帝都炎上
神聖暦1686年6月19日未明―アードミヤ帝都アドミア帝城。
「これがお前の目指す世界か」
燃える帝都を見ながら、血を流し、座り込んだ男が鎧を着た男にそう問いかける。
「そうだ。兄上の―いや、先代からの間違った統治を正す。この大国を治めるに相応しいのは、この俺だ。貴様らのような媚び諂う政治はもう終わりにする」
憎しみと侮蔑の視線を彼は、壁に寄りかかる兄に浴びせた。
「愚かだな」
兄は弟の行動をそう吐き捨てた。
「幼稚で、短絡的なその行動が、自分の首を絞めることになる。そしていつか気付く。どれだけ自分が愚かな行動をしたのか!」
兄であり、この国の皇帝である彼は、力を振り絞りもう一度立ち上がった。
「死に損ないが!どれだけ喚こうが貴様の世は終わりだ!」
皇弟は死にかけの兄に剣を振り下ろした。
皇帝も剣でなんとか一撃を受け止める。
しかし、皇弟は抵抗する兄を薙ぎ払った。皇帝は力なく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「欲望は、人をここまで変えるか」
それでも皇帝は、立ち上がった。
血を吐き、血を流し、ふらつきながら、欲望に支配された弟の前に立ちはだかる。
「お前にはお前の理想や正義があるのだろう。だが、それは世界にとって悪だ。そんなことさせはしない!」
これで最後だと言わんばかりの剣幕で、皇帝は弟に斬りかかる。
「無駄だ!」
皇弟は起死回生の一撃を狙う兄に動じることなく冷静に攻撃を防ぐ。
武術に秀でた弟と政治に秀でた兄とではやはり戦力に差がありすぎた。
皇帝の必死の振りも、皇弟には赤子の手をひねるように防ぐのは簡単だった。
ついに皇帝は一矢報いることは出来ず、地面に倒れた。
「エルマク!お前の野望は必ず打ち砕かれる!必ず―!」
皇帝は最後の力を振り絞って弟にそう叫んだ。
「黙れ」
しかし、弟にその言葉は響かなかった。
皇弟は兄を容赦なく斬り捨てた。
「これで俺が皇帝だ。フフッ……フハハハ!!」
この日、燃える帝都を背に悪逆非道の皇帝が誕生した。
そしてこの世界のパワーバランスが崩壊を始めた。