21 『大喧嘩』
「おねえちゃんなんてッ……だいっきらいッ、ですッ!!」
幼い少女が姉と大喧嘩して家を飛び出し、そのまま近くの森に入っていく。
「おねえちゃんなんてッ! もうッ、しりませんッ!!」
ぷんすかと怒りながら、森の中を突き進む。
喧嘩の理由は些細なことだった。
姉が、少女が大好きな小説を読んで夢を見過ぎと言ってきたからだ。
「おねえちゃんは、わからずやですッ!」
いつも一緒にいる仲良し姉妹なのだが、どうしても合わないところもある。
そのひとつが、読書の趣味だろうか。
姉はほとんど本を読まない。逆に、少女は本を読むのが大好きだった。
「あんなに、すてきなものがたりなのにッ、なんでわかってくれないんですかッ!」
いろんな苦難を乗り越えながら大冒険をするお話や、素敵な人と出会って大恋愛をするお話。
そのどれもが、少女にとっては憧れだった。
とくに、絶体絶命の状況に陥ったお姫様が、勇者様に助けられて恋に落ちるお話が大好きだった。
「も〜〜〜ッ!!」
そして、その大好きなお話を読んで、夢を見過ぎと言ってきたのだ。
少女はほっぺをこれでもかと膨らませて森の中をズンズンと進んでいく。
「む〜〜〜ッ!!」
いつもなら、絶対に一人で森に入ったりしない。いくら弱い魔物しかいなくて、なおかつ、ほとんど出現しないとはいえ、危ないことには変わりない。そう教えられていた……のだが。
「おねえちゃんなんて……」
思い出すとムカムカしてくる。
少女は立ち止まり、姉への不満を口にしようとした。
「おねえちゃんなんてッ……………………あれ?」
そして、ふと周りを見渡して気づく。
「ここ……どこ…………??」
少女は、小首を傾げた。
少女は、来た道を戻る。
少し頭が冷えてから、森の奥深くまで入りすぎたと思ったのだ。
あのまま進んでいれば、迷子になるところだ。少女は引き返しながら、少しだけホッとする。
しかし……
……あ、あれ…………??
引き返してから、かなりの時間が経った。
森に入っていた時間よりも、ずっと長く感じる。
……お、おかしい、ですね……。
なのに、森の出口は見つからない。本当なら、もう村に着いていてもおかしくないはずなのに。
……だ、だいじょうぶ、ですッ。もうすこしあるけば、きっと……。
姉に大嫌いと言って家を飛び出したのは、お昼ご飯を食べてからすぐのこと。
日が暮れるまでには、まだ時間がある。今なら、周りの様子がしっかり見えるくらい明るい。
だから、夜になるまでには村に着けるはずだと思った。
「きっと……だいじょうぶ、ですッ」
自分に言い聞かせるように声に出した。……少しでも不安を和らげるために。
空の色がどんどん変わっていく。
いつもなら、綺麗な夕暮れだと思うはずだ。だが、今は違う。
これほどまでに空の色が変わってほしくないと思ったことは、今までにない。
……どうしようッ、どうしようッ…………よ、よるに、なっちゃいます……。
今の少女の心は不安でいっぱいだ。
もはや、森に入ったときの姉への不満は完全に消え去っていた。
「お、おねえちゃん……」
むしろ、今は一秒でも早く姉に会いたい。
「ごめん、なさい……」
そして、謝りたい。
「…………ッ……」
大嫌いと言ったときの姉の顔が頭をよぎる。
今さらながら、ひどいことを言ったのだと自覚した。
言われたときの姉は、まず驚きの表情を浮かべ……そして、すぐに悲しそうな顔をした。
……わたし、わたしッ…………。
なぜあんな顔をしたのか、冷静になった今ならわかる。
少女も姉に同じことを言われたら、ショックのあまり泣き出してしまうだろう。
……おねえ、ちゃん…………おねえちゃん……。
「うぅ……ぅ…………」
涙が零れた。
きっと、姉は自分のことを嫌いになったに違いないと、少女は思った。
ぽたり、ぽたり……。
頬に伝う涙を拭おうともせずに、少女はふらふらと森の中を進む。
『もうッ、かおもみたくないッ!!』
「ッッ!?」
嫌な想像が頭をよぎり、おもわず息が詰まる。
姉は、そんなことを言う人ではないと頭ではわかっている。
わかっているのだが……
「……い、いや……です…………」
もし言われたらと思うと、怖くて怖くて仕方がなかった。




