しい瞳をしながら、言葉を零す。
「それは君が一番分かっているんじゃないか、セレーネ…」
「えっ…?」
「正確には君と……お前だっ!! リオンハルトッ!!」
そう怒声を飛ばして二人を見詰めるヴィクター。
リオンハルトには鋭い眼光で威圧的に。
セレーネには愛溢れる…だけども落胆の気持ちを込めて。
その戦鬼の眼差しに、彼が何を言いたいのか瞬時に理解する勇者と聖女。
「えっ…? あっ…。えっ…? ──ちっ、違うわ! ヴィクター!! 貴方、なにか誤解してるッ!! わっ、私とりっ、リオンとは…リオンハルトとは何もないのっ! お願い信じてッ!!」
「ヴィクター…。お前…気付いて……」
「余計な事を言わないでぇっ! リオンハルトッ!!」
美しい顔を真っ青にしながら狼狽え、必死に弁明しようとするセレーネ。
方や呆気に取られながらも『流石この私が認めた男だ!』と、何処か感心と誇らしげな表情をするリオンハルト。
ヴィクターの雰囲気や態度に、二人の反応や様子。
話の内容から逸早く察して言葉を発したのは、この場の誰よりも歳上のルインだった。
「嘘…。アンタ達まさか…ッ?! ──見損なったわよ、リオンッ!! アンタ軽薄そうに見えるけど、筋は通す男だと思っていたのにっ! 他人の恋人を…それも“戦友”の恋人を奪うなんてぇ!! 貴女もよセレーネ! 貴女がやった事はとんでもない裏切りよっ!? ──ホント信じらんない…。二人とも、サイテーッ!!」
ヴィクターの代わりに、金切り声で二人を非難・罵倒するルイン。
ここまで一人だけ置いてけぼりだった最年少のアミュが、おずおずと口を挟む。
「あのぉ〜…。オイラまだ子供だからよく分かんないッスけど、どーゆー事っスか…? てゆーか、ヴィクっちとセレっちって、付き合ってたんっスか!?」
「………話が稚児しくなるから、貴女は大好きな餡蜜でも注文して食べてなさいっ!」
「あっ…はい…。了解っス…! ──すいませぇ〜んっ! 超爆盛り特大あんみつを全種類、お願いしまぁーすっ♡」
注文した本人以外は『コイツ…マジか…!!』と全員思いながらも、どうにか話を戻す四人。
因みに。アミュが注文した『超爆盛り特大あんみつ』はこの店の名物の一つで、一杯が十二人分の量になる。
それを全種類となると───。
「……ゴホン! ──とにかく、俺はこのパーティーを抜ける! もう俺の意思は変わらないッ!!」
「そんな…ヴィクター…! 私はどうなるの? 貴方に見放されたら私…もう生きて…。お願い考え直してぇ…ッ!!」
大粒の涙を流しながらヴィクターに、形振り構わずしがみ付いてくるセレーネ。
そこには【戦場の可憐華】や【逆転の女神】などの渾名で称賛される『聖女』の姿は微塵もなかった。
ただ“運命の相手”に捨てられたくない一心で縋り付く、憐れで一途な“乙女”の成れの果てがあった。
それを見て先程より、更に心を痛くするヴィクター。
呟くように言葉を零す。
「だったらなぜ、リオンハルトなんかと…。聡明な君なら俺にバレた時、こうなる事ぐらい分かっていただろう?」
「それは……」
ヴィクターの追求にセレーネが言い淀んでいると、件の元凶・原因であろう彼が割って入る。
「まあ待て、ヴィクター。──分かった、お前の意志は尊重しよう。但し、今日一日私に付き合えっ! 最後ぐらい、男同士で腹を割って話そうじゃないか!!」
「馴れ馴れしく肩を触るなっ! 何で俺がそんな事を…。元はと言えばお前が──」
「お前はまだ勇者パーティー『極星光』の一員だろう? 基本、パーティーリーダーである『勇者』の“命令”は…? まさか規律や規則を重んじるお前が、抜けるからって理由で無碍に断ったりしないよな?」
「ぐっ…! ──分かった…。だが、本当に今日一日だけだぞっ!! その後は……」
「ああ、好きにしろ。──では諸君っ! ちょっとヴィクターを借りて行く♪」
そう言いながらヴィクターを引き連れて、喧騒の街に繰り出すリオンハルト。
横を擦れ違う時に一瞬だけ、ヴィクターとセレーネの視線が重なる。
(キミには失望したよ…)
(違うのヴィクター! 私は本当に、貴方の事が……)
そんなやり取りが刹那に交わされ、そのまま二人の背中を黙って静かに見送るセレーネ。
その瞳には不安や悲しみ、絶望と後悔の念が溢れていた。
何だかんだで一応最年長であるルインは、そんなセレーネを気遣うように、励ますつもりで声を掛ける。
「セレーネ! 貴女はこっちで私達と一緒に『お説教』の時間よ! ホラ、そんな所にいつまでも突っ立ってないで、こっちに来なさいっ!!」
「ええ…。二人にも迷惑を掛けて、本当にごめんなさい。なんと申し開きをすれば良いのか…」
「全くよっ! ヴィクターも言っていたけど、貴女ほどの知的で利口で賢明な判断が出来る女性が、何でまた愚かな行動を…。それも、選りにも選ってリオンハルトなんかと…」
「まあまあルイっち。これでも食べて落ち着いて! セレっちもどうッスか? オイラと一緒で、甘い物が大好物ッスよね? これ、めちゃくちゃ美味いっスよ♪」
「………貴女、今さっき注文したばかりよねぇ? なのに何でもうその品が運ばれてて、そして既に二つも空になっているのよぉぉッ?! 色々と奇怪しいでしょうッ!?」
「ふえ? ──あっ、すいませぇーんっ! 追加で、特製フルーツミックスジュース・ウルトラレインボーDXをお願いしまぁーすっ♡♡♡」
「………………」(絶句)
「………………」(唖然)




