30 『神として』
『かみさまといろんなおはなししたり、いろんなところへあそびにいったり、いっしょにごはんをたべたりしたいんです』
声が聞こえる。
『こんにちは。またあそびにきました』
雨粒のように降り注ぐ、たくさんの声。
『さいきん、新しいおりょうりにちょうせんしてるんです。今日はそれをおべんとうにいれてきました。おくちに合えばいいのですが』
そのどれもが、カサネを想う声だった。
『こんにちは。お元気ですか? かみさま。今日はとてもひえますね。かぜをひかないように気をつけてくださいね』
『こんにちは。神様。今日はすごく暑いですね。ばてないように、しっかりと水分ほきゅうしてくださいね』
カサネの体調を気遣う声もあれば……
『最近、こんなまほうを覚えたんです。これで、像の上のほうもそうじができます。今まで下のほうしかできなかったから』
『神様は、やっぱりすごいですね。私のケガを治してくれたみたいに、私もだれかのケガを治せるまほうを覚えたいんですが……なかなかうまくいかなくって』
『剣のうでがかなり上達したって、先生にほめられました。すごくうれしいですッ。やっぱり、体をうごかすのは楽しいですねッ』
日々の出来事を語る声もあった。
『神様は、今何をされてますか? 寂しい思いはしていませんか?』
……ッッ……。
『お元気ですか? 風邪などは引いてませんか?』
…………なぜ、じゃ……?
『いけないッ……私、質問ばっかりですね』
……なぜ……こんなにも、妾のことを…………。
『私、あのときの神様の顔…………は、思い出せないんですけど……』
……あのとき、待てと言われたのに…………待たなかったのに……。
『あのときの表情は、しっかりと覚えてて』
…………なのに……。
『とても寂しそうに見えたんです』
……こんな、妾の、ことを……。
『だから、ひとりにしたくないなって、思っちゃいました』
……想って、くれるんじゃ……?
『少し強引かな?とは思ったんですが……でもやっぱり、ほっとけなくて』
…………。
『神様がしてくれたみたいに、私も手を握ってあげられたらなって』
……ッッ……。
『あのとき、凄く嬉しかったから』
…………ラキシ、ァ……。
『またお会いできるのを楽しみにしています。そして、そのときは…………え、えっと……』
……うぅぅ…………。
『そ、そのときはッ、お友だ…………い、いえ……こ、これは、会ったときに直接言いますねッ』
……らぎ、じぁぁ…………。
『また会いにきますね。神様』
ぽたり。
『こんにちは。神様』
『今日はいい天気ですね』
ぽたり。
『神様はお好きな食べ物はありますか?』
『もしまた会えたら、一緒にお弁当食べましょう』
ぽたり。
…………。
カサネの頬から涙が伝って落ちていく。
この言葉たちは、カサネの像に向けられた想い……祈りだ。
きっと何年ものあいだ、ラキシアはカサネに会いにきていたのだろう。
……妾を……ひとりに、しないため、に……。
また会えると信じて、ずっと話しかけてくれていたのだ。
ラキシアの声が、言葉が、想いが、祈りが、カサネの心を満たしていく。
……わ、妾は……大馬鹿者じゃッ……。
そして、同時に恥じた。
……ラキシアがこれほどまでに、妾を想ってくれていたというのに…………妾は、いったい何をしておるのじゃッ!!
体が熱くなる。
ギュッと握り拳を作った。
……ラキシアは妾たちを守るために戦いッ、そして傷ついておるのじゃッ! そんなラキシアを見殺しにすることなど、断じて許されぬッ!!
カサネは見た。
ラキシアの最期を。
そして、絶望した。
また失うのかと。
……じゃが、違うッ!! まだ確定しておらんッ!!
まだ救える。
絶望するのはまだ早い。
なぜなら……。
……妾は神じゃッ! ラキシアを必ず救うッ!! それこそがッ、神としての妾の使命じゃッ!!
「んんッ!」
ゴシッ! ゴシッ! ゴシッ!
乱暴に服の袖で涙を拭う。
そして……
「アサヒッ」
自分の眷属に呼びかける。
「…………カ、サネ……?」
…………。
こちらを見るアサヒの顔は、とてもひどい顔をしていた。
絶望なのか、悲しみなのか。今にも泣き出しそうなその顔は、なんとも……。
……情けないのぅ……それで神の眷属が務まるのか?…………まぁ……。
醜態を晒したのはカサネも同じ。
……お互い様じゃッ!!
アサヒの顔を真っ直ぐに見つめる。
……神としてッ、妾がお主らを導くッ!!
「ラキシアを助けるぞッ」
そして告げた。




