14 『雷が怖い』
「お二人ともお怪我はありませんか?」
「妾は大丈夫じゃ! ラキシアのおかげじゃのぅ!」
「俺も、大丈夫…………ラキシアは怪我とか……」
「良かったぁ……お二人を守ることができて」
アサヒも怪我がないか聞こうと思った。
だが、その前にラキシアが安堵したように微笑む。
……こんなときまで俺たちの心配を……ラキシアの方が大変だったはずなのに。
「まさか一人であの魔物を倒すとは! やるではないか! ラキシア!」
「ふふ、ありがとうございます。これでもちょっとだけ腕に覚えがありますから」
……ちょっとだけ??…………いやいやいや……。
「謙遜するでないぞ、ラキシア。あの剣技や魔法は本当に見事じゃった。さぞ厳しい鍛錬を積んだはずじゃ。そうじゃろぅ?」
カサネがラキシアを称賛する。
だが、言われた本人は慌てたように手を振った。
「ほ、本当に大したことないんですよ? 先生やお姉ちゃんの方がもっと凄いですし。きっと私よりも早く倒せたと思いますから」
……えっ、あれよりも凄いの!?…………マジで??
「ほぅ! それは興味深い! ぜひ会ってみたいものじゃ」
「あ、あとで紹介しますね! 本当に凄いんですから!」
「うむ! 楽しみじゃ!…………それはそうと、慎みの精神は大事じゃが、度を越えると卑屈になる。ラキシアよ、妾からの称賛の言葉を素直に受け取っても良いのではないか?」
「え、えっと……それは……」
「いくらお主の姉やせんせい?とやらが凄かろうと、実際に妾たちを助けてくれたのはラキシアなのじゃから」
「…………」
「妾は本当にラキシアに感謝しておるのじゃぞ?」
ラキシアの目が泳ぐ。カサネの言葉に戸惑っているのがひしひしと伝わってきた。
「え、えっと、えっと……その…………面と向かって言われると……は、恥ずかしいですね……」
「何を言っておる! 良い行いをした者は正しく称賛されるべきじゃ! ラキシアは間違いなく正しいことをした! だからこそ、ちゃんと胸を張るんじゃ!」
「は、はいッ!」
カサネの言葉にラキシアがピシッと背筋を伸ばして返事をする。
それは白い空間でアサヒも言われた言葉だった。
「ちゃんと胸を張ります!」
「うむ! わかればよいのじゃ!」
ラキシアの返事を聞き、えっへん!と頷くカサネ。
そして、ラキシアは微笑みながらしゃがんでカサネの頭を撫でた。
「それにしても、カサネちゃんの言葉には不思議な力がありますね。おもわず聞き入ってしまいます。将来、凄い女性になるかもしれませんね」
「あはは……」
ラキシアの言葉に苦笑いを隠せないアサヒ。かたやカサネはドヤ顔で胸を張る。
「そうじゃろ! そうじゃろ! 妾は凄いじゃろ!」
「はい! 凄いです!」
「ふふん! なんてったって、妾は神なのじゃからのぅ!」
…………なっ!?
「えっ……………………今、なんて……??」
「ん??…………はっ!? いや、ちがッ、こ、これは! その……」
慌てふためくカサネ。
神であることは秘密にしろと自分で言っておきながら、簡単にボロが出てしまう。
……こ、これもう手遅れなんじゃ……。
「そ、そう! かみなりッ! 雷じゃッ! か、雷は怖いのぅと言いたかったんじゃ!」
……いやいやいやいやッ!! 無理があるでしょ!!
「……雷……ですか…………確かに、雷は怖いですね……」
「ラ、ラララ、ラキ、ラキシアも、雷がここ、こ、怖いのか?」
「えぇ、私も雷は苦手です」
「そ、そそそそ、そうかそうか、わ、妾と同じじゃ! き、きぐ、奇遇じゃのぅ!」
「……そうですね」
そう言って、ラキシアが静かに立ち上がる。
そして、アサヒに近づいて耳元に顔を寄せてきた。心なしか真剣な表情に見えたのが、ちょっと怖い。
「ラ、ラキシア?」
「大丈夫ですよ」
「えっ」
「誰にだって、人に言えないことの一つや二つあるのは当然です。私はそのことについて無理に聞き出したりはしません。だから、安心してください」
「え? あ…………ん??」
ラキシアがチラリとカサネを見る。
カサネはビクビクしながらラキシアを見上げていた。
「だって、あのカサネちゃんがあんなに怯えた表情をするだなんて…………きっと、誰にも言えないお辛いことがあったはずです」
「…………」
……いやッ! それ全部カサネの自業自得なんすよッ!?
「ラ、ラララキシア? い、いったいな、ななんの話をしておるんじゃ? わ、妾もか、会話にまぜてほし……」
正体がバレたのかと、恐る恐るラキシアに声をかけるカサネ。
だが、ラキシアはその言葉を遮って勢いよく答えた。
「カサネちゃん! 大丈夫ですからね!」
「え……だ、大丈夫って……な、何が……??」
「ちょっと待っててくださいね! 少しアサヒさんとお話がありますので!」
「え!? ちょ、わ、妾もまぜ……」
「アサヒさん!!」
「は、はいッ!!」
名前を呼びながら、ガバッ!とアサヒの手を握るラキシア。おもわず体に緊張が走る。
「なんでも言ってください!」
「はい!…………はい??」
「私にできることなら、なんでも力になります! だから!」
ラキシアの勢いは止まらない。
その勢いにアサヒはタジタジだ。
「一緒にカサネちゃんを笑顔にしましょう!!」
「は…………はい……」
アサヒはただ頷くことしかできなかった。
そして……
「ラ、ラキシア? わ、妾は、か、雷が怖かった、だけで……」
カサネは今なお同じことを繰り返していた。
……い、いちおうバレてないってことでいいのか、な……??
「さっ、足元に気をつけてくださいね」
「ラ、ラキシア…………わ、妾、一人で歩けるのじゃ……」
「ダメですよ! 森の中は危ないんですから!」
「う、うむ……」
「私の手を離さないでくださいね!」
「うむ……」
ラキシアはカサネの手を握りながら、気遣うように森の中を進む。
今アサヒたちはグラムガンドと戦った場所から、ラキシアの暮らしている村に向かっている途中だ。
「カサネちゃん、何かしてほしいことはありますか?」
「してほしいこと、かの??」
「はい! 私にできることなら何でも言ってください!」
「え、そ、その……きゅ、急に言われても……」
「何でもいいんですよ!」
「えぇ……」
二人の会話を聞きながら、アサヒはさっきのラキシアの言葉を思い出す。
『一緒にカサネちゃんを笑顔にしましょう!!』
「…………」
今のラキシアを見る限り、カサネが神様だということはバレてないはずだ。
そのかわり別の誤解を招いてしまったが……。
「…………」
カサネが助けを求めるような目でこちらを見てくる。
だが、アサヒは静かに首を振った。
「…………」
……身から出た錆だ。あきらめろ。
「ッッ!?」
カサネはアサヒの無言の返答に愕然としていた。……見なかったことにする。
そして、カサネは項垂れながら手を引かれていった。
「…………あ」
そのうしろ姿を見ながら、ふと思い出す。
カサネの姿をかたどった像のことを。
「ねぇ、ラキシア?」
「あ、はい。なんですか? アサヒさん」
「この近くに、神さ…………い、いや、えっと……ぞ、像があるって聞いたことがあるんだけど、知ってる?」
「知ってますよ。ちょうど村に向かう途中にあるので、見てみますか?」
「あ、うん。見てみたい」
「わ、妾も見てみたいのじゃ」
「わかりました。じゃあ、ご案内しますね」
「ありがとう」
「ありがとうなのじゃ」
「いえいえ、このくらいお安い御用です」
ラキシアはアサヒたちの頼みを快く引き受けてくれた。




