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 なんでもない昼だ。僕、美能陸は二階の部屋のベッドで仰向けに横たわっていた。部屋を舞う埃たちが、太陽に照らされて光っているのが見える。


 僕は今、事務所の二階を借りて生活をしている。提供してくれたのは一応の上司である代々木ミチさん。


 トウキョウのある繁華街のスナックで知り合ったのだが、ちょうど僕が涼香の消失に苦しんでいたところで、よく話を聞いてもらっていたのだ。


 スナックのママとかではなく、ただの常連ってだけで、たまに来るだけの僕の話もしっかり聞いてくれるとても優しい人だ。


 涼香の消失に悩んでいることを知った、ミチさんは、僕に同情してくれたのか話を切り出してくれた。


「アタシ、陸ちゃんのこと気に入っちゃったわ。興味があったら、ここへいらっしゃい」


 どうやら僕はミチさんに気に入られたらしく、一枚の名刺を貰ったんだ。


 その後、スナックの中ではよく見ていなかったが、家に帰って、なんとなしに貰った名刺を取り出して掲げてみた。


 ”代々木ミチ”


 この時、僕は初めてミチさんの名字を知った。ミチはそのまま思っていた通りのミチで偽名でもなんでもなかった。その名刺の左上には「探偵」と小さく書かれていた。


 ――探偵。


 僕は直ぐにミチさんのところへ行き話に行った。


「ミチさん、急にすみませんね」


「あら、来てくれたのね、どう?」


「僕は……ミチさんと一緒に――」




 僕はミチさんと一緒に仕事をすることにしたのだ。


仕事内容や、必要な技術などは簡単に教えてくれたミチさんであったが、正直、僕にはあんまり期待をしていないらしい。


「まあ、最初は好きなようにやってみたらいいわ。涼香ちゃん、見つかるといいわね」


 基本的にミチさんは、僕の行動に文句を言ったり、注意をしたりしない人で、ミチさんはミチさんなりに自分の仕事をこなしていた。


 だから、僕も自分の思うままに涼香を探してみた。


 涼香の捜索に行き詰っていると、ミチさんが軽く提案を持ち掛けてきてくれた。


「陸ちゃん最近煮詰まりすぎじゃない?ちょっと人探しの息抜きに、簡単な浮気調査をアタシと一緒にしてみるのはどうかしら」


「浮気調査……? まあ、良いですけど……」


 全く興味はなかったが、別に断る理由もなかったので僕はミチさんと調査をすることにした。


「それじゃあ、なりきらないといけないわね」


 ミチさんは気合が入ったのか準備に取り掛かる。僕はされるがままで、気が付いたら、なんと……女装をしていた。


「これで、行けと?」


 僕は何気に人生で初めてスカートを履いた。


「そうよ」


 ミチさんは当たり前のように言って、外出しようとする。


「待ってください。ミチさんも、こんな派手な格好してバレないんですか? いつもこんな恰好なんですか? 着替えた方が良いのでは?」


「もう、うるさいわねぇ」


 何回か口論はしたが、仕方なく僕は女装のままミチさんとカフェまでやって来た。


「二人ですよ」


 そうして、自然に窓際の席に座る。


ミチさん的には今日の僕たちは、カフェで休憩をするオネエ友達と言う設定らしい。


席からは壁側の席がちょうど見える。


僕はきっと、その壁側の席に浮気相手が来るのだと思っていた。が、一向に現れる気配がない。それからもう二時間待った。その間僕たちはコーヒーを五杯もおかわりしていた。トイレは余裕をもって交代で行っていたが、飲む度にトイレが近くなって仕方がなかった。


結局その日は何も収穫も得られず、ミチさんと僕が飲んだコーヒー代、併せて十杯分の三千円を払って帰ってきたのだが。


 僕はあんなに恥ずかしい思いをしたのに何も得られなかったことが嫌でもう浮気調査なんかしないと決めた。


 その後、浮気調査を続けていたミチさんから聞いたが、浮気はどうやら勘違いだったらしい。


 僕は再び、涼香の捜索をすることにしたのだが、それも何の進展もなしに三か月でやる気が削がれてしまった。


それからは、僕の生き方はまるっきり変わってしまい、完全にグレードダウンしてしまった。


 涼香の失踪から三か月、僕は探偵業務への意欲も低下してしまい、日々、ただ時を過ごすだけになっていた。何にもない、魅力の欠片もない堕落した生活だ。勿論、涼香の失踪について、独自に調査はしてはみたものの、収穫できた情報は一つもなく、疑問符が浮かび上がるだけであった。



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