プロローグ 『叫び』
一人の少年が歩いている。
辺りは緑一色。地面はデコボコで歩きにくい。そして、人の気配もない。……当然だ。今、少年が歩いている場所は森の中なのだから。
「ぅ、うぅ…………」
歩き始めて、どれくらいの時間が経過しただろうか。森から出ることを目的に休憩も取らずに歩き続けているのだが、一向に出られる気配がない。少年の心を焦りの感情が支配していく。
「……く…………ぅ……」
「…………」
幸い、息切れや疲労感などはほとんどない。そのおかげで、こうやって歩き続けることができる。あとは……
「……う、うぅ……」
「大丈夫か!?」
背中におぶっている幼い見た目の少女を助けることができれば。
苦しそうな息づかいが聞こえてくる。少年は背中に向かって呼びかけた。返事はすぐに返ってきた。
「……すまん」
「…………」
今にも消え入りそうな声。よっぽど苦しいのか、話す言葉は途切れ途切れで、全部を聞き取ることができなかった。
「……苦労を、かけて…………」
「……ッ!!」
少年は大声で背中に話しかける。もはや、叫んでると言い換えてもいい。その大声に対して、背中から聞こえてくる声の大きさはあまりにも小さい。
そして……。
「あっ!?」
少年の首元に回していた両腕がダラリと下にたれる。そのせいでバランスを崩し、危うく背中から落としそうになった。急いで体を支えて、近くにある木の根元に寝かせる。……苦しそうな表情を浮かべていた。
「俺の声が聞こえるか!?」
「うぅ……く、苦しぃ…………」
少年は咄嗟に手を握り声をかけ続ける。気休めだとわかっていても、そうすることしかできなかった。
「…………」
「おいッ! 返事しろよッ!」
少年の声だけが森の中で響く。
「…………ぁ…………あれは…………」
そのとき、目の前の木が目に入った。
「嘘、だろ……」
見覚えのある木……少年たちは同じ場所に戻ってきていた。
「はっ…………」
目の前の木がこちらを嘲笑ってるように思えた。少年は体から力が抜けたように息を吐き、恨み言のように呟く。
「ふざけんな……ふざけんなッ……」
目の前には今にも死んでしまいそうに浅い呼吸を繰り返す少女。
今からこの森を抜けるのも、この子を助けるのも無理だと、そう思った。
「ふざけんなーーーッッ!!!」
少年は叫んだ。