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彼女についてどこから思い出そうか。やはり、出会った日のことからだろうか。
僕が涼香と初めて話した時の記憶だ。
僕は大学で永久凍土の探索グループが手に入れた氷塊を研究するチームにいて、僕は個人的に、永久凍土ウィルスについての論文を完成させた。
”地球温暖化が進むにつれて永久凍土が溶ける。それにより、ウィルスの感染が広がる”
研究の結果、未来はそうなると僕は考えて、やっとの思いで論文にした。だが、周りはそんなの無関心で、タイトルを見ても笑いものにし、中身など読んでくれる人なんて殆どいなかった。
「頭の良い人なんですね。永久凍土ウィルスについての着目は私も共感できます」
大学の講演室で一人で語りだす彼女は、涼香である。
涼香が僕に向けてはじめて言ったのは誉め言葉であった。
「それは、どうも」
「今のままだと近い未来は永久凍土が溶け、ウィルスが発生し、そのウィルスにより人類は亡びることでしょう。この論文を作り上げた張本人さんは未来なんて関係ないとは思わないはずです。それにしても、これは今から行動しないと一刻を争う重大な事態になりますよ」
涼香は至って真剣のようだが、僕はその時、彼女の真剣さに少しばかり引いてしまった。
中二病を拗らせた大学生。申し訳ないが、これが初めて涼香と話した時の印象だ。
「僕は研究にて予測したまでにすぎないけれども、君はどうして未来のことなんてわかるのさ。そして君は誰なのさ」
腕を組んでいた。
「それは――未来予知です。そして、私の名前は涼香。教えたからには忘れないでくださいね」
涼香は実にフラットに重要であろうキーワードを口にした。
「涼香、か。それで君は予知能力を持っていると?それじゃあ、今何か予知してみてよ」
「予知能力はそう簡単に発動できるものではないんですよ。私が人類滅亡について予知できたのも最初で最後かもしれませんしね」
「ん? 最初で最後? それじゃあ未来予知自体したのは今回が初めてと?」
「……そうなりますが」
涼香がぼそっと歯切れ悪く言う。
僕は危うく失笑。
そんな初めての予知をよく、信じることが出来たな。僕だったら予知とすら思わないことだろう。
「よく信じたな」
「自分の見たこと、聞いたこと、思ったことを信じるのは普通のことだと思いますけど……」
当たり前で何がおかしい? という表情をしながら、涼香に見つめられた。整った顔立ちで綺麗だなぁ……。
「ごめん、何もおかしいことなんてなかった。君の考えは確かだし当たり前だよな、そんなの」
涼香は「はい……」と小さく呟く。
「まあ、君のよ――」
「涼香です」
「涼香の予知能力は一旦置いておくとして、僕が研究してきた永久凍土ウィルスの話を信じていることは確かなわけ?」
「信じています。確実に」
「それは本当にうれしいな」
「私も陸さんに会えて嬉しいです」
屈託のない満面の笑みをする涼香。
――あ、好きだ――
涼香の笑顔を見た僕は秒速単位で彼女に興味を持ってしまった。これは……おそらく……いや確実に、惚れたのだろう。惚れてしまったに違いない。
「僕と」「私は」
言葉が被ってしまった。僕は彼女に先を譲る。
「私は、陸さんのパートナーになりたいです」
声を張って彼女に言われた。
僕が言おうとしていた言葉、「僕と一緒に未来の人類を守らないか」ほぼほぼ、似たような台詞だった。先を越された気分だ。だが、僕はその言葉が純粋に嬉しかった。
そうして、僕と涼香は永久凍土の解凍速度や、永久凍土から発生するであろうウィルスや生物について研究をすることになった。
具体的にどうやって?
未来について証明するには、確信的な何かを見せつけなければならない。涼香のできるであろう予知能力を使わないといけないが、しかし、本人が最初で最後かもしれないと言ってる以上、確実性はおそらく半分半分といったところだろう。それでも少しは期待しておこうじゃないか。信じてみようじゃないか。面白いじゃないか。