18 『鮮血』
ドゴンッ!!!…………ドサッ!!!
宙を舞ったラキシアの体が、大きな音を立てながらカサネの像の胸のあたりに激突する。
そして、そのまま地面に落下していった。
「…………」
状況が飲み込めない。頭が真っ白になる。
それはまるで、おかしな夢でも見ているような素っ頓狂な光景だった。
目の前にいたラキシアが何かに吹き飛ばされ、カサネの像に激突し、決して低くない高さから地面に落ちていく。
言葉にしてみれば、あまりにありえない。人間の体があんな軽々しく宙を舞うなんて。ましてや、激突後のあの高さからの落下だ。普通の人間なら死んでもおかしくは……。
……ラ、ラキ、シアは……無事、なの、か…………??
目の前で起こった現実を受け止められず、働かない頭でラキシアの心配をする。
そんなアサヒを嘲笑うかのように……
「グギャーーーーーーッッ!!!」
グラムガンドが咆哮を上げた。
グラムガンドが両目でアサヒたちを見下ろす。
「な、んで……」
なんとか言葉を絞り出す。
こんな状況で言葉など、無意味だとわかっている。
でも、言わずにはいられない。
……だって……グラムガンドは、ラキシアが、倒して……。
呆然としながら見上げる。
その体はところどころ血に濡れていた。とくに、左目と左胸あたりは血の跡が目立つ。
だが、血を流したはずの傷跡はどこにもなかった。
「ギャーーーッ!!」
「ッッ!!?」
グラムガンドはアサヒたちを叩き潰そうと、巨大な腕を振り下ろしてきた。
今度こそ、死んだと思った。
しかし……
ズドォン!!!
「うっ!?………………え?」
目の前には、木の根のようなものが何本も何本もそそり立っていた。まるで、アサヒたちを守るかのように。
……こ、これは…………ラキシアの……。
さっきも見たものだ。
つまりこの木の根はラキシアの魔法で、当然魔法を行使したラキシアは無事で……
「ラキシ、ぁ……」
そんな期待をしたアサヒは名前を呼びながらラキシアが落ちていった方に顔を向けて、絶句した。
「ご、無事……ですか?…………アサヒ、さん、カサネ……ちゃん……」
ラキシアはカサネの像にもたれかかりながら、右手をこちらに向けていた……ボロボロの状態で。
顔からは血を流し、その滴った血が服を赤く染めていく。
「……い、癒しを……」
ラキシアはこちらに向けていた右手を自身の左腕に向けて、何かを呟いた。
すると、ラキシアの体が淡く光り出す。
……かいふく……まほう……?
ここは異世界で、すでにラキシアの超人的な戦いや魔法を見たあとだ。どれもアサヒからすれば現実離れしたものばかり。
なら、回復魔法の一つや二つあってもおかしくはないだろうと思えた。
「うっ、ぅぅ…………」
ラキシアは左腕を押さえながら顔を歪める。
心なしか、左腕が変な方向に曲がっているように見えた。
「ど、どうして、生きて…………ッッ!!?」
「ギャーーーッッ!!!」
ズドォン!!
グラムガンドがラキシア目掛けて両腕を振り下ろす。
避ける。
そのまま両手は地面に当たり、その衝撃で砂埃が舞った。
「くっ!? うっ…………さ、さっきよりも、はやいッ……」
ラキシアの驚愕の声が聞こえてきた。
アサヒたちに近い位置に避けてきたため、さっきよりもラキシアの姿がよく見える。
左腕からも出血しているのか、指先から血が滴っている。
足は震えていて、立ってるのもやっとに見えた。
そして、ラキシアから発していた光がいつのまにか消えていた。
「…………癒し、ッッ!!?」
「グギャッ!! ギャッ!! ギャッ!!」
ドスンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!
もう一度、回復魔法を使おうとしたのだろうか。再び右手を左腕に向けて何かを呟こうとした。
だが、それを阻止するかのように、グラムガンドがラキシアに何度も何度も襲いかかる。
「うっ!! くっ!!」
ラキシアはひたすらに避け続けているが……その動きはどこかぎこちない。足を引きずってるようにも見え……。
「ッッ!?」
「ぁ……」
足がもつれる。
その瞬間を見ていたアサヒの口から、おもわず声が漏れた。
そして、グラムガンドの右腕がラキシアに迫っていき……。
「ッッ、やあッッ!!」
裂帛の叫びとともに抜き放った剣でグラムガンドの一撃を防ぐ。
「ぐっ」
だが、子供でも扱えそうな小さな剣と巨大な魔物の腕だ。大きさも重さも圧倒的に違う。
当然、防ぎ切れるはずもなく……
「あがッ!!?」
ズザザザッ!!…………ドン!!
「かはッ!?」
短い悲鳴を上げて地面を転がっていき、木に激突する。
「くぅ……ゲホッ、ごっ、うぅ……」
ボタボタボタ……。
咳き込みながら、右手を地面についてなんとか起き上がろうとしているラキシア。……咳とともに、塊のような鮮血が溢れた。
「ラ、ラキ……シア……」
アサヒは見ていることしかできなかった。




