⭕ 女装兄弟 5
片付けを嫌がって逃げ回るシュンシュンの事は諦めて、1人で室内の片付けをしていると、施錠していたドアの鍵が解錠される音がした。
誰かが鍵を開けたんだ。
マオ
「 玄武さんかな? 」
片付けている手を止めて、ドアの方を見ているとドアが開かれる。
廊下から室内へ入って来たのは玄武さん──じゃなくて、マネージャーの〈 器人形 〉でもなくて──、全く以て知らない人だった。
然も、女性だ。
霄囹
「 誰だ、お前はぁ!! 」
ベッドの中で怪しくモゾモゾ動いていたシュンシュンもドアの鍵が開けられた音に気が付いて、ドアを見ていたみたいだ。
当然、シュンシュンもオレと同様、玄武さんが観光から戻って来たんだと思っていたんだろう。
室内に入って来た見ず知らずの女性に対して、敵意を剥き出してベッドの上から声を荒げて叫ぶ。
シュンシュン程ではないにしても、オレだって室内に入って来たのが玄武さんや〈 器人形 〉じゃなくて驚いている。
思考が一瞬でも停止したんだから、それぐらいは驚いたって事だ。
マオ
「 ──シュンシュン、落ち着け!
おすわり!! 」
霄囹
「 僕を犬扱いするな!
おい、お前!
何で僕の玄武が宿泊してる部屋の鍵を持ってるんだ!! 」
マオ
「 シュンシュン!
どうどう……。
玄武さんはシュンシュンのじゃないだろ 」
霄囹
「 僕を馬扱いするな!
お前──、僕の玄武を夜這いに来たんだな!
破廉恥な売女めぇ!! 」
マオ
「 シュンシュン!
一方的に責めるなよ!
決め付けるのは良くないだろ。
それに今は昼前だろ。
──取り敢えず、ベッドから出ろよ! 」
霄囹
「 マオ──!
お前は何とも思わないのか?
僕達の玄武が見知らぬ女に犯され── 」
マオ
「 霄囹、黙ってろ! 」
完全に目の前の女性に対して、敵意を剥き出して喧嘩腰のシュンシュンを黙らせたオレは、ドアの前で立ち止まっている女性に目を向ける。
顔が青ざめているみたいだ。
仮に目の前の女性が玄武さんの知り合いだと仮定して──、この状況を考えてみる。
十中八九、明らかに怪しい人物は女性じゃなくて、シュンシュンとオレの方だ。
警察を呼ばれたら面倒な事になる事、間違いなしだ。
男の姿なら「 玄武の兄でぇす! 」で解決も出来るだろうけど、今のオレは女装中だし、シュンシュンはモロに女性だ。
これじゃあ、「 初めまして。玄武の兄でぇす 」は使えない。
当然「 初めまして。玄武の姉でぇす 」も無理だ。
厳蒔玄武は厳蒔弓弦の双子の兄で、上には兄が3人居る5人兄弟の4男っていう設定になっている。
姉だと言っても疑われるだけで、信じてはもらえないだろう。
玄武さんの友達……とか??
でも10歳の玄武さんに15歳と16歳の友達が居るとか怪しいだろう!
然も、女だし……。
だけど、此処を切り抜けないと、ヤバくて面倒な事になる。
今のシュンシュンは当てに出来ないし、オレが何とかしないとだ!!
マオ
「 ──初めましてぇ!
霄──春囹が失礼な事を連発して御免なさい…。
玄武が観光から帰って来たのかと思っていたから──。
えぇと──、オレはマオ!
春囹とオレは玄武の囲碁友でぇす! 」
笑顔だ、笑顔で乗り切るんだ!
怪しいだろうけど、囲碁友なら年齢も性別も関係無いもんな?
多分、大丈夫だと思う。
思いたい!!
見知らぬ女性
「 …………玄武君の囲碁友達……。
女の子の………… 」
何か、滅茶苦茶ショックを受けてるみたいだ。
「 初めましてぇ! 囲碁友でぇす 」作戦は失敗かな??
見知らぬ女性
「 玄武君……部屋に女の子を入れるなんて──、おませさんな子!
囲碁友達って話だけど──、本当かしら?
玄武君は10歳だけど、プロ棋士なのよ!
まともに玄武君の相手が出来るって言うの? 」
マオ
「 流石にプロ棋士になった玄武には敵わないけど、昔馴染みの囲碁友ってのは事実だよ。
何なら対局してみる?
丁度、碁盤もあるしさ 」
見知らぬ女性
「 …………良いでしょう。
受けて立ってあげる!
但し、私も玄武と同じプロ棋士よ!
勝てるなんて思わないの事ね! 」
という訳で──、オレとシュンシュンは自称プロ棋士のお姉さんと囲碁をする事になった。
散々セロやマオキノ,セノコンを相手に碁を打っていたんだ。
負ける事は無いだろう。
マオ
「 シュンシュン、どっちが先に打つ? 」
霄囹
「 僕が相手してやるよ。
2度と “ プロ棋士 ” なんて名乗れない様にコテンパンに負かしてやる!
碁石も触れないぐらい心を折ってやる!!
覚悟しろよ、泥棒猫めぇ!! 」
マオ
「 シュンシュン、泥棒猫は言い過ぎだぞ。
相手はプロ棋士なんだし、上手く手加減してやれよ。
女性棋士って少ないみたいだしさ、数を減らしたら拙いかもだろ? 」
霄囹
「 知った事かよ。
僕に負ける様じゃあ、上には上がれないぞ!
勝負の厳しさを叩き込んで殺るよ! 」
マオ
「 シュンシュン、殺ったら駄目だからな!
──えぇと、じゃあ……お姉さんの最初の相手はシュンシュンです 」
テーブルの上に折り畳み式の碁盤を広げて、碁笥も置く。
シュンシュンと自称プロ棋士のお姉さんが椅子に腰を下ろして座る。
霄囹
「 ハンデをやるよ。
僕は白で良い。
好きな場所に10子置かせてやるよ 」
マオ
「 シュンシュン!?
それは流石に相手に失礼じゃないか?
10子も置いて負けたりでもしたら── 」
霄囹
「 僕は “ 心を折る ” って言ったぞ。
足りなきゃ20子置いたって構わない 」
マオ
「 シュンシュン…… 」
自称女流棋士
「 置石は結構よ。
貴女、未だ未成年でしょ?
未成年相手に置石なんて必要ないわ。
ハンデなんて要りません。
貴女が黒石で良いわよ 」
マオ
「 シュンシュン、お姉さんを怒らせちゃったみたいだぞ 」
霄囹
「 僕に黒石を譲るか。
後悔するぞ。
どんな顔で絶望するのか見物だな! 」
自称女流棋士
「 私は貴女に負けません!
置石は2子 ~ 9子と決まっているのよ。
それすら知らない素人に負けるものですか! 」
そんな訳で──、見えない火花をバチバチと散らせながらの対局が始まった。