15 『ともだち?』
そして、数分後。
アサヒたちはカサネの像がある広場に到着した。
「お、おぉ!! いつ見ても神々しいのぅ!!」
「カサネちゃんにもわかりますか!? やっぱりこの像は素晴らしいですよね!?」
「…………」
興奮気味に見上げているカサネ。
像の素晴らしさを共感してくれる相手がいて喜ぶラキシア。
そんな二人を眺めながら、ただただ首を傾げているアサヒ。
……いやいやいやいや……。
なぜ、二人に共感できないのか。
その理由は……。
……だれッッ!!?
確かに、目の前にある像は素晴らしい。
それは高さ十メートルくらいはあるだろう、白い像だった。
カサネが言う通り神々しくて、なおかつ荘厳で、見ている者を惹きつける。
そして、おもわず美しい!と叫んでしまいたくなるくらいに起伏に富んだ理想的な体型で作られており、もしも実際に街中で同じような体型の女性とすれ違ったなら、振り向かずにいられる男はほぼいないと思わされるほどの造形美だった。
次に表情は、『慈愛』という言葉をそのまま顕現させたかのような優しい眼差しをしていた。まるで、地上にいる全ての人たちを優しく包み込んでくれるような温かさを感じて……。
「どうじゃ? どうじゃ? 凄いじゃろぉ? ものすっっごいじゃろぉ? 今ならアサヒの感想を聞いてやってもよいぞ? どうじゃ? どうじゃ?」
カサネはキャッ!キャッ!と嬉しそうにアサヒを見上げてくる。
アサヒはそんなカサネを静かに見下ろした。
そして……。
「……………………ちっ」
「なんで舌打ちしたんじゃッ!?」
……全然似てねーじゃねーかッ!! 詐欺だろッ!! こんなんッ!!
「……本当に、これがカサネの像なの?…………すぅ〜、はぁ〜…………怒んないから、正直に言ってみて?」
「め、目が怖いんじゃがッ!?」
努めて冷静に会話をするために、深呼吸をしてカサネに質問をした……が、どうやら失敗したようだ。
「な、なんでアサヒが怒っとるのかわからんが……。これは紛れもなく妾の像じゃ」
「なんで嘘つくの?」
「なんで疑うんじゃ!?」
「いや、だって……」
アサヒはもう一度と像を見る。
……うん、やっぱり詐欺だ。
「よ、よく見るのじゃ! この神々しいまでの威厳に、全てを包み込む優しさに溢れた眼差し、これぞまさしく妾そのも……」
「盛りすぎだろ!! あきらかに!!」
「なっ!?」
「顔も体型も大人の女性って感じで全然似てないじゃないか!?」
「い、いや、わ、妾もこんな感じじゃろ?」
「鏡見たことある!? せいぜい似てるところがあるとすれば、服装くらいじゃん!」
「うっ!?」
像もカサネと同じような服装をしていた。和と洋がミックスしたようなデザインのワンピースを。
だが、それだけだ。
まるで大人と子供。同じような服装でも身に付ける対象が違えば全くの別物に見える。
「で、でもでも……か、仮に大人っぽさは似てなかったとしてもじゃ……このおもわず見上げたくなるような溢れ出る神々しさは、妾と瓜二つではないか?」
「どのへんが瓜二つ!? ただのちょっと生意気な子供にしか見えないから!」
「生意気じゃと!? ど、どこがじゃ!? どこが生意気なんじゃッ!?」
ワー、ワー、ヤー、ヤー。
自分の姿をかたどった像だと言い張るカサネ。
それを全力で否定するアサヒ。
両者一歩も引かない。
「それにさ!」
これでは埒が明かないと、手である場所を示しながら告げる。
「全てを包み込む優しさとか、溢れ出る神々しさとかはさ、あーいうのを言うんじゃないの!?」
「ん??…………あ……」
カサネが振り返ると、少し離れたところでラキシアが指を組んで像に祈りを捧げていた。
風になびく撫子色の髪に、凛とした佇まい。
その祈りを捧げる姿はとても美しく、神秘的だった。
「ま、まぁ……その、なんじゃ…………わ、妾ほどではないが、ラキシアもなかなか優しさに溢れておるのぅ…………妾ほどではないが……」
「はぁ……」
どうやら、カサネも同じことを思ったらしい。
負け惜しみっぽいことを言ってきた。おもわずため息がこぼれる。
「とりあえず像のところには来たんだし、信仰心はありそうなの?」
目の前にある像がカサネをかたどったものなのかどうかはあとでしっかり話し合うとして、まずはこの場所に来た目的……信仰心があるのかどうかを確認する。
「ん?? あぁ、忘れとったわ」
「おい」
「どれどれ……」
「お待たせしました。何の話をしてたんですか?」
カサネが確認しようとした瞬間、ラキシアから声をかけられる。
咄嗟に適当な言葉を並べてごまかす。
「え…………あ〜、凄い像だなと思って……」
「当然じゃ!」
「アサヒさんもそう思いますか!?」
「ま、まぁ、うん、思うよ。…………と、ところでラキシアはあれが何の像か知ってるの? さっき祈ってたけど」
「いえ、正直私もわからないんです。かなり昔からあるものだとは思うのですが……」
「そっか……」
「じゃ、じゃから妾の姿をかたど……んぐッ!?」
またうっかり自分の正体を話しそうになったカサネの口を咄嗟に手で押さえる。……本当に隠す気あるのだろうか、この神様は。
ラキシアがそのアサヒの行動に不思議そうに小首を傾げた。
「?? どうかしましたか?」
「あっ、いや!? な、何でもないよ……」
「んーッ! んーッ!」
「ふふ、あいかわらず仲良しさんですね」
「あはは……」
ラキシアは像を静かに見上げた。
アサヒもつられて像を見上げる。
「…………私、あの像は神様をかたどったものじゃないかって思うんです」
「ッ!?…………どうしてそう思うの?」
ラキシアの発言に一瞬ヒヤッとする。アサヒはその動揺を悟られないように冷静に問いかけた。
問われたラキシアはゆっくりと話し出す。
「昔、私がまだ幼かった頃に一度だけここで神様に会ったことがあるんです」
「えっ」
「ッッ!!?」
「まぁ……そのことをお姉ちゃんたちに話しても信じてもらえなかったんですけどね……」
アサヒたちの方を向き、苦笑いを浮かべるラキシア。
アサヒは顔を下に向けてカサネの表情を見た。
「ッ……」
驚きに目を見開いていた。
アサヒはそっとカサネの口を押さえていた手をどける。
ラキシアは穏やかな表情でもう一度像を見上げた。
「でも、私はあのときに出会ったのが神様だって信じています。神様はいつだって私たちのことを見守っていて、あのとき泣いていた私を助けるために地上に降りてきてくれたんだって。だから、ここに来たときは必ず祈りを捧げるようにしています。……あのときのお礼もできてませんし」
「な、なるほど……」
「まぁ、出会えたのがその一回だけなので、周りの人には夢でも見てたんじゃないのか?って言われちゃったんですけどね」
「…………」
「アサヒさん、私たまに思うんです」
ラキシアがこちらに向き直り両手を胸に当てる。少し俯いていたので表情はあまり見えなかった。
「えっと……何を?」
「私の祈りはちゃんと神様に届いてるのかなって…………ちゃんと届いてくれたら嬉しいなって」
「それは……」
「だって、ずっと森の中に一人でいるんですよ? 誰かが祈りを捧げないと、きっと寂しいと思います」
「ッッ」
カサネから息を呑む音が聞こえた。
「だから、もしもこの祈りが届いたら少しは寂しくなくなるかなって。そしたら私も嬉しいですし。もしかしたら、それをきっかけにまた地上に降りてきてくれるかもしれません。そのときは、もっとお話をして、そして…………えっと……お、お友達とかに、なれたら、いいなって」
「…………」
アサヒは静かに話を聞いていた。
ラキシアは俯いていた顔を上げて、恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる。
「神様相手に何を言ってるんですかね、私は……。ただのしがない村娘なのに、神様とお友達になるだなんて………………長々と話をしてすいません、アサヒさん、カサネちゃん」
「あ、いや……」
「…………」
ラキシアが二人に謝罪する。
アサヒは何て答えればいいのかわからず、言葉を詰まらせてしまった。
「さてと、そろそろ村へ向かいましょうか」
「あ、あぁ、行こう」
「カサネちゃんもいいですか?」
「…………」
その声掛けにカサネは答えなかった。
ラキシアが不思議そうに小首を傾げる。
「カサネちゃん?」
「……届いておるぞ」
「えっ」
「カサネ?」
まるで呟くような小さな声だった。
アサヒも不思議に思い、カサネの顔を覗き込もうとしたが……。
「ラキシアの祈りはちゃんと届いておる」
「……カサネちゃ、ッッ!?」
ラキシアがカサネの名前を呼び終える前に、驚きに目を見開いた。
カサネはアサヒに背を向けて立っている。だから、カサネの顔を見ることはできない。いったいどんな顔をしているというのか。
そして、カサネが静かに話し出した。
「安心するんじゃ、ラキシアよ。お主の祈りは、ちゃんと……ちゃんとッ、届いて、おる」
少し、震えた声だった。言葉も途切れ途切れで、後半にいくにつれて聞き取りづらくなっていく。
だが、この言葉をラキシアに届けたいという想いは、しっかりと伝わってきた。
「ラキシアが、望むので、あれば…………いつか、きっと……と、とも、だちに、な、なれる日が…………く、来る、じゃろうて」
「ッッ!!」
ガバッと自分の口に両手を当てるラキシア。
「じゃ、じゃから、その…………ひ、引き続き、いの、祈りを、捧げるのを……わ、わ…………忘れるでないぞッ」
最後の方は少し投げやりな言い方だったが、その言葉の中にはいろんな感情が含まれている気がした。
そして、それを聞いたラキシアは何度も頷いた。
「はい…………はいッ…………必ず!……必ず、続けます!」
「うむ! それで、良いのじゃ!」
カサネは満足そうに頷く。
ラキシアは目元を手で拭い、優しい眼差しでカサネを見つめる。
「カサネちゃんは凄いですね。本当にまた神様に会えそうな気がしてきましたよ」
「ラ、ラキシアが、その…………い、今と変わらず清らかな心を持ち続けていれば、い、いずれまた会えるじゃろぅて」
「はい、楽しみにしています!」
照れくささからなのか、言いながらそっぽを向くカサネ。
ラキシアは笑顔で返事をした。
そして……。
「………………あ、あのッ」
「な、なんじゃ??」
「カサネちゃん、私と、その……お友達に、なりませんか?」
「ッ…………」
「も、もちろん、アサヒさんも」
「え? あ、あぁ、えっと……よ、よろしく」
「よろしくお願いします!」
「…………」
「ほ、ほらッ、カサネもッ」
「うっ…………」
言葉に詰まっているカサネの背中をトンと押し、返事を促す。
カサネはもじもじしながら訥々と話し出した。
「ま、まぁ……その…………ラ、ラキシアが、ど、どうしてもと、言うのであれば、えっと……と、と、と…………とも、だちに、なることも、か、考えてやらんでもないというか……」
……素直じゃないなぁ……。
カサネの返答を聞いておもわずため息をつきそうになったが、グッと堪える。
かたやラキシアは満面の笑顔になり……。
「本当ですか!? よろしくお願いします! カサネちゃん!」
「う、うむ……よ、よろ、よろしく、なのじゃ…………ラ、ラキシア」
チラチラと横目でラキシアの顔を見ながら答えるカサネ。
ラキシアは笑顔でカサネに近づき、頭を撫でようと手を伸ばす。
そして……
「ふふ。私、凄く嬉しいです! カサネちゃんみたいな可愛らしい女の子とお友達になれ……」
「ひっ!!?」
ドンッ!!
「きゃッ」
ドサッ!
カサネがラキシアを突き飛ばした。




