影々呑々
すぐ近所の学校の体育館で影絵劇がやられるというので見てきた。劇にはなんとなく中国の雰囲気があって、お姫様と王子様の恋の話だった。結ばれることなく刑によって殺された王子を、生き残ったお姫様が龍になって天国まで迎えにいって、そのまま二人はそれぞれ死人、龍の体から人の体に戻ることなく遥か遠くの空で旅を続けている、そういう終わりだった。
話したいのはそのお姫様が龍に変身するシーンなのだが、これは影絵である。その演出は他に見たことのない、スクリーンに立っているお姫様の服から首がすっぽ抜けて、裏で部品の変形か傾きの変更かしているのか、そのまま一挙にスクリーンに巨大な龍が一匹ズデンという、シルエットだけならモータルコンバット級にグロいやり方なのだった。しかもすごいのは、この演出が特に可笑しかったということはなく、客はみんな唯々感動させられたという事実で、どうやらあの首すっぽ抜け変身は、影絵劇の枠にしっかりと収まった合理的表現方法らしい。
本当にいいものを見た、そんな気持ちで帰りに町のお酒屋さんに立ち寄り、家に置いておく日本酒やウィスキーを買い足した。どれも安くて美味いと分かりきった普段慣れの買い物をした。
以前にもマンガやドット絵ゲーにこれに似た発見があった。マンガやドット絵ゲーのノリをリアルCGや実写でまんま再現しても、イマイチ気持ち悪いのである。お姫様の変身シーンをいくらすごい映像技術で実写・アニメ再現したとしても、影絵劇の見せた感動を超えることは決してないだろう。
酒を飲んでいると評論家気取りがひどくなった。だから一人で家飲みというのは実は一理ある。
それにこんな風にSpotify、bandcamp、soundcloudで知らない音楽を掘りながらお酒を飲むのは結構楽しい。ここ数年に出たレトロエレクトリック、実際に古くてすごくダサい語り入り女優ソング。一応付け付け加えるとダサイってのは一つのジャンルだ。ダサさがむしろ刺激で、もうすでにかっこいいのだ……昨年アメリカで流行ったという日本の昔のゲーム会社のコマーシャルバンド、60年代ポップス、フランス語のギャングレゲエ、韓国の大学生コンビが伝統楽器……。
井上陽水っぽさを感じる新人ボカロメーカーを見つけたところで晩酌は終わった。
とっくに日本酒が一本空いて、もう一本の日本酒と他のウィスキーの蓋も開けた。あとは寝るだけだった。ポップスの酒の泡みたいな言葉の響きが頭でしゅわしゅわしていた。泡ものをあまり飲んだことがないことに気づく前に意識は落ちていた。