25 『ひとりに、したくなくて……』
「かみさまは、いつもどこにいるんですか?」
ピクッ。
『…………』
「すきなたべものとか、ありますか?」
ピクッ。
『…………』
「きょうだいは、いますか?」
ビクッ。
『…………』
神様のことがもっと知りたくて、いろんな質問をする。
振り返ってもくれないが、質問のたびに手が震えるので、ちゃんと話を聞いてくれてるのはわかる。
「ずっと、もりにいるんですか?」
いつもなら、こんなに質問ばっかりはしない。
それをすると、相手の人を困らせてしまうと先生に教えられてるからだ。
でも……
……さっきの、かみさまのかお……。
涙を拭ってくれたときの神様の表情が頭から離れない。
まるで物語に出てくる、ひとりぼっちの女の子のようだった。
「もしかして……」
だから、質問を続ける。
ひとりでいるのは、きっと寂しいから。そうならないように。
「ずっとひ…………」
ひとりでいたんですか?と、聞こうとした。
でも、聞けなかった。
「…………」
言葉に詰まってしまう。
もしも聞いてしまったら、またさっきと同じ顔をさせてしまうかもしれない。
そう思ったら、心の中がギュッと苦しくなった。
『…………』
「あっ……ご、ごめんなさい! な、なんでもないです……」
ふいに振り返ってきた神様と目が合って、咄嗟に謝ってしまう。
神様は不思議そうに小首を傾げた。
『…………』
そして前を向き直り、そっと指を差した。
少女は、その指の先へと視線を向けて……
……いえ? あ……むらだ……。
見慣れた建物が見えた。
神様は少女の手を引いて歩きだし、そのまま森を抜けた。
「ついた……。か、かみさまッ、ありがとう、ございますッ」
神様にお礼を言う。
すると……
「ぁ…………」
繋いでいた手が静かに離れていく。
思わず声が漏れた。
神様が一歩下がる。
「まっ……」
『もう大丈夫だね』
そう言っているような表情だった。
「まってッ」
……いかないでッ!
一歩一歩下がっていく神様を呼び止める。
行かせてはいけないと思ってしまった。
だって神様の今の表情は、優しく微笑んでるはずなのに、なんだかとてもツラそうで、今にも泣いちゃいそうで……ひとりに、したくなくて……。
「も、もうちょっと……お、おはなし、しませんかッ?」
神様が足を止める。
でも、きっとすぐに遠ざかっていく。そんな気がした。
「あ、あのッ……」
一歩近づいて、手を伸ばす。呼び止めるための言葉を探した。
しかし……
「その……」
……な、なんてこえをかければ……。
言葉が見つからない。
ひとりにさせないための……一緒にいるための言葉。
一緒にいても変じゃない理由。
……なにか……なにか、ないでしょうかッ……。
頭の中でくるくるといろんなことを考えた。
でも……
『…………』
「ッ!?」
神様は再び離れていく。
少女は駆け寄って、ガバッと手を掴んだ。
「まってッ、く、くだ、さいッ……」
神様が少しだけ驚いた顔をする。
「ま、まだ、おれい……してない、ですッ、だから……」
助けてくれた神様に、何も返せてない。
神様は口元を綻ばせて、微笑みかけてくる。
「まだ、いかないで……またあいたい、ですし……」
思いつくかぎり、口を動かす。
目の前で、ゆっくりと首を横に振っているのが見える。
……そうだッ! いっしょにごはんをたべちゃえば、なかよくなれますッ!
一緒のテーブルを囲ってご飯を食べれば、誰とでも仲良くなれると先生に聞いたことがある。
そのおかげで、先生とも家族になれた。
だから、目の前の神様とも家族みたいに仲良しになれる。
「いっしょに、ごは——」
『ありがとう』
神様は少女の手に自分の手を優しく添えて、そして離した。
「ぁ…………」
その行動はまるで、少女の言葉を遮るようで……。
……だめッ、いかないで……。
少女はただ、仲良くなりたかった。
寂しそうに笑う神様と一緒にいてあげたかった。
そんな顔を見ると、心がギュッと締め付けられてしまうから。
だから、神様と仲良く……。
……ぁ…………。
「……とも、だち……」
頭に浮かんだ言葉を口の中で呟く。
それは、相手と仲良くなるための言葉。
神様をひとりにさせない理由。
「かみさまッ!」
少し距離の空いた神様に向かって声をかける。
「わ、わだじ、わたしとッ……お、おと……おともッ……」
初対面の相手にこんなことを言うのは初めてで、とても緊張する。
それに、焦っているのもあってカミカミだ。
……で、でも、ちゃんとつたえなきゃッ!!
「すぅ……はぁ……」
深く息を吸って、吐く。少しだけ、心を落ち着ける。
そのあいだ、神様は足を止めてくれていた。
だから、伝えるのは今しかない。
「かみさまッ! わたしと!」
神様が、こちらを見ている。
少女も、神様の目をしっかりと見つめて、そして……
「おともだ——」
「どこーーッ!? どこなのーーッ!?」
「ッ!?…………お、おねえ、ちゃん?」
「おねがいッ、おねがいだからッ!! でてきてよッ!!」
神様に伝えたかった言葉は、少女を呼ぶ声に遮られた。




