22 『かみさま?』
とうとうあたりは真っ暗になってしまった。
月明かりは出ているが、ほとんど何も見えない。
……こ、こわい……です…………おねえ、ちゃん……せん、せい……。
そんな暗闇の中、少女は涙を流しながら恐る恐る足を踏み出す。目の前の木に手をつきながらゆっくりと……。
「きゃッ!?」
ドサッ!
何かにつまずいて、転んでしまう。
「う、うぅ……」
これで何度目だろうか。
暗くなって、まともに足元も見えず何度も何度も転んだ。
「い、いたい……です……」
転んだときにぶつけた膝がヒリヒリする。もしかしたら、血が出てるかもしれない。
そして、頬や腕など、ぶつけたところ以外にも痛みがある。こっちは、枝などで引っ掛けたのだと思う。
「ごめん、なさい……」
これは罰だ。
……おねえちゃんに、ひどいことをいったから……。
だから、真っ暗な森の中にひとりぼっちでいる。
「ごめんなさいッ…………ごめん、なさい……」
何度も何度も謝罪の言葉が口から出てくる。
近くに姉がいないとわかっているのに。
「おねえ、ちゃん…………ッ……あいたい、です……」
少女はおぼつかない足取りで、再び歩き出す。
早くは歩けない。また転んでしまうから。
でも、早く歩きたい。
早く姉に会って、謝って、そして……。
ぐぅ〜。
お腹が鳴る。
いつもなら、夕食を食べている時間だ。
「……う、ぅぅ…………」
再び涙が溢れてきて、頬を伝う。
ぽたり、ぽたり……。
外が暗くなると、先生が夕食の準備を始めて、少女と姉がそのお手伝いをする。
そして、お料理の乗ったテーブルを三人で囲んで、ご飯を食べる。
いつもしていること。
でも、今は違う。姉も先生もいない。ひとりぼっち。
……ひとりは、いや……です……。
胸の奥がぎゅっと苦しくなった。涙が止まらない。止まってくれない。
もはや前が見えないのが、暗いからなのか、涙を流しているからなのか、わからない。
ガサ……ガサ……ガサ……。
そうして、歩き続けていると……
「ぁ…………」
小さな広場に出る。
今晩は雲が出ていないのか、月明かりで思いのほか明るく感じた。
そして、少女は気づく。
「あれ、は……??」
広場の端に、白くて大きな像が立っていた。
「…………きれい……」
おもわず、声が漏れる。
月明かりに照らされる、女の人の姿をかたどった像。
その姿がとても綺麗で、少女は近づいて手を伸ばそうとした。
そして……
「ッッ!!?」
すぐ目の前……少女と像のあいだに、一人の女の子が立っていた。
「きゃッ!?」
ドサッ!!
少女は心臓が飛び出そうなくらい驚き、あとずさった拍子にバランスを崩して尻餅をついた。
「だっ、だだ、だれッ!? だれッ、ですかッ!?」
おもいっきりお尻をぶつけた痛みなど忘れ、問いかける。
目の前の女の子は、何も答えずに小首を傾げた。
「えっ!? あ!? あのッ……え、えっとぉ…………」
女の子はゆっくりと近づいてきて、手を差し出してきた。
少女は、戸惑いながら手を伸ばす。
……ぁ…………やさしい、て……。
女の子の手から、温かみを感じた。まるで、姉や先生が自分に優しくしてくれているときのような。
「あ、ありがとう、ございます」
女の子の手を借りて立ち上がり、お礼を言う。
そして、手を離す。
少女は自分の手を見つめた。不思議と、もっと握っていたいと思ってしまった。
「あ、あの…………ッ……」
少女は、もう一度話しかけようと顔を上げる。
だが、途中で声が詰まった。
「…………」
…………きれい……。
さっきと同じことを感じた。
月明かりを浴びて、輝く像を背にしている女の子。
その姿はとても神々しくて、まるで……。
「も、もしかして……」
だから、おもわず頭に浮かんだことをそのまま口にした。
「かみさま…………です、か……??」
女の子は、この問いかけにも何も答えなかった。




